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極右

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

極右(きょくう、英語: far right, extreme right)、急進右翼: radical right)ないし、超右翼: ultra-right )とは、過激な保守主義超国家主義権威主義の傾向がある政治思想のスペクトルのことで、しばしば民族主義的傾向も含む[1]。この名称は左右の政治スペクトルに由来しており、「極右」は標準的な政治的右派よりも中央から遠いと考えられている[2]対義語極左である。

歴史的に、「極右政治」はファシズムナチズムファランギズムの経験を表現するために使われてきた。現代的な定義には、ネオ・ファシズムネオナチ第三の位置オルタナ右翼人種至上主義、その他の権威主義、超国家主義、排外主義、外国人嫌悪、神権主義人種差別主義同性愛嫌悪トランスフォビア民族アナキズム反動的な見解を特徴とするイデオロギーや組織が含まれる[3]

極右政治は、土着の民族集団国家民族宗教支配的文化保守的社会制度に対する劣等や脅威と認識されたことに基づく、集団に対する弾圧政治暴力同化の強制民族浄化大量虐殺を引き起こしてきた[4][5][6]

概要

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一般的には思想の性向が極端に右翼的であったり、民族主義的である個人や集団を指す場合が多い。通常、自己の帰属する国家民族が他に対して絶対的に優越するという信条のもとに、他民族の排除、ならびに従属化を肯定する自民族至上主義をその本質とする[7]

その思想・行動における傾向として、自国・自民族の結束の基礎となる権威の崇拝(権威主義国粋主義)、自国・自民族が他者に絶対的に優越するという信条(自民族至上主義民族差別選民思想排外主義外国人嫌悪・極端な愛国心)、社会改革を目的とする暴力的手段の肯定(テロリズム過激主義急進主義)、自国・自民族を主体とする武力行使の積極的肯定(軍国主義)、男権主義(男尊女卑ミソジニー)、その他の社会的少数者の排除(優生思想反同性愛主義)などが含まれる[8]

その典型として、ごく一般的には超国家主義ファシズムナチズムネオファシズムネオナチなど)の思想・運動・体制が含まれるとされる。また、宗教的原理主義キリスト教原理主義イスラム原理主義ヒンドゥー原理主義)は、しばしば共産主義を含む進歩主義勢力と対決姿勢をとることから、政治的には極右に分類される場合が多い[9][10][11][12][13]

ただし、極右・右派・中道・左派・極左などの分類はあくまで発語者の主観に基づく相対的なものであり、強い民族主義的傾向をもつ個人・集団を批判するレッテルとして用いられる側面がある。しばしば思想内容よりも行動上の過激主義や、共産主義を掲げた全体主義スターリニズムマオイズム主体思想)を指す場合もあるように、極右(極左)の語は、状況によって様々な意味で使用され、相互に矛盾する場合も少なくない[14]

政治学者のカス・ミュデは、極右(far right)を「extreme right(極端な右)」と「radical right(急進的な右)」に分類している[15]。両者は自由民主主義多様性を否定し、マイノリティーへの差別や移民排斥を主張するが、そのための手段が異なる[15]。「急進的な右」は、選挙や議会など民主主義のルールを受けいれるが、「極端な右」は民主主義を破壊しようとする[15]。現在のドイツでは両者を区別しており、ナチスの教訓から、「極端な右」の政党を憲法で禁じている[15]。日本や米国などのいくつかの国では極右及び極左の団体の結成は禁止されていない(ただし日本では公安当局に監視されている)。「イタリアの同胞」やフランスの「国民連合」は「急進的な右」であり、民主主義のルール内で変革を目指して支持を集めているが、暴力を使わない一方で多様性を否定し、移民や性的少数者を迫害している[15]

歴史

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極右は、宗教右派国家社会主義超国家主義愛国主義国粋主義復古主義のうちでも特に過激な政治主張・行動を指してきた。これらを主張する者のなかには民族主義排外主義歴史修正主義等を標榜する団体も少なくない。

