めんどくせぇことばかり 『半暮時』 月村了衛
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『半暮時』 月村了衛

児童養護施設で育った元不良の翔太は先輩の誘いで「カタラ」という会員制バーの従業員になる。

ここは言葉巧みに女性を騙し惚れさせ、金を使わせて借金まみれにしたのち、風俗に落とすことが目的の半グレが経営する店だった。〈マニュアル〉に沿って女たちを騙していく翔太に有名私大に通いながら〈学び〉のためにカタラで働く海斗が声をかける。

「俺たち一緒にやらないか……」。二人の若者を通した日本社会の歪み、そして「本当の悪とは」を描く社会派小説。

会員制のバーっていうのはホストクラブですね。以前はお金を持っているマダムたちを上客として営業していましたが、今は違うようです。学生であったり、とにかく若い女性をたらし込み、ホストクラブの客として金を使わせるというやり方です。若い女性がそんなにお金を持っているはずありませんから、借りられるだけ借りさせて借金漬けにし、風俗に落とす。

人生をメチャクチャにしてしまうわけです。ロクナもんじゃありませんね。そんなホストクラブをいくつか経営しているのが、半グレと呼ばれる準暴力団のリーダー、さらにリーダーは本物の暴力団ともつながっているという設定になっています。

翔太は声をかけてきた海斗と組んで、カタラにおけるホストのトップに立ちます。半グレのリーダーからも見込まれます。そのカタラが、警察に摘発されます。

翔太は逮捕されます。しかし、海斗は逮捕されませんでした。被害にあった女性たちの中には被害を訴え出ない者が多かったし、お金を積まれて示談に応じた者もいました。つかまった連中もうまく立ち回る者が多く、半グレのリーダーまで執行猶予がつきます。実刑が下ったのは翔太だけでした。

二人、手を組んでのし上がった翔太と海斗でしたが、二人の罪と罰は、ここからまったく違う道を歩んでいくことになります。


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『半暮時』    月村了衛

双葉社  ¥ 2,090

二人の罪を犯した若者を通して日本社会の闇と本物の悪をえぐる
第一部 翔太の罪
第二部 海斗の罰

海斗はカタラだった過去を何とか誤魔化して、一流大学生に戻ります。そしてまんまと超一流企業であるアドルーラーへの就職を決めます。

読んでいて、幾つかの事件が頭に浮かびました。

調子に乗った市川海老蔵が半グレにボコボコにされた事件がありましたけど、この物語の中ではチンピラ芸能人の春日部祐輔が顔が腫れるほど半グレに殴られています。

海斗が社会人としての実績を積むことになるアドルーラーのモデルは電通のようです。電通では、東大卒の女性社員が自殺するという出来事がありました。2015年のことですね。明らかな過労死でした。さらには、上司からの酷いパワハラにセクハラが明らかにされました。物語の中に同じような設定があり、パワハラ上司が海斗となっています。

そんな風に、いくつかの本当にあった出来事を、日本社会の現状の上にセットして物語を作り上げています。そして、その後の翔太と海斗を対照的に描くことで、日本社会の闇を浮き彫りにしていきます。

怖いですね。本当の闇は、いわゆる“闇の世界”にあるんじゃないようです。私たちと同じ地面を踏んで、私たちと同じ明るい世界を歩いて、ニコニコ微笑みかけてくる闇。その闇は私たちを踏みつけにすることを、なんとも思わない。心を痛めることもない。そんな闇が、今の日本を圧倒的に支配しているようです。

この『半暮刻』、「はんぐれどき」と読みます。これはお話、小説ですが、日本社会の真実の一部を、的確に描いているようです。とても怖いけど、微かな暖かさも感じながら読むことができました。


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テーマ : 読んだ本。
ジャンル : 本・雑誌

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こんな本、あんな本
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この本、今でも売れてるんですね。何時頃読んだんだろう。記憶も定かじゃないけど・・・。この男の子が嫌いでね。涙が出た。白血病で入院してた女子高生にこの本を送ったことがある。感想、聞かせてもらってないな。

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高校で山岳部に入ったんだよね。もとが山ん中だからさ。そんでもって山岳部っていうのもどうかと思ったんだけど。この本を読んじゃったもんでね。入部したての1年の夏休み、北鎌尾根から槍に登った。・・・記憶に誤り。取り付いただけだった。

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今みたいに女の裸が氾濫している時代じゃなかったわけですよ。私の中学生時代っていうのは・・・。そんな時代なのに、中学校の図書館に置いてあったんですからね。この表紙の本が・・・。手にした理由はもちろんこの表紙の女。・・・もちろんそんなことは誰にも言えない。ただ、以前から無類の本好きであったことは功を奏した。それに加えて、私は以前からのSFファンということになった。この本を不自然なく手にするために・・・。
やられた本
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