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KDDIに聞く
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「KCP+」導入の狙いと難産の理由
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auの携帯電話に採用された新プラットフォーム「KCP+」。導入の狙いについて、KDDIのau商品開発部 部長の内藤幹徳氏と同プロダクト企画部 課長の松井伴文氏に聞いた。
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au商品開発部 部長
内藤幹徳氏
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――従来からあった「KCP」というプラットフォームに「+」がついて、バージョンアップしたわけですが、今回の「KCP+」を開発するにあたっての狙いを教えてください。
内藤氏
KCP+は、おっしゃる通りKCPの進化版という位置付けですが、実は同時にさまざまな試みがなされています。一つはクアルコムさんの新チップセットの導入です。デュアルコア対応のMSM7500を採用しました。それから、マルチタスクの環境を実現するために、BREWのバージョンを上げています。さらに、ソフトウェアの共通化領域を、端末のほぼ全域に広げるという3点を実現しています。
なぜこの3点なのか、ということですが、いくつか理由があります。まず、auの目指している端末の戦略に沿ってラインナップを組むためには、従来使っていたチップセットより高いパフォーマンスが必要でした。また、マルチメディアを追求していけば、やはりマルチタスクは必須となります。そしてコストですね。コストを視野にいれた時、ソフトウェアの非競争領域を広げれば、端末メーカーも開発リソースを本当に必要な部分に注ぎ込めるようになり、コスト削減と商品競争力の両方を成り立たせる仕組みをKCP+が可能にしていると言えます。
――「au one ガジェット」などが目に見える形で出てきていますが、それぞれのサービスや機能については当初から描いていたものなんでしょうか。
松井氏
2007年秋冬モデルの商品戦略を作っていく中で、インターネットと映像という、auの強みを拡張していくということが根幹にありました。ちょうど同じタイミングでMSM7500とKCP+の開発の話があり、じゃあ新チップセットでどこまでできるのか、ということになりました。その結果、映像・音楽面ではワンセグとBluetoothへの対応、インターネットではガジェットの機能を搭載する形で反映できました。
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プロダクト企画部 課長
松井伴文氏
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――KCP+を導入した結果、今後いろいろな機能強化が考えられますが、どういったことを想定されているのか、お話できる範囲で教えてください。
松井氏
この春に発表したワイヤレスミュージック環境についてはスタートしたばかりですので、引き続き夏に向けて利用シーンの提供も含めて広げていきます。映像面では、弊社の製品では一部ディスプレイに有機ELを使っていますので、有機ELの特性を生かしたコンテンツ作りを今後は検討していきたいです。
――発表されてからもわりと難産だったイメージがありますけれど、一番苦労されたのはどこでしたか。
内藤氏
やはり、全領域で新規開発だったというのが大きいと思います。過去の資産を継承していませんから、まず開発工程が非常にタイトでした。特にマルチタスク環境については、ユーザーの使い勝手も含めて、きっちり狙った品質に落とし込む、というのが最も苦労した部分です。
――イチから作り直したというお話でしたが、いつ頃からKCP+というのは動き出していたのでしょう。
内藤氏
企画構想の段階も含めると、2年以上前になります。実際の開発に着手したのは約1年半前です。
――その過程というのは、クアルコムのMSM7500の開発にも反映されたのでしょうか?
内藤氏
そこは、MSM7500というハードウェアがベースにあって、クアルコムさんがOSを含む一部ソフトウェアのパッケージをリリースされました。KDDIとしてはそれに対して、こんなことをやりたいという要望を事前に送り、実際にいろいろと反映されています。特にマルチメディア機能については、技術的なすり合わせをした上で反映されたものになっています。
――現状、KCP+対応端末については、繰り返しソフトウェアのアップデートが実施されています。端末全領域にわたって作り直すとなると、やはり影響は少なからず出てきてしまうのでしょうか?
