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2014.07.20

『小保方処分問題』で知識人層から見放されてしまいそうな安倍政権について

 ちょっと頭の痛い話として、下村博文文部大臣(早稲田卒)の影響もあってか、例の小保方晴子処分問題が長引きまくってます。もちろん、へたうま系女子として小保方に女性としての魅力がありやなしやみたいな話が下世話に流通し、いまだに世情では話題に上ることが多い一方で、学術系の問題でおきているスキャンダルの類はあまり関心が寄せられず、燻ったままになってしまっている重要問題も多々あるわけですよ。

 最近だと、J-ADNI然り、東京大学ノバルティスファーマの問題然り、武田薬品の京都大学の問題などなど、さまざまな「臨床と不正」の問題が出回っているところなのですが、あまりにも小保方問題が「面白い」ため、社会問題として注目を浴びるマーケティングに失敗した重要案件は、関係者だけでひっそりと処分が決まってしまうという事例が増えているように思います。

 もちろん、小保方はとっとこ処分するべきだし、早稲田が何に遠慮しているのかは知らないがD論が15箇所剽窃されているのであれば論文において重要かどうかは別として不正と認定し小保方の博士号を剥奪するのが筋だろうと思うわけですよ。たとえ法的に見て小保方から地位保全でも申し立てられると訴訟に勝てない可能性が一応あるのないのという意見もありますが、仮に訴訟が提起されるのだとしても己の社会正義に照らし合わせて必要とされる処分を決断するのがマネジメントというものです。そんなの、当たり前のことじゃないですか。しかし、そういう当たり前のことが当たり前に処分されず、なんか知らないけど下村大臣まで出てきて小保方に実験参加をさせてどうのこうのというのは、非常に劣悪な時間稼ぎであり、別の意図がある話なのかと邪推して然るべきところまで来ているように思うわけですね。

 お陰で、早稲田はディプロマミルだと海外からも言われる状態となり、あれやこれやハレーションを起こしておりまして、騒ぎが小保方問題を超えて発動してしまっている現状があるようです。というのも、早稲田の論文自体が信用できないものだという話が処分されないということは、実は他にもD論において多数の論文で剽窃や無断引用の類が発見され、次々と博士が指摘されて博士号を剥奪されかねないという総崩れ現象が起きる可能性があるといいます。あいにく、私個人は文部省にあまり知己がいないので限られた意見しか直接聞こえてきませんけれども、小保方自らが自己弁護した言葉で象徴的であった「(画像の転用や他論文からの剽窃が)悪いことだと思っていなかった」というのは、日本の高等教育において普遍的に行われ、また指導でも主査以下が指導の中で「止むを得ないもの」と承知で学生にそう論文を書かせている可能性が否定できないのだ、という説明をされます。そうなると、過去の論文をひっくり返して大検証大会が行われ、意外な大物学者の不正論文の類が山と出てきて収拾がつかなくなる可能性を考えるとうっかり踏み込めないというのが実情なのかもしれません。

 しかしながら、このような問題というのは日本にもかねてから沢山あって、私がその話を文科省の人から伺ったときは「ああ、姉歯の耐震偽装問題に似ているな」と思ったわけです。あれは、他の設計事務所でも強度計算に手心を加えることは過去からずいぶん繰り返し行われていると囁かれていながら、ある種スケープゴートとして姉歯設計事務所だけが世間のバッシングに晒される形で終息したという事例です。真面目に調べれば、それこそ数千単位で問題のある強度計算のまま建ってしまった建築物があって、これはこれで危険だということなんですけれども、それをやり始めると業界が崩壊するので何となく収まった、という感じですね。

 このあたりは政治の世界であり、玉虫色で解決するほか無い、という意味で、文科省と早稲田が鳩首会談の末に苦悩してひねり出した答えが調査委員会による「小保方博士号剥奪すべきでない」の結論ではなかったかと思います。そして、暗い思いになるのは、これが私学の雄の一角である早稲田をして、このような道筋でしか是正の方策を示せないのか、という点です。本当の意味で丸く収まる解決を目指していくならば、理研の処分がぐずぐずと進まないうちに早稲田として厳正な処分を行う方針を示し、率先して襟を正す一方で他の人物の博士号の論文問題など類似の事案についても引き続き調査をする、と宣言しておけば、それこそ小保方問題は処理され忘れられ、いくらでも時間を稼いでいるうちにうやむやにする時間的猶予はできたことでしょう。うやむやにしろと言っているのではなく、その是正で起こる混乱を調整することもまた、不祥事におけるダメージコントロールであるということです。

 そうであるが故に、早稲田の対応は残念としか言いようが無いし、同様に理研の話にならないっぷりも厳しく糾弾されるべきで、さらには文科省、他大学の動きもいろいろと残念なものだとしか言いようがありません。もはやこれは、知識人層と政治の間の大きな溝を残した事件として、いつまでも記憶されることでありましょう。と同時に、大学のガバナンスにおいても、有識者懇談会の類では安倍政権の対応には失望したという意見が百出する状態で、いままでも決して知識人層からの支持が厚かったわけではない安倍政権がさらに見放される恐れはやはりあるのではないかと思います。

 不祥事に関しては特に問題に際し関係者一同が問題を認め、対処を行い、処分を厳正に行うことのみが解決策であり、政治に求められていることはリーダーシップを発揮しようとする統治者・責任者が一歩を踏み出しやすい環境を作ることなのだ、ということは、よく理解しておく必要があるのではないでしょうか。

 最後まで私のポジショントークをお読みくださり本当にありがとうございました。


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    やまもといちろう

    ブロガー・投資家・イレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役。
    著書に「ネットビジネスの終わり (Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など多数。

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