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2018年3月11日 (日)

海からの原発テロを煽った青山繁晴氏は津波問題を隠した東電の加担者である

311からちょうど7年の歳月が過ぎた。

このブログを立ち上げてから、私も色々な問題点を明らかにしてきた。

東電福島第一の津波想定問題については特にブログ記事を多く書いてきた。40年運転した末の事故だから、それだけ問題を回避するチャンスも多くあったということを示してきたつもりだ。

これらの回避できるチャンスは大きく二つに分けることが出来る。一つは防災対策としての面。いわゆる津波想定を厳しくする機会が幾らでもあったという類の議論である。現在東電や国を相手取って行われている各種の裁判でも主流の問題である。

もう一つは、2016年から当ブログでも扱っている「テロ対策が防災対策の阻害要因になった」という事実関係からの追及である。下記がそれだ。

テロ対策を言い訳に反対派を追い出して爆発した福島第一原発

共謀罪の根底にある差別思想は必ず福島事故のような惨事を誘発する

2本の記事を書いて残った宿題は、「テロ対策」を助長したキーマンを殆ど掘り出せていないことである。防災対策の先送りをした戦犯達については、個人の責任特定が進んでいるのと対照的だ。

そのような中、事実上推進派のジャーナリスト石井孝明氏がテロ対策の貢献者として、ある人物を明記しているのを偶々目にした。

原発にミサイル? テロ? 対策は行われている」石井孝明(経済・環境ジャーナリスト) 2017.9.21(日本エネルギー会議HP)

その人物の名は青山繁晴。青山氏は元共同通信の記者で、1997年に同社を退職。911テロの少し前からセキュリティ関連の言論活動を始めた。一般にはチャンネル桜やDHC提供のTV番組や関西の報道番組に出演している右翼的なおじさんとして知られている。

以下、青山氏の言行を再検証してみたが、控えめに見ても防災情報隠しの機運をつくった加担者と言わざるを得ない。

【共同通信時代、安全神話に加担する】

青山氏は共同通信時代にチェルノブイリ安全神話を垂れ流し、福島事故後も正当化していた。

わたしは、かつて共同通信の政治部記者となる前に、大阪支社の経済部にいた時期があり、エネルギー担当記者としてチェルノブイリ原発事故に遭遇した。その際に「日本の原子炉は、チェルノブイリのようなひどいヒューマン・エラーがあっても自動停止するから、安全性は高い」という記事を書いた。この記事は今、再検証してみても誤報ではない。

「テロ標的の筆頭となる日本」『VOICE』2011年7月P172-173

誤報ではないが、解説記事なら説明は不十分だ。「チェルノブイリとは違う」という点を強調し、遂には原発事故について考えてはならないという下らない信念を抱く「専門家」を多数養成したのが日本の原子力業界である(当ブログ記事「【書評】松野 元『原子力防災―原子力リスクすべてと正しく向き合うために』」参照)。過酷事故=チェルノブイリ限定、という奇妙なPRの片棒を担いだ数多の報道の一つにすぎず、この書きぶりは如何にも甘い。

なお、青山氏より踏み込んだ報道記事の実例として「原発過酷事故対策は安全か」(『朝日新聞』1994年2月17日朝刊4面)を挙げておく。タイトルからも推察できる通り、軽水炉の基本的な問題点を政治面も含めて要領よくまとめたものである。

【セキュリティ関連の経歴】

ただし、彼のセキュリティ関連の経歴は、論壇誌に寄稿するだけの評論家とは違って「本物」である。ここでいう「本物」とは彼の能力のことではなく、結果責任を問われるという意味だ。有識者委員だけで下記の通り(さらに詳細な経歴はリンク先など)。

    総合資源エネルギー調査会専門委員(経済産業省)
    海上保安庁政策アドバイザー
    原子力委員会原子力防護専門部会(技術検討ワーキング・グループ 核セキュリティ)専門委員(内閣府)
    国家安全保障会議の創設に関する有識者会議メンバー(内閣官房)
    日本原子力研究開発機構改革本部メンバー(文部科学省)
    消防庁第27次消防審議会委員(総務省)
    NHK海外情報発信強化に関する検討会会員(総務省)
    北近畿エネルギーセキュリティ・インフラ整備研究会 委員(京都府・兵庫県)

