ASUSの最新スマートフォン「ROG Phone 9 Pro」で格闘ゲーム「Mortal Kombat Mobile」を立ち上げた。チュートリアルが始まり、スコーピオンが繰り出したとどめの一撃が、サブゼロの頭蓋骨をバターのように切り裂く。この残虐な技は、ROG Phone 9 Proの目玉である185Hzのディスプレイによっていっそう生々しさを増し、血みどろの衝撃的な映像が目に飛び込んでくる。ROG Phone 9 Proは、ほとんどの大画面テレビよりも高いリフレッシュレートを誇るため、Mortal Kombatの場面がスマートフォンとは思えないほどの圧倒的な迫力で迫ってくる。
しかし、ROG Phone 9 Proがゲーマー向けスマホである理由はこれだけではない。端末の背面には小さなLEDディスプレイがあり、(かつてNokiaの携帯電話に搭載されていた)「Snake」風のゲームなど、4つのレトロスタイルのゲームを楽しむことができる。操作は「AirTriggers」と呼ばれる側面のタッチセンサーを押したり、タップしたりして行う。一般的なゲームパッドのショルダーボタンのようなイメージだ。
つまり、このスマートフォンは前面でも背面でもゲームをプレイできるのだ。
他のスマートフォンメーカーがこぞって生成AIや折りたたみ式の斬新なデザインを取り入れ、消費者にアップグレードを促そうと躍起になるなか、ASUSはまるで砂場の片隅でひとり、自分だけの砂の城を作っている子供のようだ。ROG Phone 9 Proは明らかにゲーマーに照準を合わせているが、同時に未来のスマートフォンの姿も垣間見せてくれる。内蔵チップはQualcommの「Snapdragon 8 Elite」だ。このチップは2025年に登場するサムスンやOnePlus、小米科技(シャオミ)のプレミアムスマートフォンにも搭載されるとみられている。
ゲーマー向けの魅力的なスペックは当然、価格にも反映される。ROG Phone 9 Proの米国での販売価格は、16GBのRAMと512GBのストレージを搭載したモデルが1200ドル(約18万円)、今回のレビューで使用したモデル(24GBのRAM、1TBのストレージ)は1500ドル(約23万円)だ。ASUSはProモデルの他に、プロセッサーは同じSnapdragon 8 Eliteだが、背面の小型LEDディスプレイがない無印モデルも用意しており、こちらは1000ドル(約15万円)となっている。しかし、どちらを選ぶにせよ、基本的にモバイルゲーム用の端末である点は明確にしておいた方がいいだろう。ROG Phoneシリーズはさまざまなメディアニーズに対応し、質の高いカメラも搭載しているが、ゲーム性能を優先するために大きく妥協している点もある。
ASUS ROG Phone 9 Proの目玉はなんといってもゲーミング性能だ。ゲーム関連の機能には「Game Genie」と呼ばれる専用パネルからアクセスできる。これはゲーム中に画面の隅から斜めにスワイプすると、ゲーム画面に重なる形で表示されるサブメニューで、各種設定を調整し、プレイ体験を改善できる。ゲーム周りの新要素として、特筆すべきは185Hzのリフレッシュレートに対応したことだろう。この設定はゲームのプレイ中だけ適用される。ゲーム以外の用途ではリフレッシュレートは最大165Hzだが、これでも十分に速い。
185Hz表示への対応と新チップのおかげで、ゲームをコンソール(据置ゲーム機)レベルの美麗なグラフィックでプレイできるようになった。先ほどの「Mortal Kombat」に続き、「Dead Cells」(高リフレッシュレートに対応した2Dゲーム)を高解像度テクスチャをオン、フレームレート上限をオフにして起動してみたところ、160fps以上のフレームレートで安定して動き、戦闘シーンではどのダンジョンのモンスターもなめらかな動きを見せた。筆者はDead Cellsをモバイル環境でもコンソールでもよくプレイしているが、ROG Phone 9 Proでのプレイは「Xbox Game Pass」を利用して4Kテレビでプレイしている時の感覚に近かった。
続いて3Dゲーム「フォートナイト」をフレームレート上限の90fps、グラフィック設定を最高にしてプレイしてみた。バトルロイヤルのマッチを数回、リズムゲーム「Fortnite Festival」を12分ほど遊んでみたが、動作が不安定になることはなく、快適にプレイできた。
端末は確かに熱くなったが、持っていて不快になるほどではない。Game Genieの画面で確認したところ、「フォートナイト」プレイ中の最高温度は42度だった。
今回のレビューで使用したROG Phone 9 Proには、2024年版の「AeroActive Cooler」が同梱されていた。これは冷却ファンを内蔵したアタッチメントで、端末の横のUSB-Cポートとつなぎ、本体にクモのようにはり付けて使用する。「フォートナイト」のマッチ中にこのアタッチメントを付けたところ、端末の温度が42度から39度まで下がった。次のマッチではアタッチメントをつけっぱなしにして、Game Genieで本体の温度を確認したところ、38~40度の間に保たれていた。
