連載 | #64 ポップなまとめ記事をつくってみた

【2023年】ヒップホップ名曲13選 “生き様”と精神性が問われる今

【2023年】ヒップホップ名曲13選 “生き様”と精神性が問われる今
【2023年】ヒップホップ名曲13選 “生き様”と精神性が問われる今

Awich, 唾奇, OZworld, CHICO CARLITO - RASEN in OKINAWA (Prod. Diego Ave)/画像はYouTubeより

Awichさんを中心とするフィメールラッパーや沖縄勢の躍進による近年の勢いの結実、YouTubeチャンネル「03- Performance」がけん引する若手ラッパーのフックアップなど、コロナ禍を抜けて活気づく2023年のヒップホップシーン。

一方上半期には、Repezen Foxxがタイのヒップホップフェス「Rolling Loud」に出演したことに端を欲する論争や、「FSLトライアウト」が暴力を肯定するような演出から批判を集めるなど、「ヒップホップとはどんなカルチャーか?」といった命題が改めて問い直されました。

今回は、ヒップホップ誕生から50周年を迎える2023年にリリース/MVが公開された日本語ラップを、KAI-YOU編集部の独断と偏見で13曲セレクト。若手からベテランまで、様々なスタイルが入り混じった2023年の楽曲を紹介します。

Spotifyでプレイリストも用意したので、そちらもチェックしてみてください。

(※)番号には、順位やランキングなどの意図はありません。随時更新予定。

目次

Awich, 唾奇, OZworld, CHICO CARLITO 「RASEN in OKINAWA」

日本で最も有名な観光地、美しい海と豊かな自然というパブリックイメージを持つ沖縄──ではなく、土着的で歴史的で、血の匂いが立ち込めるような、生活に根差した沖縄の知られざる風景と共に、沖縄を代表するラッパー4人がそれぞれの沖縄のリアルを歌う。

楽曲としては、露出や活動の機会が乏しい唾奇さんが参加しているだけで一聴の価値あり。OZworldさんの沖縄民謡とラップを掛け合わして昇華したフロウも実験的で素晴らしい。

ただなによりも、ドキュメンタリックな“裏”沖縄ともいうべき情景を映し出したMVがとてもヒップホップ的で良い。外側からは分からない景色を見せてくれる素敵な表現。

Lunv Loyal feat. SEEDA & Watson 「高所恐怖症(Remix)」

2023年の日本のヒップホップシーンはドリル(Drill)の年。そう定義づけた楽曲の一つに「高所恐怖症」がある。Remixでは国内ドリルの主要プレイヤーであるWatsonさんが参加し、一気に作品の方向性が引き締まった。

SEEDAさんがキャリアの成熟期として等身大の“高み”から見える風景を歌った直後に、Watsonさんは“もうしない貧乏/今居るとこ/高すぎて震えてる緊張/乗ったビート/上に行くぞ”と今まさに急上昇する自分の不安と決意の“揺れ”を言葉にし、多動的なビートに完璧にハマっている。この小節の完成度が高すぎて、震えた。

また、SEEDAさんのフロウとリリックはLunv Loyalさんが考案していることもあり、これは“自分の言葉で歌う”ヒップホップの在り方の変化も感じる。創作手法としても意欲的な作品。

mall boyz (Tohji & gummyboy) 「mango run」

Charli XCXさんのミックステープで聴けるようなエレクトロポップ・ビート。そこに優れたオートチューン使いのマンブル/シンギング・ラッパーたちことMall Boyzが声を当てるとしたら、おそらく予想通りで、なお確実にノレるとの期待が湧くでしょう。

ブラスのトップラインが高揚感を主導し、細かく刻まれるキックが興奮度を高め、バブルガムのようにはじけるサンプルとグリッチはダンスフロアを解放します。メロディーのパターンもライムと同様に反復されて中毒性を湧かせる、抜群の未来派ポップ・ラップです。