他に、旧防衛庁・自衛隊・警察等の上級職員や幹部を対象とした各教育研究機関で講義を受け持っている。また、共同通信を1997年に退職した後、数年間三菱総研に在職してノウハウを身に付け、2000年代よりシンクタンク「独立総合研究所」を旗揚げ、代議士になるまで10数年社長職にあった。

2001年の911テロ直後にはテリー伊藤との対談形式で『お笑い日本の防衛戦略【テロ対策機密情報】』という一般書を出している。巻末の帯に、防衛庁内の若手にかなりの心酔者を得ていると書かれている。彼は虚言も多く指摘されるが、近年の階層を問わない社会の右傾化を眺める限り、事実だったのだろう。

【テロリスクの例示に「海からの侵入者」を選択する】

テロ対策を言い訳に反対派を追い出して爆発した福島第一原発」でも2000年代のテロ対策強化については書いたが、中でも青山氏の提言・推進したテロ対策は重大な失敗だった。それは、海からのテロリスクを強調したからである。

テリー 日本の原発の現実を、本当は何よりも早く聞きたいな。

青山 「秘」に属するところは、いっさい言えません。しかし(中略)基本的なコンセプト(防護思想)の問題から考えてみましょう。

原発には冷却のために取水口と放水口があるわけです。原発は、海水で冷やして、温排水を流してということを永遠に繰り返しているわけです。(中略)平均的な原発で言うと、取水口、水を取り入れるほうはちゃんとカメラもあって、警備員もそれなりに配置していることが多い。なぜかというと、流れにのってサーっと来ちゃうかもしれない、という発想ですね。ところが、放水口のほうは、激流が流れ出ているから入ってこられるはずがないということで、カメラもなければ、監視員もいないのが普通です。ところが、さっきの(注:漂着してニュースになった)工作船とと一緒に水中スクーターが発見されてるんですよ。放水口の水流ぐらいは十分突破できる水中スクーターを現に日本の警察が捕獲しているのに、「ここは安全だ」と誰もいないし、何も防ぐものがなにのです。私があるところでそれを指摘して、せめてカメラぐらい置かなきゃいけない、と言ったら、「いや、たとえこの放水口をさかのぼっていっても、トンネルの向こうにあるのは巨大な壁で人間が登れるはずがない」と言うんですよ。私は、「そこまで言うなら、その壁も警察の方は見てますよね」って聞いたら、「見てる」って言うから、それ以上は言いませんでした。

ここで日本人が希望がもてると思ったのは、途中で保安主任が「ちょっと待ってくれ。やっぱり私、ひっかかるので、見てもらいます」って言ったんです。結構煩雑な手続きをして、私を中に入れたわけです。で、見たら、彼が絶対登れない壁というのは、トンネルから出てきたところに10メートルのコンクリートの壁があるだけなんです。これはそれこそお笑いの話で、あのコンクリートよりもはるかに硬い岩にアイゼンが食い込むでしょう。どこの登山用品店でも売ってる。しかもオーバーハングになってるところを行くんですから。こんな、ただの真っ直ぐのコンクリート壁ですから、北朝鮮特殊部隊だったら大体1分30秒ぐらいで上がってくるんじゃないかと言いました。

「第1章 いまそこにある日本の危機」『お笑い日本の防衛戦略【テロ対策機密情報】』P59-60(2001年)

ここで注目して欲しいのは、見学に至るまでの手続きだ。部外者が見るとすれば、誰であっても、同じ手続きになる。また、電力の言う「絶対」が相場通り、とてもいい加減な根拠しかないことも分かる。青山氏の描写は、一定の評価には値する。

だが、青山氏は最終的には電力と当局の本質的な欠陥を後押しすることになった。

テロリストに機密を知られたくないのなら、そのようなテロの脅威を煽ることは自殺行為である。しかも、警備する側も青山氏の余計な啓蒙のために、他の設備以上に気を使うことになってしまう。

しかし、海からの侵入者という想定は便利な公開情報として定着し、下記のように別の媒体にも連鎖している。後に検証する原子力委員会防護専門部会でも例示に使われている。

日本の原発は海水を高温蒸気の復水など冷却用に使うため、すべて臨海に設置されている。効率がいい反面、海からの侵入には弱いと言う弱点がある。とりわけ日本海側の原発にとって、そのリスクは大きい。最近ではこうした面への配慮も始まり、巡視艇による周辺海上の警備や潜水による進入探知のための監視も始まっているが、想定される北朝鮮などの訓練された工作員に対してどこまで有効かは疑問である。海上からの侵入阻止は、日本の原発にとって緊急の課題だ。

