鈴木-宮浦カップリングを古舘伊知郎に実況させてみた

2010年のノーベル化学賞はノーベル化学賞にR. Heck・鈴木章・根岸英一のクロスカップリングに送られました。このパラジウムを用いたクロスカップリングは沢山の種類があり、また多くの方が関わっているためノーベル化学賞を受賞する研究内容ではあるが、誰が受賞するのか決めるのは難しいので敬遠されているのではないかなどと言われていました。多方面で使われている、という理由で3人が選ばれたのだと思いますが、どなたが受賞してもおかしくなはかったと思います。

日本人が受賞したということで各局がこぞって報道し、受賞者の一人である鈴木先生は生出演に引っ張りだこでしたが、ちゃんとHeck先生のことも報道しましょうよ。テレビ局が鈴木-宮浦カップリングの説明をしておりましたが、急ごしらえの説明図ということもあり、ちょっと事実とは異なる説明もあったようですが、これは専門家だから仕方のないことだと思います。報道ステーションで古舘伊知郎が誤った構造式を書き、失笑を買っておりましたが、これもまぁ仕方のないことだと思います。というわけで、汚名返上というわけで古舘伊知郎に鈴木-宮浦反応の実況させてみた。ただし、大体あってるなので雰囲気だけ感じ取って頂ければ幸いです。

化学番付

さぁ、やってまいりました、有機化学実験室。
普段は見ることのできないガラス器具たちが、俺たちを使ってくれと言わんばかりに照り返している。
茶褐色に色付けられた試薬瓶*1たちも、次の反応はまだかといきり立っております。
数々の有機合成が行われてきたこのドラフト*2の中で、今日は一体どんな反応を見せてくれるのか。
化合物と化合物とのぶつかり合い、化学反応が今始まります!


さぁまず登場したのは、ナス型のしなやかなフォルムを持ち、二つの口を有する二口フラスコ*3。
さぁそこへ、ラグビーボールのような撹拌子*4が、まさに、化学反応の花園へとトライするかのように、華麗に滑り込んで行く!*5


まず登場したのは、ハロゲン化アリール。*6
有機化学の王とでも言うべき、この六角形のコロシアム、あのケクレが夢にみたウロボロス環は何を思ってハロゲン化されたのか。*7
計量を終えて、早くハロゲンを脱離しろと言わんばかりの勢いでメーンスタジアムであるフラスコ内へ突入だ!


対するのは…おやぁ、対する化合物もアリールだ!
しかも、ホウ素を有している!かのブラウン博士が、その道開いたホウ素化アリールの登場だぁ。*8
まさかの鈴木カップリングが行われようとしているのかっ!ブラウン博士とその弟子である鈴木博士、ダブルノーベル賞。まさに向かうところ敵なしであります!
ホウ素アリールが、計量を終えゆっくりとフラスコ内へ。ノーベル賞の風格が漂っております。


さぁそこへ、有機化合物たちにとっての母とも言うべき有機溶媒がゆっくりとそそがれて行きます。*9
おっと?!来た。ここで生命の源、水の投入だ。
本来有機溶媒と水はまさに水と油。本来であっては行けない2人。
有機化学反応の天敵たる水を敢えて投入してきた!*10
これぞホウ素アリールの特権だぁ!*11
これこそが鈴木カップリングの利点であります。


つぎは何が…あっと来た!バラジウム(0)だ!
数々の炭素炭素間結合を取り持ってきカップリングのおすすめが満を持しての登場だぁ。*12


ん?ここで、フラスコに隆起した筋肉を思わせる螺旋型のチューブの入った冷却管が差し込まれたぁ
さぁ、冷却管に繋がれたフラスコが油浴の中へ。*13
徐々に温度が上がってくる!まさに、我慢比べ。*14
しかし、化学反応にはつきものだ。これを超えなければ新規化合物は有り得ない。
さぁ徐々に反応が活性化してきた。
ラグビーボール型の撹拌子もグルグルと回っている。あまり回りすぎるとバターになるぞぉ。


来た。先ずパラジウムが来た。ハロゲン化アリールに酸化的付加して食らいついた。離さない!
おや?おかしい。対するホウ素アリールは元気が無い。
どうした?これではカップリングが進行しない…
あ〜っと、しまった!塩基性条件下でないっ!これではホウ素アリールも元気が出ない!*15。


しかし、大丈夫だ問題ない!一番いいベースを頼むと、ここでセコンドが急遽塩基を投入だ!
来た、来た!ホウ素アリールが活性化してきた!やった!パラジウムが取り持った!カップリング成功だ!*16


仲を取り持ったパラジウムが離れて行く。後は若い二人でということか。
さぁパラジウムがまた動きだした、新たなカップリングを求めて動きたした!どんどんと仲を取り持って行く!
そうまさにこれはサイクル!これが触媒の強みだ!


反応終了!*17
いゃあ素晴らしい反応でした。私も興奮が収まりません。
本日の反応は鈴木ー宮浦カップリング反応、実況は古舘がお送り致しました。
(補足:本来はこの後分離精製し、化合物ができた事を種々の実験手法を用いて確認しますが、長くなるので割愛しました)

*1:紫外線による分解を守るため

*2:ドラフトチャンバー。有害物を取り扱う際に使用する排気装置で、その中で実験をおこうなうことができる

*3:お好みで

*4:表面はテフロンで中心に磁石が入っている。磁石で回転させることで、フラスコ内を撹拌できる

*5:垂直に落とすと加速でガラスが割れる。初心者にありがちな失敗

*6:ベンゼン環にハロゲン化物である塩素や臭素などが付加したもの

*7:ケクレはベンゼン環の構造を悩みに悩み、夢に満たウロボロス環に着想を得たという

*8:ブラウン先生はホウ素有機化合物の合成でノーベル賞を受賞

*9:有機合成は基本的に有機溶媒中で行ないます

*10:一般的に有機合成に水は御法度

*11:有機ホウ素物は水に安定

*12:パラジウムは神。ただし、薬品やデバイスの材料を合成する場合は残留するパラジウムを取り除くのが厄介なことがあります

*13:オイルバスと呼ばれます。100度以上に加熱することができます

*14:一般的に、温度をた方が分子の衝突頻度が高くなり反応早く進行します。もちろん例外もあります

*15:鈴木-宮浦カップリングは塩基性条件下でないと進行しない。そのため、化合物が塩基性、つまりアルカリに不安定な化合物は使えない

*16:実際は目で見えないので、薄層クロマトグラフィーなどを用いて反応を追います

*17:鈴木-宮浦カップリングは進行が早いです。一般的な反応は一晩くらい撹拌します