【福島県知事の2024年】年内最後の会見で「今年の漢字は『感』」 自身の冷酷さには鈍感?西田敏行さんに感謝する一方で、区域外避難者には住宅追い出しの強制執行
- 2024/12/24
- 06:33
内堀雅雄知事は23日午前に開かれた年内最後の定例会見で、記者クラブ幹事社である地元紙記者からの「今年1年の振り返りを」との問いに、自ら用意したボードを掲げて「今年の漢字は『感』であります」と答えた。年内最後の記者会見で「今年の漢字」を示すのは記者クラブとの予定調和セレモニー。福島県出身の俳優西田敏行さんが亡くなったことにまで触れたが、いまなお避難を継続し、福島県から住まいを追われている区域外避難者への言及はなし。それどころか、4月には国家公務員宿舎から退去できずにいる県民に対し明け渡しの強制執行までした。会見では5つの「感」を挙げたが、雪のような自身の冷酷さには今年も鈍感なようだ。

【「西田さん、復興支援してくれた」】
会見で、内堀知事は「感」を選んだ理由について①感動(パリ五輪で福島県ゆかりの選手が活躍した)②感性(福島県内には人々の感性を揺さぶる伝統文化や食などがある)③実感(10月に廃炉作業現場に行き高線量下での作業の難しさを実感した)④痛感(人口減少対策の必要性)―を挙げた。
さらに、こうも述べた。
「このように『感』にまつわる出来事があったなかで、福島県内が深い哀しみに包まれる出来事がありました。それは国民的俳優である西田敏行さんがご逝去されたことであります。震災と原発事故以降、特に西田さんにはさまざまな形で本県の復興を支援していただいてきました。そんな西田さんに対する想い。それが5つ目の想い『感謝』であります。西田さんの福島に対する熱い想いと行動は、多くの県民が勇気をいただいてきました。心から感謝しております。また『福島県をふるさとに持って本当に良かった』と語っておられるように、西田さんが心から愛したふるさと福島の復興を実現するため、これからも全力で挑戦を続けてまいります」
亡くなった人気俳優の最大限の賛辞を送る一方で、今年も区域外避難者に対する〝追い出し訴訟〟は続いている。
福島地裁や仙台高裁が避難者側の主張を全面的に退けたことで気を良くしたのか、内堀知事はとうとう強制的な追い出しに取りかかった。3月8日午後、東京地裁の執行官など6人が国家公務員宿舎「東雲住宅」の避難者宅を訪問。執行官らは「4月7日までに退去して明け渡さなければ翌8日13時に強制執行する」という内容の書面を家具などに貼り付けていった。
被曝を避けるために避難した県民を強制執行で追い出そうという非道。そもそも、内堀知事は何度求められても当事者に会おうとせず、住まいの権利を定めた国際人権法も無視。国内避難民の人権に関する国連特別報告者として2年前に訪日調査をしたセシリア・ヒメネス=ダマリーさんは筆者に「〝追い出し裁判〟など受け入れられません。国内避難民に対する明確な嫌がらせです」とはっきり言ったが、離日直前に開かれた記者会見で示された予備的所見に対し、県職員は「ダマリーさんの個人的なご意見」、「正式な報告書ではない」などと言い放って相手にしなかった。


(上)10月には福島第一原発の廃炉作業を視察した内堀知事。区域外避難者との面会には一切応じていない
(下)年内最後の知事会見で質問した記者は2人だけ。会見は12分ほどで終了した=福島県庁
【知事「法的措置やむを得ぬ」】
強制執行日として書面で指定された4月8日朝、内堀知事はいつものように定例会見に臨んだ。地元テレビ局・テレビユー福島の女性記者がこの件について質問をしたが、知事は用意した回答を表情ひとつ変えずに淡々と読み上げるだけだった。
記者「東京の国家公務員住宅の自主避難者を巡る問題について伺います。原発事故後、国家公務員住宅に入居している自主避難者に対して、県は明渡しの強制執行を申立てており、退去の期限は、今日になっています。先日、避難の権利を求める団体が会見を開いて『同じ被災者なのに、なぜこんなにも県は不寛容で力ずくの決着を急ぐのか』と訴えていましたが、知事としてのお考えと今後の対応について伺います」
知事「福島県では、これまで幾度も文書や訪問等で自主的な転居を繰り返し求めてきましたが、応じていただけないことなどから、やむを得ず法的措置に至ったものであります」
記者「今日、強制執行の期限になっていますけれども、強制執行の手続きに入るというのは変わらずに行うのでしょうか」
知事「今申し上げたとおりであります」
そもそも答えになっていない。大ざっぱな経緯を改めて口にしただけだ。国家公務員宿舎を管理する財務省の担当者は、「原発事故被害者団体連絡会」(ひだんれん)などとの交渉の場で「福島県から供与延長の申し出があれば検討する」との姿勢を示していた。しかし、内堀知事は県民を守るために財務省と話し合いをしようとするどころか、逆に追い出し裁判に打って出た。
前任者の佐藤雄平知事も避難指示区域外県民の県外避難支援には消極的で、仮設住宅とみなす民間賃貸住宅や公営住宅への入居申請受付を2012年12月28日で打ち切った。この後にようやく動けた人などの、いわゆる〝自力避難者〟も相当数いると思われる。制度を利用できた人も、得られたのは6万円までの家賃補助と日赤からの家電6点セットくらい。「国や県が被ばく影響などないと言っているのに勝手に危険だと勘違いして逃げた人」などと冷笑され、被曝リスクを懸念して子どもとともに逃げたことを避難先で封印せざるを得ない人も少なくない。ネット上には「そんなに避難生活が苦しいのなら福島に帰れよ」などの書き込みが後を絶たない。
初当選から2年後の2016年、内堀知事は区域外避難者への住宅無償提供打ち切りを決定。署名や申し入れ、血判状を携えた直談判まであったにもかかわらず2017年3月末、予定通りに無償提供を打ち切った。そして「もう、あんたたちには住む権利がないんだよ」と言わんばかりに調停、提訴、そして強制執行へと県民を追い詰めたのだった。