「しのび寄る「原発テロ」への備えは万全か」『THEMIS』2004年11月P91

もっとも、青山氏の想定には独創性が殆ど無い。

かわぐちかいじ『メドゥーサ』が1994年完結、小林源文『第2次朝鮮戦争―ユギオII』が1996年、麻生幾『宣戦布告』が1998年。青山氏の論はこれらの延長にあり、多少のディティールを追加しただけである。

【2000年代前半の原発テロ対策の法制化】

勿論、テロ対策の責任すべてを青山氏が負っているわけではない。制度的な流れも見ておこう。

法制的には2004年の国民保護法制定に際して海外からの原発テロに対し、行政が計画を定めるように求められ、青山氏も同法の制定に際して内閣府などが主催した「国民保護フォーラム」で講演している。

原子力の法規制にテロが位置付けられたのは2005年の原子炉等規制法の改正で、設計基礎脅威(デザイン・ベース・スレット,DBT。この位のテロリストまでは守れるようにしよう、という目安)の設定や必要な防護措置、具体的には防護区域などを設定することが定められた。

このような流れの中で、原子力安全・保安院は「核物質防護強化に関する原子力事業者への指導強化」「「核物質防護対策室」の新設」を実施した。警察庁はDBTの設定に際して脅威の情報を収集し、それを基に、関係省庁が集まって連携をして決めている(以上、原子力委員会防護専門部会準備会合議事、資料より)。

テロ対策強化は一見すれば良いことに思える。何故これが失敗だったのか。それは次の節を見ていくと理解出来る。

【右翼にとっても都合が悪すぎた市民団体からの指摘】

さて、福島県の共産党元県議伊東達也氏が中心となっていた市民団体は、2005年に次のような申し入れを行っていた。

原発の安全性を求める福島県連絡会の早川篤雄代表、伊東達也代表委員は5月10日、東京電力の福島第二原発を訪れ、つぎの「申し入れ」を行いました。

(1) チリ津波級の引き潮のとき、第一原発の全機で、炉内の崩壊熱を除去するための機器冷却用海水設備が機能しないこと、及び冷却材喪失事故用施設の多くが機能しないことが判明しました。(中略)

これまで住民運動の苛酷事故未然防止の要求を受けて、浜岡原発1号・2号機では3号機増設時に海水を別途取水するバイパス管(岩盤中に連携トンネル)を取り付け、女川原発の1~3号機では、取水口のある湾内を十メートル掘り下げて、機器冷却用水確保の対策を実施しています。
東電はこうした例にも謙虚に学び、早急に抜本的な対策をとるよう、強く求めるものです。

(2) 高潮のときに、第二原発の44台の海水ポンプが水没することも判明しています。
  想定される最大の高潮のときに、第一原発6号機の海水ポンプ14台が20㌢水没し、第二原発は1号機と2号機(各々11台ずつの22台の海水ポンプ)が90㌢水没し、3号機と4号機(同じく22台)が、100㌢水没することになります。
そこで東電は第一原発の6号機については土木学会が発表した直後の定期検査にあわせて密かに20㌢のかさ上げ工事をしました。
  しかし、第二原発の海水ポンプは「水密性を有する建物内に設置されているので安全性に問題はない」として、今日まで何の手も打っていません。
  
これに対し私たちは再三、海水ポンプ建屋を見せてもらいたいと申し入れをしましたが、テロ対策上見せられないという態度をとり続けています。
  これは、テロ対策を理由にした「悪乗り」としか言いようがないものであり、黙過することのできないことです。

  2002年に発覚したあまりにもひどい事故隠し、改ざん事件を経て、二度とこうしたことを繰り返さない、
今後は包み隠さず情報公開に努めると県民に約束したのは、いったいなんだったのかといわざるを得ません。わたしたちは強く抗議し、また、海水ポンプ建屋を公開するとともに、抜本的な対策をとるよう求めるものです。

チリ津波級の引き潮、高潮時に耐えられない 東電福島原発の抜本的対策を求める申し入れ」原発の安全性を求める福島県連絡会代表 早川篤雄 2005年5月10日(PDF

海水ポンプは原子炉で発生した熱を海に逃がすために重要な施設である。また、非常用ディーゼル発電機の多くは船舶用エンジンの転用なので、海水ポンプを介して冷却している。そして、テロ対策は防災対策のための見学申し入れともろにバッティングしていた。