Kamui 「Late Flower」

Kamuiさんの音楽を聴く度にエネルギー充満に詰め込んだライムの連なりが楽しみです。ドリルビートを試した「Late Flower」にも当てはまる話ですが、アンビエントなイントロとメランコリーなチップマンク・サンプルからも聞き取れるよう、語る内容とムードはだいぶかけ離れている感じです。

コンセプト・アルバムだった『YC2』と違って、話は現実に戻ります。「Fuk Kamui」でも見られる自己嫌悪と焦りが本曲でも現れるのです。それでもいずれ咲く花であると信念を貫く姿からは、サイバーパンクの世界を走り抜く人の残像が見えます。

J. ColeさんとKOHHさん、Tohjiさんの名前を用いて自らの位置を相対的に測定するラインも特徴です。

7 「Rice Spice」

Ice Spiceさんの名前をいじったタイトル。オリエンタル・タイプビート風のハードなトラップ。カオスにかき混ぜられる音素。アジアン・ヘイトから大麻の話題まで。全ての要素が激辛の七味を「ふりかけ」るような曲です。

ライブ映像の切り抜きがシングル・カバーになっている「SEVEN ELEVEN (freestyle)」でも見られるように、7さんが駆使するマンブル・ラップは、Chief Keefさんをはじめ、Lil Uzi Vertさん、Playboi Cartiさんなどの影響により、ヒップホップのトレンドに定着していきました。

そのスタイルがインディー・ラッパーたちの一種のデフォルトになった分、7さんが四方に吐き出す毒気とコンシャスなラインたちは一風違うアウラを香らせます。

Awich / NENE / LANA / MaRI 「Bad B*tch 美学」

男性プレイヤーが圧倒的に多いヒップホップ・シーンで女性サイファーはいくらあっても足りないくらいです。そして“Bad Bitch”という題材は今まで女性が蔑まれてきた言葉を逆手にとってアイデンティティーの種類として築き上げてきたレガシーでしょう。

同じく女性ラッパーであるM.I.A.さんの名曲「Bad Girls」が思い浮かぶ中東風サンプルが耳に絡みます。特にAwichさんのパワフルなリード・パフォーマンスは最も抜群。

“スケジュールもpussyもめっちゃタイト”のように(いい意味で)卑猥だったり“撮影中も保育園からの電話”のように女性プレイヤーのリアルを描くパンチラインが散らばります。

ちゃんみな feat. Awich 「美人 (Remix)」

ちゃんみなさんのシングル「美人」は衝撃的な作品でした。女性のジェンダーに背負わされた美しさという社会的要請を、驚愕すべき残酷な演出で表現し、その理不尽さを突き詰めたからです。

フィメール・ラッパーとして声を上げてきたAwichさんの「リミックス版」での客演は、さらにこの曲の意義を増します。いわゆるショー・ビジネスで規格外に思える要素を羅列する"未亡人のシングルマザー/36 おばさんラッパー?"というバースの切り口は、Awichさんのヒップホップ・シーンにおける立ち位置が確かめられる重要なラインです。

この楽曲は一聴しただけでは、単にルッキズムへ痛烈な批判していると受け取られがち。しかしその攻撃性の裏側には、"無意味なノイズ達にバイバイ/私は私を愛せる""あなたこそダイヤ美しい"という、彼女達の自己肯定への熱望が隠されているのです。

SUSHIBOYS 「木にしない」

2020年にリリースされたアルバム『SUSHIBOYSの騒音集VOL.1』から3年、年始には年賀状ソング「年賀状 2 0 2 3 (兎)」をリリースしたSUSHIBOYSによる1曲。FARMHOUSEさんの「Red Bull RASEN」出演や各種客演など、定期的な露出はあったものの、ユニットとしてのリリースは控えめだった2人。SUSHIBOYSとしての楽曲でMVが公開されるのは2020年9月の「DA-DA-DA」ぶりです。