極右は、共産主義社会主義ないし革新的な主張を「国民の統制を乱し、(自分達が尊敬し、価値あるものと信じている)国家体制を破壊する」として批判・攻撃し、民主主義社会で保障されている自由権を抑圧するような主張(滅私奉公、在留外国人や移民に対する暴力・侮蔑・罵倒を以ての排斥運動、近隣国の敵視と脅威論の流布、大幅な軍備増強など)を行い、また自国政府が自分達の意を酌まなくなったと感じた場合は暴力による打倒と、より自分達の意に沿う政府の樹立を企む。

ロシアプーチン大統領は、東欧の極右と同じく領土の見直しを主張している[16]ソ連の崩壊によって生じた屈辱と劣等感の解消と、同性愛者差別、宗教差別、自民族中心主義人種差別などの特徴がある。

極右と極左は、国家社会個人の権利に優越するという全体主義の面で、思想的・行動的に共通点が存在する[17]。極左から極右への転向例もみられた[18]

通常は「極右」と呼ばれる、ファシズムを提唱したベニート・ムッソリーニ社会主義者であり、イタリア社会党左派の出身で、ナチス社会主義政策を含む国家社会主義を掲げ、日本の北一輝も国家社会主義を掲げた。これら以前にも、世界史的には有名ではないが、フランスの黄色社会主義(アジア人の肌の色とは関係ない)は、マルクス主義を批判して階級協調排外主義反ユダヤ主義などを掲げ、ファシズムやナチズムの先駆とも呼ばれている。

また、左翼の中でも左翼ナショナリズムを採る社会主義国、特にスターリニズムはその極端な国家主義愛国主義、排外主義、軍国主義全体主義などから、他の社会主義と対比させて「極右」や「右翼」と呼ばれる場合もある[19][20][21]ロシア(旧ソ連)、中国北朝鮮などかつてはおおよそ「左翼」としてのイメージが強かった国家が市場経済の導入などの過程で保守化・右傾化し、国家自体が極右と化している主張も見受けられる。特にロシア、中国は近年ヨーロッパの急進右翼勢力への関与が繰り返し指摘されている[22][23][24][25]

代表例

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通常「極右」と呼ばれる主な思想や運動や組織には以下がある。ただし極左同様、「極右」と名指しされた側が極右を自認するケースは殆ど無く、その定義は時代や場所により異なるので注意が必要である。