青山氏が描いた見学手続きと比較すると、市民団体から申し入れがあった時、応対した東電原発の保安主任は希望の持てない人材であり、福島県警も同様の失敗をしたことが分かる。

なお、福島第二の海水ポンプが置かれていた建屋(海水熱交換器建屋)は原子炉建屋より低い位置にあったので、311の際には結局浸水し、多数の海水ポンプが機能を失った。水密対策をしているという説明は方便だったのだ。

福島第一の海水ポンプに至っては、以前紹介した空撮の通り、剥き出しだ。

Toudensekkei30nenp88

『東電設計三十年の歩み』1991年7月P88。赤で囲った場所に海水ポンプが密集配置されている。

【内部を見せるのは反対運動のせいと主張しながら、細部を説明する】

しかも、青山氏の問題認識は決定的に内向き志向だった。

青山 原発テロ対策のもう一つの問題点は、日本の原発は世界の原発の中でも一番内部を見せる原発なんです。

テリー それはなぜですか。

青山 
反対運動を気にしているからです。テリーさんもテレビで見たことあると思いますが、どこの原発でも、原子炉の上にまで人を入らせるでしょう。原子炉の上に立って、「この下が原子炉です。この下で原子力がいま燃えています。これぐらい安全です。」って解説までしてくれる。そのまわりのコンクリートは、確かにある評論家がテレビで言ってたように、飛行機が当たっても簡単には貫通しません。ジャンボ機が来たらほんとはだめだろうけども、普通の戦闘機ぐらいなら大丈夫だと私も思います。ところが、実際に現場で上を見上げたら、天井は普通の天井だとわかります。そうでないと重たくて構造が持たないんです。日本は地震国ですから、危なくて天井を厚く、重くはできません。これはすべての原発でそうですし、公開している現場でも誰でも見ることができますから、私も話ができます。そうすると、天井に人が取りついて、そこを開けるのは、小さな爆薬でいい。しかも、その下には使用済み燃料を入れてるプールの水が露出してる。だから、天井に取りついて、小さい穴をあけて、そこから爆弾を落とすだけで、落としたやつは死ぬけれども、そこから出た死の灰が日本中をかけめぐるわけです。評論家は自分の目で上を見上げて、この天井はどういう構造かとチェックしてない。しかし、工作員やテロリストは、見学者としてやってきて、それを見ます。

テリー 
ということは、別に北朝鮮の特殊部隊やアルカイダである必要はないよね。俺たちでも小さな爆薬を持っていけば、穴があいちゃうわけだ。

「第2章 いまそこにある原発の危機」『お笑い日本の防衛戦略【テロ対策機密情報】』P102-103(2001年)

確かに911テロが起きるまで、日本の原発見学は普通の工場見学と大差のない、開かれたものだった。青山氏が活動を本格化させる前から、東電はこの種の運動に対し、屈折した感情を持っていたが、もし、伊東達也氏等が2000年に見学を希望していれば許可したかも知れない。

青山氏が見学した原発だが、条件に当て嵌まるものはBWRだろう。即ち、下の階に使用済み燃料プールと原子炉(圧力容器)がある構造で、且つ、「ただの普通の天井」があるというとBWRのオペフロである。PWRの格納容器の天井は厚いので、彼の説明とは矛盾するし、使用済み燃料プールを収めた建屋は格納容器の外だからだ。東電の原発だったのかも知れない。青山氏は事故直後に福島第一の吉田所長を尋ねているが、東電とどのような関係にあったか懇切丁寧に説明すべきだろう。

独立総研は、同書のような問題意識でもって大量のレポートを納入したのだろうが、それは海水ポンプ津波対策の欠陥を隠す結果にしかつながらなかったのである。

市民団体に海水ポンプを見せていれば、正面から批判を受け、津波対策を迫られたのは明らかだ。だが、青山氏には「質問する人は工作員だから見学させてはいけない」との思い込みがあったのではないか。

一方で、テリー伊藤氏は早速「俺たちでも」と指摘している。このことは、本質的に思想が無関係なものとして、警備方法を考えなければならないことを示していた(ネットによくいる、気の振れた自己中心的で破滅主義のミリタリーマニアを見ればすぐわかることでもある)。

