【女川原発運転差止請求訴訟】「避難計画には一応の合理性」仙台高裁が石巻市民の控訴を棄却 原発止められない司法「住民が具体的危険を主張立証せよ」と事実上の門前払い
- 2024/11/28
- 06:40
東北電力女川原子力発電所2号機(宮城県女川町、石巻市)再稼働に反対する石巻市民17人が、宮城県や石巻市のつくった広域避難計画の実効性に論点を絞って起こした「女川原発運転差止請求訴訟」。仙台高等裁判所(倉澤守春裁判長)は27日午後、住民らの請求を棄却する判決を言い渡した。一審仙台地裁とは異なり避難計画の中身に踏み込んだものの、結局は被告東北電力の主張を採用して「控訴人らにおいて本件避難計画では対処できない事象が発生する具体的危険性を主張立証すべきであるが、そのような主張立証もされていない」などと住民らの訴えを退けた。事実上の〝門前払い〟とも言える控訴審判決に、住民たちからは怒りの声があがった。

【判決「複数の避難経路を用意」】
仙台高裁の倉澤裁判長は、確かに「避難計画の実効性」に言及した。だがそれは「司法は原発を止めない」という結論にたどり着くまでの〝迂回路〟にすぎないように見えた。
一審仙台地裁の齊藤充洋裁判長が昨年5月に言い渡した判決は、避難計画の不備、実効性には一切踏み込まなかった。
「放射性物質が異常に放出される事故が発生する具体的な危険があることについての主張立証がない」、「避難計画の実効性に関する個別の争点について判断するまでもない」と住民の訴えを一蹴しただけに、その意味では、控訴審判決は「避難計画の中身に踏み込んだ」と言える。
だが、足は踏み入れたが着地点は一審と同じだった。
判決で倉澤裁判長は本訴訟で争点となっている避難計画について「第1回及び第2回女川地域原子力防災協議会において、原子力災害対策指針等に照らし、具体的かつ合理的なものとなっていることが確認され………第10回原子力防災会議において、その内容が了承されている」ことを理由に「一応の合理性があると考えられる」とした。
そのうえで、住民たちの訴えを次のように退けている。
「控訴人らは、防護の効果をあげることができない具体的な蓋然性のいずれも具体的に主張していない」
「前提として想定される放射性物質または放射線の異常な放出の具体的な機序や態様を特定していない」
「控訴人らにおいて本件避難計画では対処できない事象が発生する具体的危険性を主張立証すべきであるが、そのような主張立証もされていない」
「原子力災害対策指針や本件避難計画が定める措置を講ずることができないような事態が発生する具体的な蓋然性を主張していない」
「本件避難計画においては複数の避難経路が用意されており、およそすべての避難経路が通行できなくなるとか、指定された避難経路によって避難することができなくなる具体的な蓋然性の主張立証はない」
「避難または屋内退避の効果があげられないことの主張立証はない」
判決文の終盤では、本件避難計画について「避難等の実施に係る事項は、異常事態の態様、施設の特性、気象条件、周辺の環境状況、住民の居住状況等を考慮して、発生した事態に応じて臨機応変に決定することを想定している」と〝絶賛〟までしている。
元日の発生した能登半島地震では幸いにして原子力災害には発展しなかったが、陸海空いずれの避難経路も機能不全に陥った。だが、女川原発が立地する牡鹿半島ではそのようなことにはならないらしい。



(上)(中)住民たちの控訴を棄却した仙台高裁。「控訴人らにおいて本件避難計画では対処できない事象が発生する具体的危険性を主張立証すべきであるが、そのような主張立証もされていない」と一蹴した
(下)閉廷後の記者会見で配布された声明文
【「国策におもねった判決だ」】
住民たちは、単なる想像で避難計画の不備を指摘してきたわけではない。
2018年4月、石巻市民が集まり「女川原発の避難計画を考える会」を結成。同年9月には、メンバーそれぞれの自宅から避難経路を実際に車で走っている。その結果、「全くの机上の計画でしかないことが明らかになった」という。原告団長の原伸雄さんは、2021年11月に行われた一審の第1回口頭弁論で次のように意見陳述した。