内藤氏
検証については膨大な量の評価を積み上げてきています。しかしながら、検証を進めていく途中で、既定の評価項目ではそもそも足りない領域が出てきます。これは新しい開発を行なえば常に起こることです。大切なのは、足りない部分に対して、スケジュールやリソースを順次調整し、リカバリーできるかどうか、ということだと思います。
――今回はリカバリーしきれなかった、と。
内藤氏
残念ながらそうですね。最大の原因は、当初我々が想定していた時間内で、問題を解決しきれなかったことにあります。想定内で収まっていれば、あとは最終評価を集中的に行なうだけで済みましたが、その範囲内で評価しても、元々考えていた商品としてユーザーに提供できる品質に届かないと判断し、スケジュールをずらす結果になってしまいました。
――今のお話を伺うと、「年内に発売」と公式発表をした時点で、実際には間に合いそうになかったように思えますが、そこは開発陣の努力で遅れを取り戻すつもりだったのでしょうか。
内藤氏
その通りです。当時は何としても年内にという意気込みでした。
――KCP+の一番のポイントは、やっぱりマルチタスクだと思います。マルチタスクの見せ方やUIも、各社共通でというのは最初からあったお話なんですか? 最近ですとAQUOSケータイのように横向きタイプもありますし、汎用性は気になるところです。
内藤氏
さまざまなハードウェアが来ることは、もちろん完全ではありませんが大方は予測できていることです。純粋に画面が横向きになるだけなら、きちんと動くように設計されています。UIの画面をどこまで表示するかについては、実は縦横だけの問題ではなく、液晶サイズも影響しますので、そこはメーカーごとにチューニングしてもらう前提でKCP+は設計してあります。今後、従来にはないハードウェアが、例えばフルワイドVGA液晶がもし出てきたらどうなるのか、というお話だと思いますが、これもチューニングだけで対応できます。ただ、見栄えの問題はまた別の話ですから、チューニングを超えた修正は必要になるでしょうね。
――マルチタスクの切り替え画面やメニュー部分というのは、メーカー側がわりと自由にデザインできるんですか?
内藤氏
マルチタスクの制御部分については、システム側で持っています。しかしユーザーが目にする表層のUIについては、メーカー側でテイストを変更してまるで違うモデルのように見せることは、もちろんできます。
――UIのカスタマイズについて、ちょと極端な話になりますが例えばWindows Vistaのフリップ3Dみたいなことは、リソースが許すかどうかはまた別として、やろうと思えば可能であると解釈してよいのでしょうか。
内藤氏
アプリケーションのレベルまで作る、ということをすればもちろん可能ですよ。しかし先ほど申し上げたのは、アプリケーションまでいじらなくても、ソフトキーのデザインですとかUIを部品化して、その部品単位での入れ替が可能ということです。「W56T」と「W54SA」を比べていただければ分かりやすいと思いますが、中のソフトは全て共通なのに、見た目としては全く違うものになっています。
――個人的な感想になりますが、実際にKCP+対応端末を使ってみて、タスクを切り替えるボタンがもう少し分かりやすければ、と思いましたが、いかがでしょう。
松井氏
そうですね、そこは私自身も使用してみて実感しています。今後改善すべきところはきっちり対応していきたいと考えています。
――逆に言えば、そこまでメーカー側に開発の自由度があったということになりますが。
内藤氏
東芝さん、三洋さんとは設計レベルの話から、こういった商品を作りたいというイメージを描きつつ、一緒に話し合って開発を進めました。我々としては待受画面のユーザビリティなど、ユーザー視点での使い勝手をもっともっと追求していかねばと考えています。
――ちなみに、御社に端末を提供しているメーカーの中で、なぜその2社が選ばれたのでしょうか?