(上)今年4月、東京地裁は予告通りに区域外避難者に対して強制執行した。執行を申し立てたのは内堀知事だ
(下)避難者団体は強制執行しないよう福島県に求めたが、内堀知事は聞く耳を持たなかった
【県「手続きに則って粛々と」】
知事会見後に福島県生活拠点課の橋本耕一主幹を訪ねた。当時の判断は正しかったと今でも考えているのか問うたが、知事と同じように淡々と答えるばかりだった。
「正しかったかというか………繰り返しになりますが、われわれは裁判をしているなかでそういった判決が出たので、判決に基づいてやっているということ。われわれとして手続きに則って粛々とやっているということです。受け取り方に関しては、さまざまあるかと思います」
橋本主幹は今年3月にも、電話取材に対し「『なぜそこまでするのか』と思われる方もいるかと思うが、われわれとしては裁判所に認められた範囲内で手続きをさせていただいている。弁護士の先生に相談したうえで今回のタイミングだった」と答えている。そこには、個別事情に寄り添うという姿勢は見られない。
〝追い出し訴訟〟は2020年3月、東京五輪延期のドサクサに紛れるように福島県が福島地裁に提訴。「東雲住宅」での入居を続けている4世帯に対し、明け渡しと未納家賃の支払いを求めた。その後、2世帯とは和解が成立。福島地裁の小川理佳裁判長は2023年1月、避難者側2世帯に対し、明け渡しと無償提供打ち切り後に生じた家賃などの支払いを命じる判決を言い渡した。仙台高裁での控訴審でも、瀬戸口壯夫裁判長はわずか1回の弁論だけで結審。今年1月に判決理由も述べないまま避難者側の控訴を棄却する判決を言い渡している。避難者側は最高裁に上告し、仙台高裁に対して執行停止申立書を提出した。たが、福島県は仙台高裁が申し立てを却下したことを受け、最高裁の判断を待たずに一審福島地裁の「仮執行宣言」を行使したのだった。
亡くなった俳優への感謝を口にする一方で、県外避難した県民には冷酷な仕打ちをし続ける内堀知事。地元紙の世論調査では、依然として支持率は80%を超える。2026年秋の知事選挙に出馬して四選を目指すのだろうか。
なお、知事に就任した2014年以降の「今年の漢字」は、「挑」→「誇」→「創」→「共」→「進」→「再」→「機」→「開」→「日」→「感」だった(2020年はなし)。福島県広報課は一貫して「記者クラブと事前に打ち合わせているわけではない」としているが、実際には知事は毎年、漢字を用意し、記者クラブ側もそれを引き出す質問をしている。
(了)

