佐々木俊尚、ゴーストライターを語る
それはエコシステムなのではなくて、単なる下請け構造ではないのか…。
書籍のゴーストライターというエコシステム
http://www.pressa.jp/blog/2014/03/post-14.html
ただ、佐々木さんが本稿で書いておられることはその通り、ごもっともで、佐々木さん自身でも名前を出して何らか書いて読まれるという力があるからこそ論じている内容に説得力があるんだろうと思うわけです。
ある意味で、仕組みとして「モノを書く時間はないけど、文字で伝えるニーズのある人たち」の知識を書籍というパッケージで世に出すことで、広く読者に読ませることができる、という点で、佐々木さんのご指摘どおりの世界が広がっているのであります。確かに、そこに着眼点を置く限り、佐々木さんの論述はとても腑に落ちます。
堀江貴文の小説が自分の手によるものではないことも騒ぎになっておりますね。
佐藤秀峰氏がブログで「堀江貴文氏の小説に『代筆者』」 堀江氏のツイッター、8日昼現在は反応なし
http://www.j-cast.com/2014/03/08198700.html
ホリエモンにもゴーストライターが!? 「実際には堀江さんは文章を書いていません」と漫画家佐藤秀峰さんが明かす
http://getnews.jp/archives/529062
いま手元に『拝金』はありませんが(押入れのどこかに必ずあるはずだ…)、記憶の限りでは執筆者についての標記がどっかにあって、読んだとき「あー、誰か書き手がまとめたんだな」としか思っていませんでした。
それが、まさか佐藤秀峰によって蒸し返されるとは恐ろしい。
で、このあたりの文脈というのは佐々木さんのゴースト話とちょっと軸足が違ってて、佐々木さんは確かに堀江のビジネス書のゴーストライティングをしていたし、そのことは隠さずにいろんなところでお話をされているわけです。
それは、ビジネス話をするにあたって、例えば偉大な現役経営者が多忙な時間を縫って書き慣れない書籍を書くのは不合理であるとして、口述筆記で必要なエッセンスをゴーストライターに伝え、それを本にまとめるという作業は読者にとっても合理的だという話であります。
一方、小説の執筆というのは著者名で発表する以上は、基本的にその著者の手による作品であることが前提となるわけであって、読み手もかなりの部分がその書き手のイメージやコンテクスト、文章力といったところに期待をして読むことになります。
これは、先日の佐村河内守事件と同じ文脈で、全聾の作曲家が現代のベートーヴェンと祭り上げられて、一定のコンテクストを元に音楽を聴かせていた事例に近しいものがあります。
佐村河内守さんを告発した神山典士記者「名誉毀損で訴えるなんてありえない」
http://www.huffingtonpost.jp/2014/03/07/samuragochi_n_4923262.html
また、元毎日新聞の佐々木さんの仰る「ジャーナリズム業界」なるものが、現役新聞記者である神田大介さんから真っ向から全否定されているのも興味深いところです。
私が堀江さんのゴースト本を手がけたのは秘密でもなんでもなく、イベント含めてあちこちで喋ってる周知の事実なんだけど「佐々木は堀江ゴーストを隠してる」と思いたがる人が多いみたいね。ジャーナリズム業界に身を置いてない人がそう思うのは仕方ないかもしれませんが……。
— 佐々木俊尚 (@sasakitoshinao) 2014, 3月 8
出版業界では常識なのかもしれませんが、「ジャーナリズム業界のことを知ってる人なら、こんなの当たり前の話」という言い方は違和感。 http://t.co/lx3E8OcLqP
— 神田大介 (@kanda_daisuke) 2014, 3月 8
このあたり、週刊誌などでも名前のあるジャーナリストの署名記事に、編集部の記者さんや外部のデータマン、リサーチャーが起用されるのと似た構造があるのかもしれません。
先日、ゴーストライターというか存在がゴーストな感じの神田憲行さんが地味に界隈の常識をまとめておられたので、是非ご一読を。
ゴーストライターというお仕事
http://blog.livedoor.jp/norikanda/archives/51845766.html
突き詰めれば、著者や作曲者が実際に書いていることの重要性というのは、読み手や聴き手が「ゴーストが使われている」ことに対しての納得性に尽きるんだと思います。堀江が事業について語ることに関してゴーストが使われていてもあまり問題にならないかもしれませんが、小説のような本人が書くことに価値を見出す読者が多い界隈ではゴーストが改めて蒸し返されると罵声が飛ぶ、といったところでしょうか。それなら、原作や原案のような立ち位置で、誰かしっかりとした書き手に委ねていれば、こういう問題は起きないであろうという点も踏まえて、ですが。
その点では、ノベライズなどメディアミックスの現場というのは完全に商業化、分業化されている手前、問題になりようがないんですよね。
なお、真の意味でゴーストが問題になるだろうと思うのは、某幸福の科学の大川隆法がやらかしている守護霊出版ビジネスです。なんですか、あれは。緊急霊言特集とかいって、生きてる人の守護霊呼んでいて出版してるのを見て愕然とする次第です。
まさか「ゴースト」という単語が英語本来の意味で使われる時代が来るとは思っていませんでした。