この1〜2年、小売業界の間では「オムニチャネル(流通業者が持つ店舗やECサイトなどのあらゆる販売チャネルを統合し、様々なチャネルを通して消費者に購買の機会や体験を提供すること)」が一つの大きなキーワードとなっている。日本でも、大手小売りチェーンが積極的にオムニチャネルに舵を切るようになってから、実店舗を持つ企業にとって、取り組まなければならない重要なマーケティング戦略の一つとして位置付けられるようになってきた。
オムニチャネルという考え方は、米国の百貨店、メイシーズが2011年に「オムニチャネル企業を目指す」と宣言したことから広く知られるようになったと言われている。この「オムニチャネル宣言」以降、メイシーズは大幅に業績を改善させたことで、小売り業界を中心に多くの企業がオムニチャネルを推進。実際、先月末に発表された全米広告主協会による調査結果によると「これまでオムニチャネルなマーケティング施策を行ったことがある」と回答した企業は66%となっている。
しかし、彼らの言う「オムニチャネルなマーケティング施策」は、日本で広くイメージされている「オムニチャネル」とは、若干意味合いが異なっているかもしれない。ここで言う「オムニチャネルなマーケティング施策」の多くは、自社の企業サイトやECサイトをマルチデバイス対応にし、これらのサイトに加え、ソーシャルメディアやオンライン広告上でのメッセージをきちんと統一して行うというものだ。
実際、上記調査結果によると、「オムニチャネル戦略において最も重要視する部分」として「時と場を問わず一貫性のあるブランド体験ができるようにすること」という回答が最も多い。
おそらく日本でイメージされ、語られている「オムニチャネル」は、「ブランド体験やメッセージの一貫性」もさることながら、そこに「実店舗」という要素、つまり「O2O(オンライン・トゥー・オフラインの略で、オンラインからオフラインの行動へ促す施策)」が、半ば必要不可欠なものとして考えられることが多い。だが、そこまで統合されているケースは米国でもそれほど多くはない。「オムニチャネル戦略において積極的に投資されているメディア」は「モバイル」「SNS」「オンラインメディア」の3つが、いずれも80%以上と飛び抜けて高く、「テレビ」が30%程度、そして「店内のメディア」が20%程度と非常に少ない数字となっている。