日本のピアノ作品集 永井幸枝 『Poesie:Yukie Nagai Plays Japanese Piano Music』
2009-03-26(Thu)
現代の日本人作曲家のピアノ独奏曲を集めた永井幸枝の『Poesie : Yukie Nagai Plays Japanese Piano Music』。
この永井幸枝というピアニストは聴いたことがない。ドイツを拠点に演奏活動をしている人らしく、ラベル、スクリャービン、ラヴェル、ドビュッシー、チャイコフスキー、ベートーヴェンなどの録音がある。ほとんどBISからリリースしているくらいだから、腕は確かに違いない。
このアルバムは、現代音楽といっても作風の違うものを集めていて、かなり面白い選曲。
こういう弾き方が良いのかどうかは、比較して聴いていないのではっきりとわからないところはあるとしても、少なくとも曲のイメージが良くわかって、飽きることなく聴けたので良い演奏なのだと思う。
曲としては、高橋悠治の『光州、1980年5月』と矢代秋雄の『ピアノ・ソナタ』が聴きごたえがある。特に、『光州、1980年5月』はとても気に入った曲。
三善晃と加古隆の曲もとても美しい旋律で何度も聴きたくなるが、あまりに耳に心地良すぎてBGMのように聴き流してしまいそうになる。
高橋悠治/光州、1980年5月
この曲は、1980年5月に起こった韓国の光州事件(民主化要求デモを軍事政権が弾圧した事件)を描いた映画(前田勝弘監督)のために作曲されたもの。
この映画は、当然のことながら現地取材ができないため、版画や音楽、詩などで構成されているという。映画を見ればこの曲が描いているものが良くわかるのだろうが、曲だけ聴いていてもメッセージ性の強さを感じる。
調性もない曲だけれど、旋律や和声は独特の美しさがあって、不協和的な音でさえなぜか調和的に聴こえてくる。曲想としてまとまりのあるフレーズが、次々と現れてくるので意外と聴きやすい。
何かが起こりそうな予感、切迫感、荒々しさ、疾走感、静寂。フレーズによってそれぞれ違った雰囲気が感じられる。
この曲はかなり良い。映画のことを考えずに聴いていても、1度聴いただけで惹きこまれてしまった。
この曲の楽譜が作曲者のホームページで公開されている。調性記号も拍子記号もなく、小節線もないので、演奏者の解釈と表現力がものをいう曲。さすがに弾きたいという気は起こらなかった。
一柳慧/雲の表情
典型的な”現代音楽”風の、シェーンベルクのピアノ小品を叙情的にしたような曲。
神秘的な響きがするが、とにかく苦手なタイプの曲。
ただし第3曲は、躍動感があり音がきらきらと煌くように美しく、これだけ音がつまって細かく動いていると面白く聴ける。
三善晃 /4つのピアノ小品
これは完全な調性音楽。<Arabesque of Waves>、<The Keyboard Sunken>、<Good Night,Sunset>、<Waves and the Evening Moon>の4曲があるが、いずれも繊細で美しい曲。洒落っ気を抑えた哀感のあるプーランクとでもいうような感じがする。
プロフィールを調べると、師事した師はフランス人だったり、フランス近代音楽の影響を受けた人だったり、本人もフランスに留学したりと、やはりフランス系の音楽に近い作曲家。
矢代秋雄/ピアノ・ソナタ
<I Agitato>
ピアノ協奏曲とはかなり趣が違う曲で、いかにも現代音楽風な和声と音の配列。基調となる静寂さの漂う旋律と、力強さを強調した打楽器的に弾く旋律とが交錯している。
<ⅡToccata>
ピアノ協奏曲にも似て、躍動的で、旋律はまるでおしゃべりをしているかのような音の配列と響き。これは面白い曲。
<III. Theme et Variations. Lento>
主題は和音だけゆっくりと低く旋律。やがて高音部へ移って、変奏が始まる。前半は主題も変奏も静寂さが支配する。後半になると、力強い打鍵で激しく動き回って変化していく変奏が現れ、音色や響きも冷たく厳しい華やかさがある。
武満徹/雨の樹素描、フォー・アウェイ
昔いろいろ聴いて、これは合わないと思った武満徹のピアノ曲。
10年以上経って、再び聴いてみると、とても妖艶さのある叙情的な曲に聴こえる。挫折せずに最後まで聴いたとはいえ、独特の響きや隙間のある音の配列が相変わらず好みに合わないのは同じ。
加古隆/Poesie/Greensleeves
なぜか映画音楽などで有名な加古隆の曲が入っている。
加古隆はNHKスペシャル「映像の世紀」の音楽を担当し、テーマ曲「パリは燃えているか」はとても哀感のある美しくてドラマティックな曲。
この<Poesie/Greensleeves>も、線が細いが鋭さのある叙情的な曲。原曲は有名な「グリーンスリーブズ」で、これがもともと美しい旋律の曲であるうえに、中間部では、加古自身のオリジナルを入れていてアルペジオがとても華麗で美しい。
この永井幸枝というピアニストは聴いたことがない。ドイツを拠点に演奏活動をしている人らしく、ラベル、スクリャービン、ラヴェル、ドビュッシー、チャイコフスキー、ベートーヴェンなどの録音がある。ほとんどBISからリリースしているくらいだから、腕は確かに違いない。
このアルバムは、現代音楽といっても作風の違うものを集めていて、かなり面白い選曲。
こういう弾き方が良いのかどうかは、比較して聴いていないのではっきりとわからないところはあるとしても、少なくとも曲のイメージが良くわかって、飽きることなく聴けたので良い演奏なのだと思う。
曲としては、高橋悠治の『光州、1980年5月』と矢代秋雄の『ピアノ・ソナタ』が聴きごたえがある。特に、『光州、1980年5月』はとても気に入った曲。
三善晃と加古隆の曲もとても美しい旋律で何度も聴きたくなるが、あまりに耳に心地良すぎてBGMのように聴き流してしまいそうになる。
![]() | Poesie : Yukie Nagai Plays Japanese Piano Music (1996/5/21) 永井幸枝(Piano) 試聴する |