なお、「津波対策は学者や技術者達がしっかりしていれば、彼等に任せておけばよいこと」などと反論したい方がいるかも知れない。しかし、彼等がちっとも自分達のなすべきことをしなかったことは、添田孝史『原発と大津波』『東電原発裁判』や当ブログの様々な記事で論証済みである。

【電力会社を庇い、情報公開を否定する】

青山氏の原発テロの警鐘に関する主張を読んで気が付いたことがある。よく見ると政府(警察・自衛隊・経済産業省)は批判することもあるが、電力会社には基本的に文句を付けないのだ。

青山 原子力や放射能を扱う限りは警備については別枠で考えなければいけません。

 これはむしろお願いのようなものですけれども、テリーさんにこの機会によく記憶して頂きたいのは、ある政府高官、いまはもうOBになりましたが、この人が私に言った言葉は、橋本内閣のときに電力会社側と原発テロについても話し合ったと。ところが実は政府のほうの印象として残ったのは、その元高官の言葉をそのまま引用すれば、「電力会社は本当のことを言わない。電力会社の言うことを聞いていたら、原発というのは無限に安全であって、槍が降ろうが空爆されようが、もう絶対に放射能は漏れないのだと言うから、もう勝手にせいとなった」ということでした。

テリー ははぁ。そのとき青山さんはどういう反応をしたんですか。

青山 私は、「この責任を電力会社に負わせて”嘘つきだ”というのは間違いでしょう」と言いました。だって政府に本当のことを言って何かしてくれるでしょうか?橋本内閣が動いたでしょうか?むしろ変な形でマスメディアにリークされるのがオチでしょう。

テリー なるほど。たしかにそういう見方はできますよね。それでは青山さんはどうしろと?

青山 ですから発想の転換をしてほしいのは、警備に関してはすべてを国民に公開する必要はありません。むしろしてはいけない。これは機密事項です。私はマスメディアにいたからこそ、それをきちんとお話しできると思います。でも日本では一部のマスメディアをはじめとして、原子力発電に対しては、先入観に凝り固まった攻撃がなされるわけですから、どんどん情報公開しなければいけないということばかりが先行していて、もう新聞を読むだけでも相当なマル秘の情報を中国や北朝鮮は入手できます。しかもその公開情報に基づいてさらに非合法のスパイ活動も行っているわけですから、彼らの持っている情報は非常に細かくてディティールに踏み込んでいて、しかも正確であると考えなければならない。

「第2章 いまそこにある原発の危機」『お笑い日本の防衛戦略【テロ対策機密情報】』P108-109(2001年)

詳述は別の記事等に譲るが、安全神話を垂れ流したは事実である。青山氏の凄いのは、嘘をついていることを知った上で庇う所で、もう徹底している。また、情報公開まで否定している。同書の出版された2001年は旧原子力安全・保安院が発足した年で、情報公開が進んだ筈だったが、大津波の想定を軒並み葬った経緯は福島事故まで隠され続けた。そのため、国会事故調でも「規制の虜」論として批判された。

青山氏の電力会社擁護の矛盾を更に一つ指摘すると、東電や関電は1980年代に世界最高水準の航空機衝突耐性を持つ西ドイツの原発建屋の設計を取り入れようとして、結局諦めたことがある。そのため日本の原発建屋の壁厚はドイツの3分の2しかない(当ブログ関係記事)。青山氏は戦闘機の突入程度なら大丈夫だと主張しているが、それは比較的軽量な退役済みの機体に対しての話である。2000年代の主張として見ても適切ではない。

【「IAEAの基準」以下だった福島第一の海水ポンプ】

青山氏は『VOICE』2005年10月号にも2ページの記事を投稿しており、MP5短機関銃を装備した武装警官を各原発に常駐させたことで、物的なセキュリティ能力は世界最先端になったと書いている。

しかし、この寄稿にも彼の間違いを見つけることが出来る。

原子炉とその建屋は、IAEAの基準により分厚いコンクリートによって覆われているから、特殊部隊の火力でも破壊するには時間を要する。その時間は原発によって異なる。これをシミュレーションなどによってきちんと計っておき、破壊されない時間内に、軍の部隊が原発に到着できる態勢をとっておくことが現実には有効だからだ。

