新清士さんが統計と情報とデータをごっちゃにして語ってる件で
例によって「言わんとすることは分かるが、それはまったく違うよ」という話を一つ。
ソシャゲへの反感はワインの方程式が生んだ反感と同じ -ゲームと心理学(2)
http://www.famitsu.com/guc/blog/shin/12191.html
冒頭のワインの話は本当です。ただ、その後に続く、ソーシャルゲームの話はまったく間違いです。間違いというか、統計違いです。
新さんが例示しているDAUやKPI指標というのは、「現在、ユーザーがどういうアクセス状態にあるのか」という程度を示すただのユーザー動態データの総体であって、上記ビンテージワインで言うならば「値段」にあたるものです。
ビンテージワインの「値段」が分かるのは極当たり前のことであって、それが解析されたからといってゲーム業界の職人芸とはまったく関係ありません。せいぜい言えば、meta scoreを高く出したコンソールゲーム、あるいは売上データが揃ったソーシャルゲームというものが出てきました、というだけの話で、データを元に、どういうパラメータがこれに作用し、より相関の高いフォーミュラを構成ができるのか検証しなければ職人芸の代替には到底なりません。
むしろ、UnityやUnreal Engineのように制作環境の進化がゲームデザイナーにバランス調整のためのレベルデザインを効率化させることに成功したのと同様、KPIツールなどで吐き出すことのできる数値は運営者側に収益を最大化させるための試行錯誤を容易にした、ただそれだけのことです。ワインの話とは次元が違います。
例えば、イベントをやったのでKPI指標が改善しましたというのはセイバー的でなく、いわばヤクルトのID野球のようなドクトリン・オリエンテッドなデータ活用というレベルです。それはそれでもちろん有効ですが、これを成立させるにはスコアラーを配置し状況をデータ化して分析をし、データの”谷”はどこにあるのかを経験則で学んで情報にしていかなければ学習効果が出ず、その情報に基づいた作戦が得点に繋がらないという意味で経験主義的です。
(なお、ヤクルトや中日のデータ野球と、現状のセイバーメトリクスなども含めた統計的手法とは思想が全然違う。)
一方、統計的アプローチというのは新さんの誤解にもあるとおり、「データが取れてもそのデータどおりの再現を行うための条件を洗って検証しなければならない」ことを見落としてはいけないのです。これは、野球だろうが選挙予測だろうが同じです。
また、ここで新さんが「不確実性」という言葉を使ってるんですが… たぶん統計のことをすべては理解せずに使ってしまっているんじゃないかなあと思うので、その後ろの「ソーシャルゲームに対する感情的な反感」という文脈も、まったく間違った展開になってしまっているように感じます。データを駆使しているからユーザーがソーシャルゲームに反感を買っている、という文脈も理解できなくもないんですが、そんなデータはどこにあるんでしょうか。むしろ、あればそれを見たいです。
唯一、現在のソーシャルゲーム業界で成立するフォーミュラは週間の離脱率だけだと思います。再帰的です。これは、課金と効用のカーブに物凄い大きな相関を持っているように思いますが、これはまあほにゃらら。
なお、こういう公式作りを参考にされたい方は、『セイバーメトリクスマガジン』や、西内啓さんの書籍が面白いと思いますので、ぜひご一読を。
なお、ソーシャルゲームについてはRandom Walkの可能性が強く、これらスポーツのようにセットプレイや再現性のある構造とはまた違うと思うのですけれども、再現性を確認するための方法論については参考になると思うのです。
いやほんと、統計結果を語るのであればともかく、プロセスを記事にするのであれば、「データ取得ができてゲーム運用や収益最大化に活用できるようになりました」という八百屋の仕入れの話と、「過去データから統計的手法で相関分析ができるようになって同一ノウハウが流用できる構造分析ができるようになりました」という選挙の当選予測の話とをごっちゃにしないほうがいいと思うよ。>新清士さん
お陰で、この手の話を理解していないどこぞの会長が簡単に釣られてて心が痛むぞ。
以前、mixiの利用率が突然2%に、とかいう大ネタで釣られてhagexにクソミソに書かれた人は、先生黙ってるから静かに手を挙げなさい。
[Web] 朝日新聞発「mixi利用者が97%から2%に激減」というデマが出回る
http://d.hatena.ne.jp/hagex/20121211/p13
まったくmixiめ。いちいち馬鹿みたいなネタ流してきやがって。早く滅んで欲しい。
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