高負荷設定で長時間ゲームをプレイする場合、このアタッチメントは役に立ちそうだ。しかし、本体の冷却システムとケースを組み合わせるだけでも、十分に快適に長時間のプレイを楽しめる。
ROG Phone 9 Proは、過去モデルと同様にパススルー充電に対応しており、バッテリーを使用せずに電源アダプターから直接端末を駆動できる。これはバッテリー性能を維持する助けになるはずだ。前世代の「ROG Phone 8 Pro」と同様に、ROG Phone 9 Proは65Wの有線充電と15Wのワイヤレス充電に対応する。
ゲーミングモードで利用できるAI機能も増えた。しかし、現時点でできることは限定的だ。ほとんどのゲームで利用できる「AI Grabber」(ROG Phone 8でも利用可)は、Googleの「かこって検索」のASUS版だ。円を描く代わりに、読み取りたいテキストにフレームを合わせると、簡単にウェブ検索ができる。ROG Phone 9 Pro版のAI Grabberには翻訳ツールも追加された。便利ではあるが、ブラウザーアプリに切り替えてもそう変わらない。AI Grabberは現在のところテキストしか認識できないため、今後、Googleの「かこって検索」のように画像も認識できるようになることを期待したい。
「原神」など、一部のゲームにはAIを利用したショートカットが用意されている。この機能を使うと、例えばプレイヤーが戦闘などの手動アクションに集中している間はAIにアイテムを自動収集してもらうといったことが可能だ。この他、プレイヤーの代わりにAIが画面をタップしてダイアログを自動で進めたり、敵が放ってくる罠の呪文をかわしたりすることも可能だという。この機能は特定のゲームにしか対応していないので、今回のレビューでは試せなかった。しかしAIをゲームのアシストツールとして使うというコンセプトはおもしろいので、使えるゲームが広がれば反復作業の簡略化などに活用してみたい。AIはゲーム機能の強化以外にも、通話時のノイズキャンセリング、会話中の通話翻訳、ボイスメモの書き起こしなどにも活用されている。
デザイン面での最大の特徴は強化されたLEDディスプレイだろう。端末の背面に648個のドットを表示できるミニLEDが搭載され、前述したようにミニゲームもプレイできるようになった。前モデルROG Phone 8 ProのミニLEDはドット数がほぼ半分の341しかないため、ROG Phone 9 Proで遊べるミニゲームはプレイできない。ROG Phone 9 Proの「AniMe Play」セクションでプレイできるミニゲームは「Speedy Runner」(無限ランゲーム)、「Snake Venture」(Nokiaのフリップフォンで人気を博した「Snake」と同種のもの)、宇宙船を爆破する「Aero Invaders」、「Brick Smasher」の4つだ。いずれもAtari風の見た目のミニゲームで、ミニLEDにちょっとした機能性を加えている。
ミニLEDには、ゲームではなく時刻や通知を表示するように設定することも可能だ。この小さな画面は、ROG Phone 9 Proの個性を際立たせるアクセントになっている。
ミニLEDを除けば、ROG Phone 9 Proのスペックと外観は2024年発売のROG Phone 8 Proとほとんど変わらない。両機種とも似たようなカメラ、AI機能を搭載し、2つのUSB-Cポートを(充電しながら横向きでもプレイできるように)底面と側面に1つずつ備える。ついに185Hzという高リフレッシュレート表示に対応した点を除けば、ディスプレイ自体は同じ6.78インチのAMOLED(解像度2400x1080ピクセル)だ。
しかし、前モデルに似ているのは悪いことではない。ROG Phoneのターゲットであるゲーマー、特に「ROG Phone 6」や「ROG Phone 7」からのアップグレードを検討しているユーザーにとっては、むしろ求めていたものにほかならないだろう。
ASUSの初期のゲーミングスマートフォンを使っているなら、ROG Phone 8シリーズから採用されたIP68の防水・防塵性能を備えたダークマットなデザインも魅力だろう。しかし、ROG Phone 9 Proを過去のモデルと隔てている最大の特徴は、なんと言ってもゲームモード時にスマートフォンとしては画期的な185Hz表示に対応したことに尽きる。
カメラの性能は悪くないが、あえてこの端末を選ぶ大きな理由にはならない。背面カメラは5000万画素の広角レンズ、1300万画素の超広角レンズ、3200万画素の望遠レンズの3眼構成となっており、さらに3200万画素の自撮りカメラを搭載する。
今回のテストでは、米CNETのオフィスでさまざまな写真を撮ったほか、極端な環境を求めて暗いカラオケバーでも撮影を試みた。結果として、明るいオフィスでも薄暗いスタジオでも、十分に鮮明な写真を撮影できた。