「木にしない」で歌われているのは、小さな不安の種を自分で大きく育ててしまいがちな現代社会への「木にしなくていい(気にしなくていい)」というメッセージ。

MVは「LOUD」で見せた成人男性が全裸で駆け回るというスタイルはそのままに、SUHIBOYSらしいちょっと下品で爽やかな映像に仕上がっています。

百足 & 韻マン Prod. @thekontrabandz 「君のまま」

「BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権」出身で、MCバトルで活躍してきた百足さん、韻マンさんによる一曲。TikTokなどのSNSを中心にヒットし、MVは記事執筆時点で2000万回以上再生。上半期を代表するヒット曲となりました。

別れそうになっている相手への未練と悔恨、そして複雑な感情のこもった“君のままでいて”というメッセ―ジを歌う百足さん。それとは対照的に、過去から現在にかけて、変わらない自分のままでいることを歌う韻マンさん。

フロウもさることながら、韻をことさら強調しているわけではないのに耳にするすると入ってくる2人のライミングが気持ちいい曲です。

guca owl 「ROBIN」

大阪府出身、ハスキーな声で淡々と自分のリアルを歌い上げるguca owlさんの1曲。

“ずいぶん高い壁だったよ/でも俺はいつも試練を楽しんでる”と語られている通り、2020年の「High Wall」で自分の前にそびえる試練について歌っていたguca owlさんが、過去の自分と地元について振り返っています。

カントリーソングのようなビートに、時折混ぜられる“俺は98(年生まれ)、ゆとりは持って生まれてる”のような皮肉っぽいユーモアが効いていて、シブい楽曲に仕上がっています。

ralph feat. JUMADIBA & Watson 「Get Back」

ralphさんが、2023年最も勢いのあるJUMADIBAさんとWatsonさんの2人を客演に迎えた1曲。

不穏な雰囲気のビートとは裏腹に、飄々としたフロウでサッカーや手塚治虫『ブッダ』に登場するアッサジなど趣味を詰め込んだJUMADIBAさん。成り上がっていく自身の感覚を実感のこもった言葉で歌い上げるWatsonさん。

そしてそれぞれのバースをralphさんのフックがまとめ上げ、曲の命題でもある、成り上がり地元に凱旋する様を歌う。それぞれのスタイルが出ているからこそ、個性的な3人が同じ曲に共存している意味がより高まっています。

「03- Performance」に投稿されたremix版では、Watsonさんで歌われる自分のメモの金額が上がっていたりと、その成り上がり物語が現在進行形で続いていることが伺えます。

VaVa & kZm 「REVENGERS!」

SUMMIT、YENTOWNという現在のヒップホップシーンを牽引するクルーからVaVaさんとkzmさんが共演した1曲。

2人の相性は、VaVaさんがビートを提供したkzmさんの楽曲「Yuki Nakajo」で実証済み。今回の曲では、疾走感のあるトラックで2人が近況を歌っています。

任天堂、神羅カンパニー(『ファイナルファンタジーVII』)といった往年のゲームから、バキバキ童貞、五等分の花嫁、ZETA DIVISIONなど近年のナードカルチャーのホットトピックスを織り交ぜたVaVaさんのバース。そしてそれとは対照的に、ドラッグによるトラブルを物ともしない日々を歌うkzmさんのバース。

両極端だからこそ、お互いの魅力がさらに引き立てられています。

Bonbero, LANA, MFS, Watson 「Makuhari」

幕張メッセを会場とするヒップホップフェス「POP YOURS」に向けてリリースされた、若手のスターたちによる一曲。それぞれにシーンで価値を証明してきた4人にして、普段はなかなか交わらない面々が集まっています。

韻を畳みかけるBonberoさん、逆に少ない言葉数で自分をボースティングするMFSさん、歌唱力に定評があるLANAさん、生活を反映した実直なリリックでシーンを駆け上がるWatsonさん。

「2020年代のポップカルチャーとしてのヒップホップ」をテーマとするPOP YOURSらしく、2023年現在のシーンを象徴するような楽曲になっているでしょう。

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:11829)

独断と偏見で選んだとしても、playersplayerを選ばないのは何故だろう?呆れるほどの知識不足ですね…編集部の方々はhiphopの知識をつけてから、こういったまとめ記事を作って頂きたいです。