フラット化する東京と上海
トマス・フリードマンが、近著「フラット化する世界」で、現在のグローバル化現象を「グローバリゼーション3.0」と名付けている。コロンブスのアメリカ大陸発見(1492年)から地球はどんどん小さくなり、多国籍企業が活躍した時代(グローバリゼーション2.0)を経て、ベルリンの壁が崩壊し、インターネットが世界を席巻した2000年から、グローバル化の新しい段階「グローバリゼーション3.0」が始まり、世界が同じ地平で競争する「フラット化した世界」が出現しているという。
東京がニューヨークやロンドンなど、欧米の都市と対比され、共時的な関係にあるいわれたものだが、最近では東京と上海に「フラット化した世界」が成立していることを強く感じるようになった。
私がそのことを初めて感じたのは、昨年の冬に上海に行った時に、「Shanghai Tang」という香港発のファッションブランドが、上海にもショップを開き、中国共産党の★印をアクセントにした、オシャレな人民帽を売り出しているのを見た時だ。
カジュアル・ポリティクスあるいはポリティカル・ポップと呼ばれる、デザイン化された毛沢東グッズが、上海のあちこちで売られ、文革時代のプロパガンダポスターが、東京からやってきたOLなどから「カワイイ!」といわれて飛ぶように売れていく。中国共産党がとり仕切っていた重苦しい文化空間が、毛沢東グッズを「カワイイ」といって喜ぶ婦女子の嬌声に確実に侵食されているのを見て、これはなかなか痛快な現象だと感じた(関連記事)。
上海でも広がるカワイイ感覚
フラット化に大きく関与しているのは、こうした文化 に対するリテラシーとでも呼ぶべき、人々の感性水準だ。日本のユース・カルチャーを支配している「カワイイ」価値観は、今や世界に輸出され、ヨーロッパやアメリカでも「Kawaii」という言葉が若者の間で使われつつある。上海でも20代の若い女の子を中心に「カワイイ」感覚が共有されつつあるという。上海と日本の女の子が「カワイイ!」を連発しあってカワイイ・カルチャーを共有するといったことも今後は、ありうる光景といえるだろう。
上海の街を歩く若い女の子たちは、ここ数年でめっきり可愛くなった。というのもお化粧や美容にドンドンお金を使うようになったからだ。上海の街には至る所に美容院が軒を連ね、どこも若い女性たちで賑わっている。彼女たちは給料の1/3をこうした出費に当てるということも珍しくないという。資生堂が投入した現地ブランドの化粧品「オプラ」も好調だ。100元(1500円)という価格帯は、上海の人々にとって決して安いとはいえないが、確実に上海女性の心を掴んでいる。
花王は、中国人女優チャン・ツィイーを起用して当初からアジア市場を明確に意識して開発したブランド「アジエンス(ASIENCE)」によって日本市場で大きな成功をおさめた。アジエンスのワールドサイトを見ると、アジア市場攻略に賭ける花王の意気込みがひしひしと伝わってくる。意外だったのは、アジエンスは、既に香港、台湾などには市場投入されているのだが、上海など中国本土ではまだ発売されていないことだ。恐らくは満を持しているのであろう。早晩、上海、北京にも上陸させ、名実ともにアジアのトップブランドに育てることを狙っているに違いない。
フラット化した東京、上海を結んだ地平に見えてくるのは「共通市場の発見」という大きなビジネスチャンスだ。上海の人々はこれまで海外のファッションや美容の情報を香港経由で取り入れていたが、今では、直接情報が持ち込まれる。既に「Ray」など日本のファッション雑誌の中国語版も成功しているし、「ノンノ」などは、日本語のまま売れていて、記事を読むのではなく、写真を見て、ファッションやメイクの参考にされているという。こうした時間差の無い、共時的な構造が形成されることが、共通市場が成立する前提条件となる。
私がクダクダと余計な解説をするよりも、実際に上海の街を歩き、現地のファッションブランドや雑貨を見れば、「フラット化した世界」が進行していることが手に取るようにわかるだろう。参考までにいくつかそうした事例写真をアップしておこう。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
編集機能、中国へ 日本の雑誌で動き盛ん 人件費安く日本語堪能
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/worldnews/12964/
と、こういう記事もありますな。
投稿: トリル | 2006.08.02 22:43
トリルさん、記事の紹介をありがとうございます。「日本人編集者1人を解雇すれば、こちらで8人雇える」というのは、なんとも刺激的な言葉ですね。ついにここまで来るかという感じです。
日本とアジアのフラット化の防波堤になっていた言葉の壁も乗り越えられてしまうことになるのでしょう。「フラット化する世界」の中でも、大前研一氏が、大連で中国人の日本語によるコールセンターサービスを事業として立ち上げていることが紹介されていました。米国人以上に英語に堪能なインド人が、言語のオフショアサービスをやっているように、日本人以上に日本語に堪能な中国人が電話口で応対するというのも時間の問題なのでしょう。
投稿: katoler | 2006.08.04 12:50