脚注

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  1. ^ Encyclopedia of Politics: The Left and the Right
  2. ^ Carlisle, Rodney P. (2005). The Encyclopedia of Politics: The Left and the Right, Volume 2: The Right. Sage Publications. ISBN 978-1-4522-6531-5. https://archive.org/details/encyclopediaofpo0000carl 
  3. ^ Fascism and Nazism: Alt-right, white supremacy: Ultranationalist, racist, homophobic, xenophobic etc.:
  4. ^ Golder, Matt (2016). “Far Right Parties in Europe”. Annual Review of Political Science 19 (1): 477–497. doi:10.1146/annurev-polisci-042814-012441. http://mattgolder.com/files/research/arps.pdf. 
  5. ^ Hilliard, Robert L.; Keith, Michael C. (1999). Waves of Rancor: Tuning in the Radical Right. Armonk, NY: M.E. Sharpe Inc 
  6. ^ Davies, Peter, and Derek Lynch, eds. The Routledge companion to fascism and the far right (Psychology Press, 2002)
  7. ^ Merkl, Peter H. Weinberg, Leonard. Right-wing extremism in the twenty-first century. London, England, UK; Portland, Oregon, USA: Frank Cass Publishers. Pp. 127.
  8. ^ Robert L. Hilliard, Robert L; Keith, Michael C. Waves of rancor: tuning in the radical right. New York, New York, USA: M. E. Sharpe, Inc, 1999.
  9. ^ The Routledge Companion to Fascism and the Far Right
  10. ^ https://books.google.ca/books?hl=en&id=Ual1NR2WPasC&dq=%22far+right%22&printsec=frontcover&source=web&ots=K5bdSeB96U&sig=RC-_zQR3OGeCIj0c4vJv6EEHgAk&sa=X&oi=book_result&resnum=5&ct=result#PPR7,M1
  11. ^ https://books.google.ca/books?hl=en&id=sVZ8EUvJjJ4C&dq=%22far+right%22&printsec=frontcover&source=web&ots=SMPfNA8ixk&sig=c_rZ76IsxCm_Kb959LzCekTHYek&sa=X&oi=book_result&resnum=8&ct=result#PPR5,M1
  12. ^ https://books.google.ca/books?hl=en&id=JcJ5nr2MZfUC&dq=%22far+right%22&printsec=frontcover&source=web&ots=Y5MrmJz
  13. ^ Roger Griffin (11 Aug 2005). Fascism, Totalitarianism and Political Religion (Totalitarian Movements and Political Religions). Redoutlge 1 edition. ISBN 978-0415375504 
  14. ^ Betz & Immerfall 1998; Betz 1994; Durham 2000; Durham 2002; Hainsworth 2000; Mudde 2000; Berlet & Lyons, 2000.
  15. ^ a b c d e あいまいな「極右」、二分類して考える 「社交的」にみせ広げる支持”. 朝日新聞 (2022年12月8日). 2024年6月12日閲覧。
  16. ^ ミヒャエル・ミンケンベルク (2011年1月). “東欧の極右”. ル・モンド・ディプロマティーク. https://jp.mondediplo.com/2011/01/article541.html 
  17. ^ 吉田茂とサンフランシスコ講和・第 1 巻三浦陽一
  18. ^ 政治学・行政学の基礎知識(堀江湛)149p
  19. ^ 「Joseph Stalin (far right) and Leon Trotsky (second from left) stand together as comrades in 1917」 - Systems of Government Communism (R. Grant)
  20. ^ 「The radical distrust of mainstream media found on the far Left can certainly be found in spades on the ultra-Right.」Radical media: rebellious communication and social movements (John Downing)
  21. ^ 「Stalinism as ultraleft and nationalism as ultraright」Yugoslavia: a state that withered away (Dejan Jović) p191
  22. ^ “欧州極右にロシアの影 オーストリア連立政権崩壊で露呈”. 東京新聞. (2019年6月8日). https://www.tokyo-np.co.jp/article/27968 2023年8月17日閲覧。 
  23. ^ ドイツ「極右政党」を手なずけて利用...中国「悪魔のリアルポリティクス」がもたらしつつある「成果」”. ニューズウィーク日本版 (2023年8月15日). 2023年8月17日閲覧。
  24. ^ “ロシアの対欧米情報戦、極右・保守を照準か”. 日本経済新聞. (2024年4月12日). https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD02EJY0S4A400C2000000/ 2024年6月29日閲覧。 
  25. ^ U.S. intelligence report details 'indirect' Russian government support for Western neofascist groups”. Yahoo!ニュース (2022年2月11日). 2024年6月29日閲覧。
