アノーラの舞台となったブライトン・ビーチ(写真:Veronika Toth/shutterstock)アノーラの舞台となったブライトン・ビーチ(写真:Veronika Toth/shutterstock)

(元吉 烈:映像作家・フォトグラファー)

 ニューヨーク・ブルックリンのロシア人コミュニティを舞台に、ストリッパーの主人公アノーラと、オリガルヒ(ソビエト連邦の崩壊後のロシア経済の民営化で急速に成長したブルジョワ)の放蕩息子イヴァンとの恋愛をハイテンションで描く映画「アノーラ」がアメリカでヒットしている。10月半ばに公開された後、現在も多くの映画館で上映されている。

 監督のショーン・ベイカーは「レッド・ロケット」や「フロリダ・プロジェクト」など、近作では性産業に従事する人たちを描いてきたが、本作でもそのテーマは一貫している。

 ニューヨークのブルックリン南端、ロシア系移民が多く住むブライトン・ビーチを舞台にアノーラとイヴァンのロマンス、それに反対するイヴァン一族のてんやわんやが繰り広げられる本作は、監督自ら言うように現代版シンデレラとも言える物語だ(ストリッパーは必ずしも性産業ではないが、アノーラはストリップ・バーで知り合った男性客と店外でセックスをしている、という意味で性産業従事者と言える)。

※映画の物語に触れるネタバレがありますのでご注意ください。

 ストリップ・バーでアノーラが次々と男性客に声を掛けていくシーンから始まる本作。大きな口と瞳が一際目立つにもかかわらず、この主人公は、なかなか男性客からいい返事をもらうことはできないし、客の取り合いで同僚との諍いも絶えない。

 店の営業が終わる早朝に帰宅して、窓のすぐ外に電車が轟音で通過する部屋のベッドに沈み込んでいると、ルームメイトに「牛乳を買ってきたか?」と聞かれ、アイマスクを外すこともなく「冷蔵庫にないんでしょ?(それなら買ってない)」と答えるなど、自宅でも殺伐とした人間関係をサバイブしている。

アイマスクをつけたまま返事をするアノーラ(写真:●●●●)アイマスクをつけたまま返事をするアノーラ(写真:NEON)