「それぞれの自宅から石巻市の避難計画が示す経路に従って道路状況、コンビニやガソリンスタンド、トイレ可能な施設などを確認しながら、一時集合場所、避難退避時検査場所から受付ステーションを経て最終避難場所まで車で走行してみました。その結果、検査所や受付ステーションでの大渋滞発生の懸念、そこでの時間はどのくらいかかるのか、全く足りない駐車場のこと、トイレやガソリン、食糧の確保など次々と問題点が浮き彫りになりました」
行政には90回を超える情報公開請求で資料を出させ、証拠として積み上げてきた。しかし、判決はそれらに向き合わず、「原発事故が起きる具体的な危険性を立証しろ」とした一審から「避難計画が破綻する具体的な蓋然性を立証しろ」に変わっただけだった。
それだけに、原告団副団長の佐藤清吾さんは裁判所の入り口で報道陣に怒りをこめて話した。
「避難計画には実効性がないとしっかりと訴えたが、裁判所は認めない。一審と同じく国策におもねった判決だ。控訴審の第1回口頭弁論後に行われた進行協議では、当時の瀬戸口壯夫裁判長(今年5月に定年退官)が『避難計画の実効性に踏み込んで審理する』と言った。ところが裁判長が交代して、この判決。地域住民の被曝を前提とした避難を否定していない。そもそも逃げることなどできないのに…。怒りしかない」
閉廷後の記者会見では、弁護団長の小野寺信一弁護士が「避難計画の中身に入った点は評価するが、あまりにもお粗末な中身だった」と述べた。
「検査場所の開設、避難バスや添乗員確保の困難さなどについて、本当にさまざまな証拠で主張立証した。東北電力はほとんど反論しなかった。ところが、判決では『臨機応変に決定すればいい』と。そんな馬鹿なことはない。完全に証拠を無視した判決で不満だ」
鈴木宏一弁護士も「どういうレベルの事故がどこでどのように起きるかなど想定できない。想定できないものを主張立証して、避難の困難さを言えという。まったく無意味な、内容のない判決だ」と指摘した。



(上)横断幕を手に入廷した原告団と弁護団。積み上げてきた証拠や立証には自信を持っていたが、裁判所の判断はまたも「再稼働ありき」だった
(中)控訴棄却の一報に、裁判所の門前では法廷に入れなかった支援者たちが「不当判決を許さないぞ」などとシュプレヒコールした
(下)原告団長の原伸雄さんは「まことに残念な結果ではあるが、悔しさをバネにして原発ゼロの社会を目指したい」と拳を突き上げた=仙台弁護士会館
【「石巻に住む者として不安」】
「倉澤裁判長としては、前任の瀬戸口裁判長が出した方針を完全に否定することはできないので、苦しい隘路(あいろ)に入ったという感じ。瀬戸口さんが打ち出した方向性で判断しなければならず、それで住民を負けさせなければいけなかったので苦労したのだろう」
会見後、小野寺弁護士はそうつぶやいた。
前任者が「避難計画の中身に踏み込んで判断する」と宣言してしまったから、顔を立てないわけにはいかない。でも、国策としての原発再稼働も止められない。宮城県も石巻市も女川町も再稼働には〝同意〟している。そこで苦し紛れにひねり出したのが「避難計画が破綻するような具体的蓋然性を主張立証していない」という、いわば屁理屈のような理論構成だった。
なお、一審に続いて勝訴した東北電力は、次のようなコメントをホームページに掲載した。
《本日、仙台高等裁判所において、女川原子力発電所2号機の運転差止請求について、控訴人らの請求を棄却する判決が言い渡されました。
本件は、仙台地方裁判所が請求を棄却した判決(2023年5月24日付)を不服として、控訴人らが2023年6月5日に控訴したものです。
当社は、これまで、本件請求は棄却されるべきとの主張について、裁判所にご理解いただけるよう、丁寧にご説明してまいりました。
今般の控訴人の請求を棄却する判決は、裁判所に当社の主張をご理解いただいた結果であると受け止めております。
当社としては、引き続き、避難計画の実効性向上に向け、事業者としてできる限りの協力をしてまいります。
また、安全確保を最優先に、地域の皆さまからのご理解をいただきながら、営業運転開始、その後の安定運転に向けてしっかりと取り組んでまいります》
同社は司法の判断を待つことなく、先月29日に制御棒を抜いて原子炉の起動を再開している。原発回帰へ舵を切る国。それを止められない司法。原告の1人、庄司慈明さんは会見で次のように怒りを口にした。
