「慰安婦決議案」が米下院で可決されましたが、その件は別途書くとして、前々回の「従軍慰安婦・南京虐殺がなかったと思っている人へ-1」の続きです。
前回エントリーで、「参考になった本」と書いたのは、この本のことです。
なぜ人はニセ科学を信じるのか
歴史のことを書いているのに、なぜに「ニセ科学?」と、本のタイトルに引っかかる方もいるでしょうが、とりあえず引用していきます。
この本には慰安婦や南京の話は出てきませんが、ナチス・ドイツによるホロコーストを否定する論調に対して言及しています。それと同時に、歴史学とはどのような方法で研究されるのかを示しています。
証拠の収束 (P.191~)
人が何かについて議論したいと思えば、異なった出典からその結論の確証となるような追加の証拠を提出しなければならない。
歴史学者たちは、 考古学や古生物学と言った歴史分野の科学者達が使うのと同じ一般的な方法-ウィリアム・フューエルが「帰納的一致」、あるいは証拠の収束と呼ぶものをよりどころとして、ホロコーストが実際にあったと考えている。
否定論者は、ホロコーストという構築物に一つでも小さな亀裂を見つけることさえ出きれば、その殿堂全体が崩れ落ちると考えているように思える。これが彼らの理論の根本的な弱点である。
ホロコーストはたった一つの出来事ではない。ホロコーストは、何万もの場所で起こった何千もの出来事であり、一つの結論へと収束する無数のこまかな事実によって証明されているのだ。
ホロコーストとはそもそも、こういった個々の小さな事実によって証明されているわけではないのだから、当然、あちこちに見られる小さな間違いや矛盾だけを根拠に論破することなど出来ないのである。
ちょっと話はそれますが、この「証拠の収束」の手法は、「進化論」でも用いられているようです。
アメリカでは、宗教的理由からダーウィンの「進化論」を認めず、人類は神によって創造されたという「創造論」が幅を利かせていて、アメリカ成人の48%が進化論を否定しているという調査もあるくらいです。
メディアリテラシー的には、この調査がどのように行われたのかにもツッコミたいところですが(^^;、それはさておき、このアメリカの実態は、信心深さと言うよりも、「進化論」の弱点を突き「創造論」が科学的に証明されたかのように見せる勢力の活躍による面も大きいようです。
では、進化論を導く「証拠の収束」とはどのようなものなのでしょうか。
たとえば進化は、地質学、古生物学、植物学、動物学、爬虫類学、昆虫学、生物地理学、解剖学、生理学、比較解剖学などからの証拠の収束によって証明される。
これらは様々な分野の証拠のひとつが「進化」を示しているわけではないのだ。
化石は、一枚のスナップ写真に過ぎない。ところが地質学的な地層の中の化石が同じ種や異なった種の他の化石と共に研究されたり、他の地層に見られる種と比較され、あるいは現代の生物と対比され、世界各地や、過去や現在やそのほかいろいろなところの種と並べられると、それはスナップ写真ではなく、映画になる。
それぞれの分野からの証拠が大いなる結論-進化へと昇華するのである。その道程はホロコーストを証明する場合も同じである。
現在の生物をどれだけ詳しく解剖して調査しても、それだけでは何千万年前の姿はわからないのと同様、一片の情報だけでは歴史的事実は見えてこない。また、一部の証拠や証言の真否を問うだけで、歴史をひっくり返すことはできないということです。
さまざまな証言・証拠を比較・対比し、並べていくことで、はじめてまともな歴史研究となる、そういうことのようです。
そもそも、過去に起こったとされる出来事を、当事者でない人間が調べるのは大変な作業だと思います。人間の記憶は元々曖昧なものですし、処分されてしまった文書もあるでしょう。しかし、その他の情報を組み合わせていくことで全体像は見えてきます。
慰安婦問題については、決定的な「命令文書」が見つからないからと言って、「なかった」と言い切ってしまうのは、やはり短絡的な結論と言われても仕方ないと思えますね。
「なかったとは言い切れなくても、あやふやなのだから、もっときちんと調査すべきだ!」とおっしゃる方もいると思いますが、それは下記の政府調査文書に全部目を通してから言った方がよろしいのではないか、と・・・。
「証拠の収束」の手法で調査研究されていることが見て取れる資料だと思います。
「慰安婦問題は、反日朝日新聞が捏造したものだ」と思いこんでいる人にも見て欲しいですね。
まぁ、個人はともかく、少なくとも慰安婦問題をネタの一つとして政治・言論・著作活動を行っている著名人は一読すべき調査文書だと思います。
と、偉そうに書きましたが、この文書類がネット上で読めることに私が気づいたのは、つい最近でして、今、下記の『「慰安婦」問題調査報告・1999』を読んでいるところです。パソコンの画面で読むと目を悪くしそうなので、会社のプリンターで全部印刷して読んでいます(^^;。全部で143ページですから、普通の本を一冊読む程度ですよ。ネットで無料で読めますし。
(次回に続きます)
■慰安婦問題政府調査文書
(2007/9/30 リンク修正:
「デジタル記念館『慰安婦問題とアジア女性基金』」の開設に伴って下記査報告書類のurlが変わっていたようですのでリンク先を修正しました)
『「慰安婦」問題調査報告・1999』-1(PDF 59KB)
目次、刊行に当たって
『「慰安婦」問題調査報告・1999』-2(PDF 107KB)
政府発表文書に見る「慰安所」と「慰安婦」
~『政府調査「従軍慰安婦」関係資料集成』を読む~
『「慰安婦」問題調査報告・1999』-3(PDF 33KB)
防衛庁 防衛研究所所蔵「衛生・医事関係資料」の調査概要
『「慰安婦」問題調査報告・1999』-4(PDF 100KB)
「半島女子勤労挺身隊」について
『「慰安婦」問題調査報告・1999』-5(PDF 278KB)
雲南・ビルマ最前線における慰安婦達-死者は語る
『「慰安婦」問題調査報告・1999』-6(PDF 68KB)
インドネシアにおける慰安婦調査報告
『「慰安婦」問題調査報告・1999』-7(PDF 167KB)
日本占領下インドネシアにおける慰安婦
~オランダ公文書館調査報告~
『「慰安婦」問題調査報告・1999』-8(PDF 15KB)
著者紹介
『政府調査「従軍慰安婦」関係資料集成』-1
警察庁関係/外務省関係公表資料(581ページ PDF 8.2MB)
『政府調査「従軍慰安婦」関係資料集成』-2
防衛庁関係公表資料(上)(349ページ PDF 5.8MB)
『政府調査「従軍慰安婦」関係資料集成』-3
防衛庁関係公表資料(下)(411ページ PDF 6.3MB)
『政府調査「従軍慰安婦」関係資料集成』-4
国立公文書館所蔵/大英帝国戦争博物館/厚生省関係公表資料
(312ページ PDF 4.5MB)
『政府調査「従軍慰安婦」関係資料集成』-5
米国国立公文書館所蔵/国立国会図書館所蔵資料(294ページ PDF 5.3MB)
■参考リンク
Non-Fiction(Remix Version) なぜ人はニセ科学を信じるのか/マイクル・シャーマー
Non-Fiction(Remix Version) しゃれになりません
Apes! Not Monkeys! はてな別館 - 慰安婦・慰安所に関してオンラインで閲覧できる一次史料
どんな証拠を突きつけても否認し続ける人びと(追記あり)