「日本の原発は無防備か」『VOICE』2005年10月号

建屋で覆われている場合、メリットは防災上もあり、窓を無くし、換気口を上部に誘導したり、出入り口を防水扉に替えてしまえばかなり強固な津波対策が簡単に取れる。原子炉建屋をそのように作っている事例は福島事故の前からあり、浜岡原発などは広報記事で自慢していた。敷地を超えて津波がやってきても最低限のことはしていますよ、という訳だ。

しかし、海水ポンプは原子炉建屋から数十m離れて海岸沿いにある。建屋で覆わず剥き出しで置いてある原発も多い。その典型が福島第一で、以前は見学で簡単に確認出来た。青山氏の言うようなIAEAの基準が作られ始めたのは1970年代後半からだが、この原発は、その前に建設され、そのままの状態で放置されていた。

こんなことは20人余りのスタッフを擁する独立総合研究所で受託した各種調査報告を見直すだけでも確認出来た筈だし(出来ないようなセキュリティレポートなら、価値は無い)、彼が視察した時点でも分かる話だったのではないだろうか。

【原子力委員会専門委員に就任し、それまでの成果を自讃する】

独立総合研究所のウェブページの説明(リンク)によると政府が警備を強化したのは2004年12月であるという。市民団体の申し入れより前である。わざわざ明記すると言うことは、彼の心酔者が取り入れたという側面があるのだろう。

もっと明白な証拠もある。彼は、2006年12月には原子力委員会(原子力防護専門部会)専門委員に就任した。専門部会の議事(一部は議事要旨)は公開されている(リンク)。その準備会合の時に、武装警官の常駐を決めた時のいきさつを自讃している。

青山 9・11同時多発テロがあってから、日本は世界で唯一全サイトに24時間武装機動隊が常駐している国になっているわけです。世界で日本だけです。最初それを決めるときに、私ども独立総合研究所も政府機関といろいろ協議をしたのです。その協議のなかで、機動隊が武装して、しかも拳銃ではなくて、MP5という機関銃まで持って守らねばいけないような危ない施設なのかという声が地元から出ないか、それが心配だという議論が、事業者はもちろんのこと、政府機関からも多数出たわけです。ところが、実際に行ってみると、反対運動が高まるどころか、むしろ地域にきちっと説明がなされて地域の理解が深まった面がある。

原子力防護専門部会準備会合 議事 2006年12月27日

だが、彼の弁とは異なりテロ対策を悪乗りとして異議は唱えられていた。彼は市民団体が見学できなかったことについて結果責任がある(なお、この議事で青山氏以外に反対運動に言及した者はいない)。

更に呆れるのは、安全規制とシナジー効果があると当局共々思っていたことだ。

青山 資料第2号の3ページに「安全規制と防護とのシナジー効果」とありますね。それはそのとおり、僕もシナジー効果が必ずあると思っているし、それから川上委員のおっしゃった「今まで日本は安全に随分努力してきたのだから、それに例えばテロ対策のようなものも加えていく」という考え方で賛成です。

原子力防護専門部会準備会合 議事 2006年12月27日

実際にはこの時点で既に真逆の事態が進行中だった。

なお、専門委員の任命は内閣総理大臣安倍晋三だった。なお、共同通信では政治部記者だったため、青山氏は安倍晋三とは安倍晋太郎の秘書時代からの付き合いだと言う。2009年のTV番組によると、食事する仲のようだ(リンク)。その後を見ても安倍友、飯友の類と言って過言ではないだろう。

安倍晋三といえば、第一次安倍内閣時の共産党吉井秀勝氏との答弁で述べた「全電源喪失否定発言」が知られるが、テロ対策を強調して市民団体を軽んじた経緯にも安倍が責任者として背景にいることが分かる。むしろ、彼の思想による弊害としては、こちらが本質的と言えるだろう。

また、青山氏は専門委員としてメルトダウンの脅威に対策するように説いて回ったと、原発事故の後になって何度も言っている。はだしのゲンの鮫島某とは違って恐らく事実の一端は示していると思われるが、任命者が電源喪失しないと国会で見栄を切ったことについては今回の資料収集では何も出てこなかった。

【事故直後、脱原発デモより先に『立ち上がれ日本』で菅政権を誹謗する】

青山氏は事故直後の2011年3月20日に、政党『立ち上がれ日本』の集会で「菅政権は恥を知れ!最低・最悪の震災・原子力対応」などと積極的に政争の具として講演を行った。