「判決が出るまで彼らは待つことができないのか。行政は『充実した避難計画をつくるから大丈夫』と言うが、そうではないということが裁判のなかで明らかになった。それなのにこの判断。非常に悔しいし残念。そして、石巻に住む者として不安だ」
原団長は「最高裁に上告したいのはやまやま」と語ったが、30日午後に開かれる「脱原発弁護団全国連絡会」での会合を経て結論を出すという。東京高裁で控訴審が係争中の「東海第二原発運転差止訴訟」への影響などを考慮し、上告しない可能性もある。
(了)

【判決「複数の避難経路を用意」】
仙台高裁の倉澤裁判長は、確かに「避難計画の実効性」に言及した。だがそれは「司法は原発を止めない」という結論にたどり着くまでの〝迂回路〟にすぎないように見えた。
一審仙台地裁の齊藤充洋裁判長が昨年5月に言い渡した判決は、避難計画の不備、実効性には一切踏み込まなかった。
「放射性物質が異常に放出される事故が発生する具体的な危険があることについての主張立証がない」、「避難計画の実効性に関する個別の争点について判断するまでもない」と住民の訴えを一蹴しただけに、その意味では、控訴審判決は「避難計画の中身に踏み込んだ」と言える。
だが、足は踏み入れたが着地点は一審と同じだった。
判決で倉澤裁判長は本訴訟で争点となっている避難計画について「第1回及び第2回女川地域原子力防災協議会において、原子力災害対策指針等に照らし、具体的かつ合理的なものとなっていることが確認され………第10回原子力防災会議において、その内容が了承されている」ことを理由に「一応の合理性があると考えられる」とした。
そのうえで、住民たちの訴えを次のように退けている。
「控訴人らは、防護の効果をあげることができない具体的な蓋然性のいずれも具体的に主張していない」
「前提として想定される放射性物質または放射線の異常な放出の具体的な機序や態様を特定していない」
「控訴人らにおいて本件避難計画では対処できない事象が発生する具体的危険性を主張立証すべきであるが、そのような主張立証もされていない」
「原子力災害対策指針や本件避難計画が定める措置を講ずることができないような事態が発生する具体的な蓋然性を主張していない」
「本件避難計画においては複数の避難経路が用意されており、およそすべての避難経路が通行できなくなるとか、指定された避難経路によって避難することができなくなる具体的な蓋然性の主張立証はない」
「避難または屋内退避の効果があげられないことの主張立証はない」
判決文の終盤では、本件避難計画について「避難等の実施に係る事項は、異常事態の態様、施設の特性、気象条件、周辺の環境状況、住民の居住状況等を考慮して、発生した事態に応じて臨機応変に決定することを想定している」と〝絶賛〟までしている。
元日の発生した能登半島地震では幸いにして原子力災害には発展しなかったが、陸海空いずれの避難経路も機能不全に陥った。だが、女川原発が立地する牡鹿半島ではそのようなことにはならないらしい。



(上)(中)住民たちの控訴を棄却した仙台高裁。「控訴人らにおいて本件避難計画では対処できない事象が発生する具体的危険性を主張立証すべきであるが、そのような主張立証もされていない」と一蹴した
(下)閉廷後の記者会見で配布された声明文
【「国策におもねった判決だ」】
住民たちは、単なる想像で避難計画の不備を指摘してきたわけではない。
2018年4月、石巻市民が集まり「女川原発の避難計画を考える会」を結成。同年9月には、メンバーそれぞれの自宅から避難経路を実際に車で走っている。その結果、「全くの机上の計画でしかないことが明らかになった」という。原告団長の原伸雄さんは、2021年11月に行われた一審の第1回口頭弁論で次のように意見陳述した。
「それぞれの自宅から石巻市の避難計画が示す経路に従って道路状況、コンビニやガソリンスタンド、トイレ可能な施設などを確認しながら、一時集合場所、避難退避時検査場所から受付ステーションを経て最終避難場所まで車で走行してみました。その結果、検査所や受付ステーションでの大渋滞発生の懸念、そこでの時間はどのくらいかかるのか、全く足りない駐車場のこと、トイレやガソリン、食糧の確保など次々と問題点が浮き彫りになりました」
行政には90回を超える情報公開請求で資料を出させ、証拠として積み上げてきた。しかし、判決はそれらに向き合わず、「原発事故が起きる具体的な危険性を立証しろ」とした一審から「避難計画が破綻する具体的な蓋然性を立証しろ」に変わっただけだった。