  26. ^ Russian rightwing extremists 27 June 2022
  27. ^ ワグネル・グループ 2022年6月14日閲覧
  28. ^ Polakow-Suransky, Sasha. “The ruthlessly effective rebranding of Europe's new far right”. The Guardian. オリジナルの8 July 2020時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20200708104251/https://www.theguardian.com/world/2016/nov/01/the-ruthlessly-effective-rebranding-of-europes-new-far-right 30 June 2020閲覧。 
  29. ^ フランス政界を激震させる国民連合 「極右」と呼ばれる理由は?”. 日テレNEWS NNN (2024年7月6日). 2024年7月30日閲覧。
  30. ^ アルカイダの手紙、9.11を知らないZ世代の共感を得る...SNSで拡散中の理由とは? - 記事詳細|Infoseekニュース”. Infoseekニュース. 2024年5月30日閲覧。
  31. ^ Muneo Narusawa, "Abe Shinzo: Japan's New Prime Minister a Far-Right Denier of History" Archived 16 March 2015 at the Wayback Machine., The Asia-Pacific Journal, Vol 11, Issue 1, No. 1, 14 January 2013
  32. ^ The Economist of Britain on 5 January 2013. Cited in: William L. Brooks (2013), Will history again trip up Prime Minister Shinzo Abe? The Asahi Shimbun, 7 May 2013
  33. ^ 論点:暴走する「選挙運動」”. 毎日新聞. 2024年10月3日閲覧。
  34. ^ ロバート・ファーヒ『中央公論2023年12月「【特集】陰謀論が破壊する日常」、世論調査に見る日本人の陰謀論支持』中央公論新社、2023年11月10日、62-69頁。 
  35. ^ “広がる極右・陰謀論 「参政党」が1議席、参院比例”. 中日新聞Web (株式会社中日新聞社). (2022年7月13日). https://www.chunichi.co.jp/article/507000 2022年8月25日閲覧。 
  36. ^ 「食の安全」を主張する極右政党にどう向き合うか 高井 弘之”. 在日コリアン・マイノリティー人権研究センター (2023年2月13日). 2023年11月24日閲覧。
  37. ^ 和郎, 八幡 (2024年10月20日). “賢い比例の投票先はこうして選べ:保守党と参政党は?”. アゴラ 言論プラットフォーム. 2024年10月30日閲覧。
  38. ^ NEWS, KYODO. “Small extremist opposition parties increase seats in general election”. Kyodo News+. 2024年10月30日閲覧。
  39. ^ LDP Losses: October 2024 Japanese Election Ends the “Neo-1955 Setup”” (英語). nippon.com (2024年10月30日). 2024年10月30日閲覧。
  40. ^ “Small extremist opposition parties increase seats in Japan general election” (英語). Mainichi Daily News. (2024年10月28日). https://mainichi.jp/english/articles/20241028/p2a/00m/0na/007000c 2024年10月29日閲覧。 
  41. ^ Fahey, Rob (2024年10月28日). “Election 2024: The Winners and Losers – Tokyo Review” (英語). 2024年10月29日閲覧。
  42. ^ 反자민당 내세운 일본보수당…보수층 잠식 땐 정치 지형 변화 [뉴스 인사이드-日 정치 변수된 신생 정당 : 네이트 뉴스]” (朝鮮語). 모바일 네이트 뉴스. 2024年3月16日閲覧。
  43. ^ “Voters deliver a historic rebuke to Japan’s ruling coalition”. The Economist. ISSN 0013-0613. https://www.economist.com/asia/2024/10/28/voters-deliver-a-historic-rebuke-to-japans-ruling-coalition 2024年10月29日閲覧。 
  44. ^ Nishimura, Karyn. “Japon : les orphelins de Shinzo Abe créent un parti à l’extrême droite” (フランス語). Libération. 2024年3月21日閲覧。
  45. ^ 〈時代の正体〉極右政治団体日本第一党を抗議の市民が包囲 川崎に高まる反ヘイト機運”. 2024年5月22日閲覧。
  46. ^ a b c Gamble, Adam; Watanabe, Takesato (2004-07-01) (英語). A Public Betrayed: An Inside Look at Japanese Media Atrocities and Their Warnings to the West. Regnery Publishing. ISBN 978-0-89526-046-8. https://books.google.com/books?id=gKUUuK0ym_oC&dq=far-right+%22Liberal+Democratic+Party%22+Japan&pg=PA255 
  47. ^ Au Japon, des médias moins préoccupés par les législatives que par la qualité de l’eau de la Seine” (フランス語). Le Point (2024年6月28日). 2024年10月29日閲覧。
  48. ^ Curtis, Paula R. (2021年5月30日). “Ramseyer and the Right-Wing Ecosystem Suffocating Japan – Tokyo Review” (英語). 2024年12月5日閲覧。
  49. ^ 「N国」と「れいわ」は一発屋では終わらない、その必然的根拠(近藤 大介) @gendai_biz”. 現代ビジネス (2019年8月6日). 2024年11月28日閲覧。

関連項目

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