この曲は、1980年5月に起こった韓国の光州事件(民主化要求デモを軍事政権が弾圧した事件)を描いた映画(前田勝弘監督)のために作曲されたもの。
この映画は、当然のことながら現地取材ができないため、版画や音楽、詩などで構成されているという。映画を見ればこの曲が描いているものが良くわかるのだろうが、曲だけ聴いていてもメッセージ性の強さを感じる。
調性もない曲だけれど、旋律や和声は独特の美しさがあって、不協和的な音でさえなぜか調和的に聴こえてくる。曲想としてまとまりのあるフレーズが、次々と現れてくるので意外と聴きやすい。
何かが起こりそうな予感、切迫感、荒々しさ、疾走感、静寂。フレーズによってそれぞれ違った雰囲気が感じられる。
この曲はかなり良い。映画のことを考えずに聴いていても、1度聴いただけで惹きこまれてしまった。
この曲の楽譜が作曲者のホームページで公開されている。調性記号も拍子記号もなく、小節線もないので、演奏者の解釈と表現力がものをいう曲。さすがに弾きたいという気は起こらなかった。

典型的な”現代音楽”風の、シェーンベルクのピアノ小品を叙情的にしたような曲。
神秘的な響きがするが、とにかく苦手なタイプの曲。
ただし第3曲は、躍動感があり音がきらきらと煌くように美しく、これだけ音がつまって細かく動いていると面白く聴ける。

これは完全な調性音楽。<Arabesque of Waves>、<The Keyboard Sunken>、<Good Night,Sunset>、<Waves and the Evening Moon>の4曲があるが、いずれも繊細で美しい曲。洒落っ気を抑えた哀感のあるプーランクとでもいうような感じがする。
プロフィールを調べると、師事した師はフランス人だったり、フランス近代音楽の影響を受けた人だったり、本人もフランスに留学したりと、やはりフランス系の音楽に近い作曲家。

<I Agitato>
ピアノ協奏曲とはかなり趣が違う曲で、いかにも現代音楽風な和声と音の配列。基調となる静寂さの漂う旋律と、力強さを強調した打楽器的に弾く旋律とが交錯している。
<ⅡToccata>
ピアノ協奏曲にも似て、躍動的で、旋律はまるでおしゃべりをしているかのような音の配列と響き。これは面白い曲。
<III. Theme et Variations. Lento>
主題は和音だけゆっくりと低く旋律。やがて高音部へ移って、変奏が始まる。前半は主題も変奏も静寂さが支配する。後半になると、力強い打鍵で激しく動き回って変化していく変奏が現れ、音色や響きも冷たく厳しい華やかさがある。

昔いろいろ聴いて、これは合わないと思った武満徹のピアノ曲。
10年以上経って、再び聴いてみると、とても妖艶さのある叙情的な曲に聴こえる。挫折せずに最後まで聴いたとはいえ、独特の響きや隙間のある音の配列が相変わらず好みに合わないのは同じ。

なぜか映画音楽などで有名な加古隆の曲が入っている。
加古隆はNHKスペシャル「映像の世紀」の音楽を担当し、テーマ曲「パリは燃えているか」はとても哀感のある美しくてドラマティックな曲。
この<Poesie/Greensleeves>も、線が細いが鋭さのある叙情的な曲。原曲は有名な「グリーンスリーブズ」で、これがもともと美しい旋律の曲であるうえに、中間部では、加古自身のオリジナルを入れていてアルペジオがとても華麗で美しい。
tag : 武満徹
※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます