名前こそ同じだが、今日のCRMはかつて知られていたCRMではない。クライアントサーバー時代には、エンタープライズコンピューティングはほぼ社内システムの自動化だけを対象としていた。しかし今では、社外との境界線であらゆるイノベーションが起こっており、私が「摩擦のない企業」と呼ぶものを目指して、見込み客、顧客、パートナーなど社外とのやりとりが自動化されつつある。
Gartnerが、今後最高マーケティング責任者(CMO)は、最高情報責任者(CIO)よりもITに対して多くの予算を必要とするようになるだろうと言っているのも不思議ではない。これは、CIOの支出が減るというわけではない。CMOの扱う業務がこれまでになく自動化できるようになっており、今では競争力の維持だけのために急速に自動化を進める必要が生じているのだ。
この変化は、クラウド事業者にとっては天からの贈り物だ。こうした社外とのやりとりは、すべてクラウド事業者の縄張り、つまり従来のエンタープライズソフトウェアが踏み出すことを恐れていた、企業のファイアウォールの外側で起こっているからだ。スマートデバイスやオンラインでのやりとりの普及は、CRMのプロセスを(文字通り)見込み客と顧客の手にまで広げてしまった。
今日では、買い手は営業担当者と話を始める前にしっかりと市場を調査し、売り手と接触するときには、買い手に合わせた、応答の速い、ブラウザやモバイルアプリで直接つながる関係を期待している。コンシューマライゼーションの流れは、購入する物が自分用のブランドバッグなのか雇い主のための衛星打ち上げシステムなのかにかかわらず、これを実現している。
オンラインでのやりとりやモバイルアプリ、ソーシャルメディアの活用(そしてオンラインおよびオフラインのやりとりを最大限に理解するための分析手法)を追求していない企業は、準備の足らない、接触する価値のない企業だと見られるリスクを負うことになる。
CRMの再定義
本稿は、古くて確立されたエンタープライズソフトウェアの1分野であるCRMが、現代のニーズに合わせて、どのように再調整され、置き換えられつつあるかに注目している。
これは大きなトピックだ。企業の境界線を越えたCRMの拡大は、現在ではこれが、デジタルおよびソーシャルマーケティング、ウェブサイト管理、モバイルアプリなどの領域も包含していることを意味している。これには、販売のためのコミュニケーション、修理依頼、請求処理、保証対応なども含める必要がある。CRMは、外部の多くのソーシャルメディアや情報リソースを収集し、それに対応しなくてはならない。また、CRMは複数の直接的および間接的な接点を通じて、よい顧客体験を提供しなくてはならない。