しかし、この価格帯のスマートフォンのカメラであれば、低照度環境でも細部を際立たせる工夫がもう少しあってもいいように思うが、ROG Phone 9 Proのカメラ性能は必要十分のレベルにとどまっている。例えば、カラオケルームの室内で広角レンズや自撮りカメラで撮った写真はノイズが目立つ一方、室内の様子は難なく把握できる。
前世代のROG Phone 8や、より一般的なユーザー層に向けた「Zenfone 11 Ultra」と同じく、ROG Phone 9 ProもASUS独自の動画手ぶれ補正機能を搭載している。この機能を使うと、画面が少しクロップされるものの、ジャイロスコープを使って動画内の動きを減らし、まるで「ジンバル」を使ったようなブレの少ない動画を撮影できる。この機能は設定でオフにすることも可能だ。
サムスンのGalaxy S24シリーズのような競合製品と比較すると、いくつか改善してほしい点もある。特に気になるのはソフトウェアとセキュリティのサポートだ。ASUSは現在、2年間のソフトウェアアップデートと5年間のセキュリティアップデートを保証している。ゲーム性能を重視するタイプのユーザーなら、2、3年後には端末の買い換えを検討する可能性が高いが、GoogleのPixelシリーズやGalaxy S24が提供している7年間のサポートと比べるとアップデートできる期間の短さが目立つ。また、現在ROG Phoneシリーズは光学式の指紋認証センサーを採用しているが、より高速な超音波式への変更も期待したい。光学式でも動作に支障があるわけではないが、ROG Phone 9 Proは1000ドル(約15万円)をゆうに超えることを考えると、ゲーム性能のために一部の機能を犠牲にしているという印象は否めない。
ROG Phone 9 Proのパワーは侮れない。CPUとグラフィックス性能のベンチマークテストを実施したところ、Geekbench 6と3DMarkのスコアが大幅に上昇し、2024年に入手できるほぼすべてのフラッグシップスマホを上回った。
バッテリー容量は、ROG Phone 8 ProやZenfone 11 Ultraの5500mAhを上回る5800mAhだ。この大容量バッテリーと高い電力効率のおかげで、バッテリー残量を気にせずに丸1日、快適に利用できた。もちろん、もっと負荷の高い設定で長時間ゲームをプレイすれば、バッテリーの減りは早くなる。45分間のバッテリー耐久テストでは、高負荷設定でゲーム「Dead Cells」をプレイし、さらにビデオ通話やYouTubeストリーミングも行ったところ、バッテリー残量は100%から89%に減少した。この消費量はROG Phone 8 Proのテスト結果よりも若干多いが、端末の処理能力が向上しているためだと考えられる。
ASUS ROG Phone 9 Proは、2025年に登場する新型スマートフォン、特に同じSnapdragon 8 Eliteまたは同等のプロセッサーを搭載するスマートフォンに期待されるパワーと性能を誇る。重いグラフィック処理も難なくこなし、185Hzという非常に高いリフレッシュレートでゲームをプレイできる点は高く評価したい。デザイン面の変更点はわずかだが、背面のLEDディスプレイはさらに個性的になった。
しかし、ゲーム好き以外にこのスマートフォンを薦めることは難しい。特に、他の主流のAndroidスマートフォンメーカーがもっと低価格の端末で多彩なサービスを提供していることを考えると、なおさらだ。Googleもサムスンも、写真の撮影や音声の文字起こし、翻訳など、幅広いAI機能の開発に多額の投資をしている。ASUSもGoogleの「Gemini」など、一部のAI機能に対応しているが、ASUS独自の取組みは少数のゲーム機能とAIノイズキャンセリングのような通話機能の強化にとどまる。ソフトウェアアップデートが2年間しか保証されていない点も留意が必要だ。つまり、2年を超えるとセキュリティアップデートは続くが、新しい機能は追加されない。
ASUSのROG Phone 9 Proは一通りの機能を備えた端末であり、すでにROG Phoneシリーズを使っているユーザーやゲーミングスマホに興味のある人には魅力的な一台だ。しかし、長く使うことを前提に1000ドルを超える端末を買うつもりなら、そしてモバイルゲームをプレイすることがメインの目的ではないなら、サムスンやGoogle、OnePlusの端末を選んだ方が満足度は高いだろう。
ROG Phone 9 Pro(公式)
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この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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