これはよく右派が批判する最初の大規模脱原発デモ(素人の乱主催。2011年4月10日)より早く、また、電力関係者が参加していると述べていた。また、この講演で菅直人の福島第一訪問を批判しているが、翌月に自らが訪問するなど、ある種の模倣的行動に出た。

【事故直後、津波が原因ではないと主張し目を逸らそうとする】

青山氏は2011年4月に吉田所長を訪ねた。5月13日には、その経験を元に参議院予算委員会に呼ばれてこんなことを言っている。

原子炉建屋は実は津波の直撃を受けた段階ではまだしっかりしていた。

勿論、これは後の事故調査報告で否定され、3ヶ月後に2008年の15.7m社内想定が報じられた。

彼は何でこんなことを言ったのか。

情報が無ければ色々な仮説は立てるものだが、当時から推進派も「原因は津波」が主流の意見であった。だから彼も「実は」と切り出した。

市民から「大津波の想定」について、文句が出ていることを電力を通じて聞いており、警備上の理由から情報公開すべきではないとコメントしたのだろうか。正直、その程度の会話なら私的なメールや会食でも伝えられる。

そこまで直接的ではなくても、懇意にしている電力の思考を忖度して先回りした可能性もある。

【メルトダウンの脅威が非公開情報だったと主張する】

青山氏は次のような奇妙な主張を行っている。ネットに残っている彼が出演したTV番組の書き起こしも大同小異である。

今までは「開示できない非公開情報」であり、今となっては非公開の意味が全く失われた情報がある。

それはこの情報だ。(中略)「原子炉が自動停止しても、その後に冷却が止まれば、原子炉の中の核生成物が出す崩壊熱によって、数時間でメルトダウンが始まる。テロリストがその弱点を知ったうえで冷却を止めてしまえば、極めて重大な事態となる」

「テロ標的の筆頭となる日本」『VOICE』2011年7月P172

まず、非公開という主張がそもそも嘘と言って良い。

崩壊熱のリスクは、福島事故前でもネット、或いはその辺の図書館や大型書店の原発棚で手に入る程度の情報に過ぎなかった。何冊も出ていた原発震災警鐘本も基本的なメルトダウンに至る原理に大差はない。これは、事故前から原発反対派が様々な警鐘を行っていたことや、3月11日の晩に、各方面からメルトダウンの可能性がコメントされたことからも明らかである。

しかし、青山氏と同レベル以下の思い込みの激しい人物が集まると、メルトダウンに対しての理解がデタラメとなっていった経緯について納得は行く。いわゆる右派軍事ブロガーJSFによる「馬鹿は黙ってろ」事件や、大阪大学教授菊池誠による「メルトダウンではないだす」発言などである。

電力業界の安全神話の他に戦犯がいるとすれば、青山氏のようなセキュリティを売り物にする人物による中途半端な情報の垂れ流しが原因だろう。JSFのような軍事オタクは後者の情報を又聞きで記憶していた可能性が高い。

勿論、セキュリティ方面で出回っていたデタラメは、彼だけが原因では無い。次に示す読売新聞社の月刊誌『テーミス』の記事は、より「馬鹿はだまってろ理論」で知られるJSFの主張に酷似している。

原発自爆テロは、一見容易にみえて、実は核物質奪取以上に実行可能性は低いといわれる。原発の大半は核分裂の暴走が起きないよう三重四重の防護措置が組まれており、しかも「すべての反応が安全サイドに動くよう設計されている」(原発関係者)からだ。運転員自身が意図的に暴走を図っても、原子炉はいうことを効かない仕組みになっている。(中略)現在、世界の主流となっている加圧水型(PWR)や沸騰水型(BWR)では、核分裂の暴走は理論的にも起きないようになっている。

原子炉そのものを破壊しようとするのも無理な話だ。圧力容器、格納容器は数十センチメートルの更迭、1メートル以上のコンクリート壁などで出来ており、テロリストが入手可能な爆弾、ミサイルでは到底、破壊は不可能だからだ。日本の原発は9.11テロやジェット戦闘機の衝突に対しても原子炉に致命的な損傷が起きないような強度設計がされている。