内藤氏
最初にお話しした弊社が目指したい3つのポイントをまず全メーカーにはお伝えしました。その結果、東芝さんと三洋さんに決まった、ということです。
――それ以外のメーカーも今後はKCP+端末を出していく予定なのでしょうか? 全機種がKCP+搭載になる、おおよその時期なども一緒に伺いたいですが。
内藤氏
エントリーモデルにMSM7500というリッチなチップを積んだ商品を投入するのは無駄ですから、まずはミドルクラスからハイエンド端末については、かなり早い時期に全てKCP+対応にする予定です。
松井氏
これからKDDIが推していきたい新サービスは、基本的にKCP+上で開発していきますので、主力商品の多くはKCP+対応端末になります。一方で通話やメールができれば十分というユーザー向けには、それに適したプラットフォームを使うという棲み分けが、2008年には起きるでしょう。
――非競争範囲が増えることで、端末を開発するメーカーはデバイス部分でしか差別化を図りにくくなると思います。結果として、どこも似たような製品しか出てこない、という心配はありませんか?
松井氏
ベース部分をMSM7500にしたというのは、KDDIで共通で考えているサービス面に関して、なるべくどこのメーカーもコストを抑えて、迅速に端末を開発できるようにするためです。製品の差別化という点ですが、これは今まで個々に開発が必要だった部分のパワーを、ディスプレイやカメラなどのデバイス、デザイン、ボディの素材選びやカラーといった見栄えも含めてリソースを割き、工夫して欲しいという思いがあります。
――Rev.Aにも対応していますが、高速通信を使ったキラーコンテンツも同時に考えた上で設計されたのでしょうか?
松井氏
テレビ電話機能を搭載したのが、Rev.Aを意識したサービスの1つです。それ以降については、我々ももっと考えないといけませんね。
――我々の発想としては、御社のサービスでイメージしやすいのはGPSを使ったもの、あるいは音楽サービスになります。
内藤氏
サービス内容を広げていく土壌は既にあります。後はユーザーにどんなものが受け入れられるのかを考えていくだけです。
松井氏
今はちょうど、ユーザーが外に出てアクティブになり始める春をターゲットにしています。これから夏に向かって、さらに色々と企画していますから楽しみにしていてください。
――BluetoothもKCP+のプラットフォームに最初から組み込む予定だったのでしょうか。
松井氏
LISMOのサービスを広く訴求するために何が必要か、1年半ほど前から考えていた時に、携帯電話とiPodなどの音楽プレーヤーの違いとして「イヤホンケーブルをうまく収納できないこと」だと気が付いたんです。個人的に携帯電話で音楽機能を使っていても、イヤホンケーブルが邪魔だなと感じていまして。これを解決する手段として、やはりBluetoothは最適だと気が付きました。そこから生まれた発想としてLISMOは、iPhoneよりもワイヤレスでスマートに音楽を聴くスタイルを訴求しようと、Bluetoothを採用しました。
――御社もいよいよBluetoothに本腰を入れていくと考えてよいのでしょうか?
松井氏
そう考えて下さって結構ですよ。
――ところで、ここまで苦労されたKCP+というプラットフォームがありつつ、一方で「Android」という話も出てきています。2つのプラットフォームの棲み分けについてお考えを聞かせてください。
内藤氏
それについては正直、考えている最中としかお答えできないです。ビジネスモデルとしてもどうするかは検討中です。ただ、直近ではKCP+ベースのラインナップが主流になると思います。
――どうでもいい質問ですが、KCP+はなぜ「+」だったのでしょうか。「KCP 2.0」とか、いろいろ案はあったんじゃないですか?(笑)
内藤氏
まぁ、分かりやすいのが一番ということです(笑)。ほかには「KCP II」「KCP++」「KCP 2.0」などが候補にありましたよ。
――最後に読者にコメントを一言お願いします。
松井氏
まだ対応端末は少ないですけれど、これからKCP+だからこそ広く展開できた音楽系機能、ガジェットなど新しい機能・サービスをどんどん提供していきますので、皆様に使っていただきたいです。
――本日は、長時間ありがとうございました。
■ URL
ニュースリリース(KDDI統合プラットフォーム「KCP+」の構築完了について)
http://www.kddi.com/corporate/news_release/2007/1016d/
au one ガジェット
http://www.au.kddi.com/ezweb/service/gadget/index.html
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(編集部, 麻生 ちはや)
2008/04/14 11:55
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