早稲田大学ビジネススクールの平野雅章教授は22日午後、ホテルニューオータニ(東京・千代田)で開催された「IT Trend 2007 イノベーションが創る『明日の経営』」で、「IT投資で伸びる会社、沈む会社~IT活用のための経営革新~」と題する特別講演を行った。
 平野教授は経営情報学の第一人者。IT投資と経営成果の関係について、データに基づいた実証研究を行ってきた。この研究成果を基に、「IT投資によって企業業績を改善するためには、まず“組織能力”の向上が必要だ」と主張した。講演の概要は以下の通り。



 
  写真1●早稲田大学ビジネススクールの平野雅章教授
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  写真2(グラフ)●組織IQが高い企業では、IT投資の成果は大きい
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 私がかかわる経営情報学会の「情報投資と経営成果」特設研究部会では、IT投資と企業業績の関係を分析してきた。そのなかで、IT投資額と企業業績が大きく関係していることに加えて、「組織能力」の高さがIT投資の成果に大きく影響していることが分かった。

 具体的には、経済産業省が実施した「IT経営百選」「情報処理実態調査」の調査結果や公表されている業績データ、組織能力を測るための独自の調査結果を組み合わせて分析した。

 組織能力を測るには、「組織IQ」という概念が有効である。組織IQは、ヘイム・メンデルソンとヨハネス・ジーグラーの著書『スマート・カンパニー』(ダイヤモンド社)で紹介されている。組織メンバー個人の知識やスキルではなく、組織全体として意思決定の仕組みやルールが整備されているかどうかに着目した概念である。

 我々の分析によると、組織IQが高い企業と低い企業で、IT投資の成果には差があることが分かった。組織IQが高い企業のグループでは、IT投資額が多い企業ほど利益率が高くなっている。一方で、組織IQが低い企業のグループでは、IT投資額が多くても利益率は高まらず、むしろ多額のIT投資が業績を悪化させている傾向がある(グラフを参照)。

IT投資に走る前に、組織IQ向上に注力すべき

 この分析結果から言えることは、IT投資を実行する以前の問題として、組織IQの向上が不可欠だということだ。具体的には、社内の意思決定プロセスの見直しや、業務プロセスの標準化や文書化などが必要になる。

 会社の現状によって、取るべき方策は違ってくる。もし、あなたの会社の組織IQが低く、IT投資額が少ない(IT投資に力を入れていない)場合は、すぐにIT投資に注力するのではなく、まず組織IQを向上させる施策を実行するべきである。組織IQが低いままIT投資額を増やしても、組織がITを使いこなせず、業績は悪化してしまう。

 一方で、あなたの会社の組織IQが低く、IT投資額が多い場合は、まずIT投資額を減らしたほうがいい。組織IQが低いまま情報化が進んでいる状況では、現場がITを使いこなせずに業務が混乱している可能性が高い。

 組織IQを向上させるには、「外部情報感度」「内部知識共有」「効果的な意思決定機構」「組織フォーカス」「継続的革新」の5つの観点で体制作りが必要になる。「外部情報感度」については、例えば、「顧客の声の定量的・定性的な分析結果を製品開発につなげているどうか」といったことが重要だ。顧客の声を集める仕組みがあっても、実際に機能して製品開発の実例がなければ意味がない。IT活用の前に、IT以外の部分での「経営革新」が必要なのである。