「しのび寄る「原発テロ」への備えは万全か」『THEMIS』2004年11月P90

JSFや菊池誠等が撒いたデマの検証作業は岩波に投稿するような階層の物書きからは「下らない事」と思われていたようで、『科学者に委ねてはいけないこと』に収録された影浦峡氏の表現に典型的に表れている(私もある市民団体の幹部に「捨て置けばいい」と言われたことがある)。勿論、彼等の典型的な甘さであり、2015年頃以降から、原発以外の分野でも様々な右派のフェイクニュース叩き本を出さざるを得なくなった。少しずつでもいいから、こういう作業は進めるべきである。

【青山氏の主張は何が間違っているのか】

大体以下にまとめられる。

  • 勉強すれば分かる程度の事実は書名タイトルにあるような「機密」ではない。
  • 機密ではない以上、彼の本は売名のためのビジネス目的である。
  • ビジネス以外に目的があるとすれば、純粋なテロ対策の警鐘ではなく政治活動である。実際、安倍晋三等と親しく、再三の自民党からの打診をOKして政治家となった。
  • 反対派の指摘は真摯に受け入れ、TV番組や雑誌記事で積極的に紹介するべきだった。
  • 当然のことながら、テロ対策・防災対策の不備は原発反対運動のせいではない。何故なら所有と運営の主体が電力だから、理屈としても実務としても成立しない。過去に当ブログで論じた通りである。
  • 情報公開を狭めれば社会からの批判に目を背け、原子力政策を誤り、防災対策も疎かになると理解していない。その根本は日頃からのリベラル・左翼批判に見られる「反対派の主張は誤ってなければならない」という偏見にある。
  • 「テロ対策を警鐘したが、電力がそれを受け入れなかった」から福島事故が起き、責任を感じているそうだが、理屈としては通らない。青山氏の負うべき責任は左翼批判とテロ対策を煽った結果、東電がそれを方便とし、反対派に津波に無防備な海水ポンプを見せなかったことにある。またそのような電力の態度に気付きながら庇ったのは青山氏である。

【本当に取るべきだった解決策とは】

このように書いてくると、テロ対策と防災対策は両立しないかのようにも思えてくるが、もちろんそんなことは無い。

なお、私も原発が核物質の巨大貯蔵庫でありセキュリティリスクが高いことは了解しているので、現状に準じた警備は必要と考える。311後は、陸自幹部OBによる問題提起があることも知っている(矢野義昭「今の自衛隊、警察では原発を守れない」2011年6月10日)。一般的にネット右翼は藁人形論法や「無防備主義」などのレッテルを貼ってくるので、予め書いておく。

似た事情は立地自治体の市民団体にもあり、防災訓練や対策の強化の申し入れは以前から新聞の地方面でも報じられていた。例えば『朝日新聞』2002年2月9日朝刊島根1面等)。

海水ポンプや取水路・放水路がテロに脆弱ならば、土木工事を伴なう改造を施せばよかっただけのことだ。例えば、福島第一の場合は、建屋を作って覆うとか、非常用海水ポンプとその建屋を増設するべきだった。きちんと水密化すれば防災上の耐久性は見違えるほど向上しただろうし、建屋の壁を厚くしたり、装甲を仕込むことによって、携帯火器で抜けないものにすれば物理的な防護度は格段に向上する。

もし、そのような工事が不可能ならば、テロ対策と防災対策は両立出来ないことになる。つまり、テロ対策上も、装甲された建屋で覆わないのであれば、武装警官達が防衛に失敗すれば簡単に破壊されてしまう。その状態で永遠に放置される。

そんな施設には存在価値が全くない。出来ないと分かった時点で運転を中止すべきだっただろう。

以上の2方策のいずれかしか、事故前に推進者が選ぶ道は無かったと思う。

事故後、原子力委員会防護専門部会はサブテーマとして「福島第一原子力発電所事故を踏まえた核セキュリティ上の課題と対応」を議論したが、公開された議事録を読む限り、市民団体の見学拒否に関する反省は一切していない。津波や避難の問題では法的責任こそ認めないものの、何らかの反省の意思は責任者達から示されているが、こいつ等にはそれすらも無い。

なお青山氏もやるべきことがある。「森友学園頑張ってくださいねー♪」動画など、原発以外の案件でも様々な味噌を付けていることを批判されているが、当ブログとしては過去の歪んだテロ対策に加担した責任を取って、代議士を辞め、言論・講演活動の内容を大幅に見直すべきだと結んでおく。

※文中、評判の確認と訓話的な意味でツイートを引用した。

2018.3.18:原子力委員会防護専門部会議事、資料の検証結果を追記、反映。

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