【WIRELESS JAPAN 2010】
エリクソン藤岡氏、モバイルの現状と周波数問題に言及


日本エリクソンの藤岡氏
LTEの動向

 日本エリクソンは、「世界のマーケットトレンドとエリクソンの取り組み」と題してプレスセミナーを開催した。同社のCTOで工学博士の藤岡雅宣氏が登壇した。

 藤岡氏によれば、エリクソンの市場シェアは微増といった状況だが、売上は安定しており、北米や中国市場で堅調に伸びているという。LTEにおいて、エリクソンのシステムを選んだ事業者は、海外ではスウェーデンのTeliaSonera、米MetroPCS、米Verizon Wireless、米AT&Tとなっている。国内ではNTTドコモが無線システムの採用を発表している状況だ。いずれも上りと下りで異なる周波数が割り当てられるFDD方式を採用している。

 昨年12月、TeliaSoneraは世界で初めてLTEの商用サービスを開始した。藤岡氏はTeliaSoneraのLTEシステムについて、10MHzの帯域幅で40~50Mbps程度の通信速度であるとした。

 TD-LTEの動向についても言及し、2010年の後半に中国の深センにおいてチャイナモバイルが大規模な実証実験を予定していると説明した。ただし、商用サービスの開始時期については、「中国では試験期間と商用開始時期があいまい」との理由で、サービス開始時期については語られなかった。

 インドでは6月に周波数オークションを終了し、各地域の落札者が決まっているため、いつでもサービスが開始できる状態にあるという。エリクソンでは、2010年後半に実証実験を行う予定。また、米国では、CleawireがWiMAXに加えて、TDD-LTEの検討を開始しており、周波数に余裕があるためFDDについても検討されているとした。

 HSPA方式については、世界で353の通信事業者がサービスを展開しているとした。このうちエリクソンのシステムを採用する事業者は156事業者に上る。下り最大21Mbps以上のHSPA+の事業者が増加傾向にあると説明された。

 また、国内ではイー・モバイルがサービスを提供すると発表した「DC-HSDPA」についても説明した。「DC」は「Dual Cell」の省略形で、上りと下りで同じ帯域幅ずつを使う従来のHSPAにおいて、下りの帯域幅に隣接した周波数幅も使えるようになるものとした。上りと下りで5MHz幅ずつ割り当てられたシステムの場合、「DC-HSDPA」は上り5MHz幅、下り5Mhz幅×2となるわけだ。これによって下り最大42Mbpsが実現される。



トラフィック増でも収益は伸び悩む

 通信速度が向上する一方で、通信事業者を悩ませるのが収益構造の問題だ。藤岡氏は、「世界的にトラフィックが増加している。事業者はトラフィック増をどうやって収益に結びつけていくかが課題。トラフィック増加に対して収益の伸びは鈍い」と語った。

 トラフィック対策について説明した藤岡氏は、ヘビーユーザーのトラフィック制限やトラフィックの種類によって優先度をつけることなどが有効とした。サービス開始当初はヘビーユーザーが多いため、契約者が増えるとトラフィックが減少する例もあるとしたが、もっとも効果があるのは帯域制限だとした。このほか、ビット当たりのコストを下げるために、自立型のネットワークオペレーションであるSON(Self Organizing Network)などを導入してコスト削減していく必要性を語った。

 なお、通信トラフィックの特性も紹介され、携帯電話のデータトラフィックが1とすると、スマートフォンは10、パソコンは100であると述べた。無線アクセスネットワーク(RAN)のトラフィックは携帯1:スマートフォン3:パソコン9、コアネットワークのトラフィックは携帯1:スマートフォン2:パソコン2とした。

 スマーフォンは消費電力を抑制するために、データ通信が強制的に休止状態になると説明し、休止状態からデータ転送すると多くの制御信号が発生するほか、通信状態になるまでに時間がかかってしまう。制御信号量を抑制し、すぐに通信できるようにするためには、休止状態にするのではなく休眠状態とし、無線状態を最適化する必要があるとした。

 さらに藤岡氏は、日本の携帯電話周波数についても言及した。

 藤岡氏は、日本の携帯電話で使われている周波数が2GHz帯を除き、850MHz、1.5GHz、1.7GHzなどいずれも海外と共通性のない固有の周波数割り当てだとする。「ガラパゴス化ゆえに余分なコストがかかっている」と述べ、現在再編が進められている700-900MHz帯についてはグローバルに合わせるよう提案していると述べた。

 エリクソンを含め、アンテナベンダーやチップセットベンダー、端末ベンダーらとコストを試算したところ、年間で1000億円を超える追加コストがかかっているとした。これは検証コストや開発コスト、量産効果が得られない点などを勘案した数値という。藤岡氏は、「なんらかの妥協案を期待している」と語った。

 また、ソフトウェアSIMによる取り組みについても説明した。現在3GPPで標準化作業が進められているソフトSIM「MCIM(Machine Communication Identity Module)」は、携帯電話以外の機器にSIMの実行環境を搭載するというもの。例えば、デジタルカメラなどにこの機能が実装されていると、後から通信信事業者を選べる。海外渡航者が日本で購入したカメラを、国に持ち帰ってから自国の事業者が選べるようになる。早ければ2011年にも標準化が完了するという。


 



(津田 啓夢)

2010/7/16/ 14:24