それだけに、原告団副団長の佐藤清吾さんは裁判所の入り口で報道陣に怒りをこめて話した。
「避難計画には実効性がないとしっかりと訴えたが、裁判所は認めない。一審と同じく国策におもねった判決だ。控訴審の第1回口頭弁論後に行われた進行協議では、当時の瀬戸口壯夫裁判長(今年5月に定年退官)が『避難計画の実効性に踏み込んで審理する』と言った。ところが裁判長が交代して、この判決。地域住民の被曝を前提とした避難を否定していない。そもそも逃げることなどできないのに…。怒りしかない」
閉廷後の記者会見では、弁護団長の小野寺信一弁護士が「避難計画の中身に入った点は評価するが、あまりにもお粗末な中身だった」と述べた。
「検査場所の開設、避難バスや添乗員確保の困難さなどについて、本当にさまざまな証拠で主張立証した。東北電力はほとんど反論しなかった。ところが、判決では『臨機応変に決定すればいい』と。そんな馬鹿なことはない。完全に証拠を無視した判決で不満だ」
鈴木宏一弁護士も「どういうレベルの事故がどこでどのように起きるかなど想定できない。想定できないものを主張立証して、避難の困難さを言えという。まったく無意味な、内容のない判決だ」と指摘した。



(上)横断幕を手に入廷した原告団と弁護団。積み上げてきた証拠や立証には自信を持っていたが、裁判所の判断はまたも「再稼働ありき」だった
(中)控訴棄却の一報に、裁判所の門前では法廷に入れなかった支援者たちが「不当判決を許さないぞ」などとシュプレヒコールした
(下)原告団長の原伸雄さんは「まことに残念な結果ではあるが、悔しさをバネにして原発ゼロの社会を目指したい」と拳を突き上げた=仙台弁護士会館
【「石巻に住む者として不安」】
「倉澤裁判長としては、前任の瀬戸口裁判長が出した方針を完全に否定することはできないので、苦しい隘路(あいろ)に入ったという感じ。瀬戸口さんが打ち出した方向性で判断しなければならず、それで住民を負けさせなければいけなかったので苦労したのだろう」
会見後、小野寺弁護士はそうつぶやいた。
前任者が「避難計画の中身に踏み込んで判断する」と宣言してしまったから、顔を立てないわけにはいかない。でも、国策としての原発再稼働も止められない。宮城県も石巻市も女川町も再稼働には〝同意〟している。そこで苦し紛れにひねり出したのが「避難計画が破綻するような具体的蓋然性を主張立証していない」という、いわば屁理屈のような理論構成だった。
なお、一審に続いて勝訴した東北電力は、次のようなコメントをホームページに掲載した。
《本日、仙台高等裁判所において、女川原子力発電所2号機の運転差止請求について、控訴人らの請求を棄却する判決が言い渡されました。
本件は、仙台地方裁判所が請求を棄却した判決(2023年5月24日付)を不服として、控訴人らが2023年6月5日に控訴したものです。
当社は、これまで、本件請求は棄却されるべきとの主張について、裁判所にご理解いただけるよう、丁寧にご説明してまいりました。
今般の控訴人の請求を棄却する判決は、裁判所に当社の主張をご理解いただいた結果であると受け止めております。
当社としては、引き続き、避難計画の実効性向上に向け、事業者としてできる限りの協力をしてまいります。
また、安全確保を最優先に、地域の皆さまからのご理解をいただきながら、営業運転開始、その後の安定運転に向けてしっかりと取り組んでまいります》
同社は司法の判断を待つことなく、先月29日に制御棒を抜いて原子炉の起動を再開している。原発回帰へ舵を切る国。それを止められない司法。原告の1人、庄司慈明さんは会見で次のように怒りを口にした。
「判決が出るまで彼らは待つことができないのか。行政は『充実した避難計画をつくるから大丈夫』と言うが、そうではないということが裁判のなかで明らかになった。それなのにこの判断。非常に悔しいし残念。そして、石巻に住む者として不安だ」
原団長は「最高裁に上告したいのはやまやま」と語ったが、30日午後に開かれる「脱原発弁護団全国連絡会」での会合を経て結論を出すという。東京高裁で控訴審が係争中の「東海第二原発運転差止訴訟」への影響などを考慮し、上告しない可能性もある。
(了)