【「西田さん、復興支援してくれた」】
会見で、内堀知事は「感」を選んだ理由について①感動(パリ五輪で福島県ゆかりの選手が活躍した)②感性(福島県内には人々の感性を揺さぶる伝統文化や食などがある)③実感(10月に廃炉作業現場に行き高線量下での作業の難しさを実感した)④痛感(人口減少対策の必要性)―を挙げた。
さらに、こうも述べた。
「このように『感』にまつわる出来事があったなかで、福島県内が深い哀しみに包まれる出来事がありました。それは国民的俳優である西田敏行さんがご逝去されたことであります。震災と原発事故以降、特に西田さんにはさまざまな形で本県の復興を支援していただいてきました。そんな西田さんに対する想い。それが5つ目の想い『感謝』であります。西田さんの福島に対する熱い想いと行動は、多くの県民が勇気をいただいてきました。心から感謝しております。また『福島県をふるさとに持って本当に良かった』と語っておられるように、西田さんが心から愛したふるさと福島の復興を実現するため、これからも全力で挑戦を続けてまいります」
亡くなった人気俳優の最大限の賛辞を送る一方で、今年も区域外避難者に対する〝追い出し訴訟〟は続いている。
福島地裁や仙台高裁が避難者側の主張を全面的に退けたことで気を良くしたのか、内堀知事はとうとう強制的な追い出しに取りかかった。3月8日午後、東京地裁の執行官など6人が国家公務員宿舎「東雲住宅」の避難者宅を訪問。執行官らは「4月7日までに退去して明け渡さなければ翌8日13時に強制執行する」という内容の書面を家具などに貼り付けていった。
被曝を避けるために避難した県民を強制執行で追い出そうという非道。そもそも、内堀知事は何度求められても当事者に会おうとせず、住まいの権利を定めた国際人権法も無視。国内避難民の人権に関する国連特別報告者として2年前に訪日調査をしたセシリア・ヒメネス=ダマリーさんは筆者に「〝追い出し裁判〟など受け入れられません。国内避難民に対する明確な嫌がらせです」とはっきり言ったが、離日直前に開かれた記者会見で示された予備的所見に対し、県職員は「ダマリーさんの個人的なご意見」、「正式な報告書ではない」などと言い放って相手にしなかった。


(上)10月には福島第一原発の廃炉作業を視察した内堀知事。区域外避難者との面会には一切応じていない
(下)年内最後の知事会見で質問した記者は2人だけ。会見は12分ほどで終了した=福島県庁
【知事「法的措置やむを得ぬ」】
強制執行日として書面で指定された4月8日朝、内堀知事はいつものように定例会見に臨んだ。地元テレビ局・テレビユー福島の女性記者がこの件について質問をしたが、知事は用意した回答を表情ひとつ変えずに淡々と読み上げるだけだった。
記者「東京の国家公務員住宅の自主避難者を巡る問題について伺います。原発事故後、国家公務員住宅に入居している自主避難者に対して、県は明渡しの強制執行を申立てており、退去の期限は、今日になっています。先日、避難の権利を求める団体が会見を開いて『同じ被災者なのに、なぜこんなにも県は不寛容で力ずくの決着を急ぐのか』と訴えていましたが、知事としてのお考えと今後の対応について伺います」
知事「福島県では、これまで幾度も文書や訪問等で自主的な転居を繰り返し求めてきましたが、応じていただけないことなどから、やむを得ず法的措置に至ったものであります」
記者「今日、強制執行の期限になっていますけれども、強制執行の手続きに入るというのは変わらずに行うのでしょうか」
知事「今申し上げたとおりであります」
そもそも答えになっていない。大ざっぱな経緯を改めて口にしただけだ。国家公務員宿舎を管理する財務省の担当者は、「原発事故被害者団体連絡会」(ひだんれん)などとの交渉の場で「福島県から供与延長の申し出があれば検討する」との姿勢を示していた。しかし、内堀知事は県民を守るために財務省と話し合いをしようとするどころか、逆に追い出し裁判に打って出た。
前任者の佐藤雄平知事も避難指示区域外県民の県外避難支援には消極的で、仮設住宅とみなす民間賃貸住宅や公営住宅への入居申請受付を2012年12月28日で打ち切った。この後にようやく動けた人などの、いわゆる〝自力避難者〟も相当数いると思われる。制度を利用できた人も、得られたのは6万円までの家賃補助と日赤からの家電6点セットくらい。「国や県が被ばく影響などないと言っているのに勝手に危険だと勘違いして逃げた人」などと冷笑され、被曝リスクを懸念して子どもとともに逃げたことを避難先で封印せざるを得ない人も少なくない。ネット上には「そんなに避難生活が苦しいのなら福島に帰れよ」などの書き込みが後を絶たない。
初当選から2年後の2016年、内堀知事は区域外避難者への住宅無償提供打ち切りを決定。署名や申し入れ、血判状を携えた直談判まであったにもかかわらず2017年3月末、予定通りに無償提供を打ち切った。そして「もう、あんたたちには住む権利がないんだよ」と言わんばかりに調停、提訴、そして強制執行へと県民を追い詰めたのだった。


(上)今年4月、東京地裁は予告通りに区域外避難者に対して強制執行した。執行を申し立てたのは内堀知事だ
(下)避難者団体は強制執行しないよう福島県に求めたが、内堀知事は聞く耳を持たなかった
【県「手続きに則って粛々と」】
知事会見後に福島県生活拠点課の橋本耕一主幹を訪ねた。当時の判断は正しかったと今でも考えているのか問うたが、知事と同じように淡々と答えるばかりだった。
「正しかったかというか………繰り返しになりますが、われわれは裁判をしているなかでそういった判決が出たので、判決に基づいてやっているということ。われわれとして手続きに則って粛々とやっているということです。受け取り方に関しては、さまざまあるかと思います」
橋本主幹は今年3月にも、電話取材に対し「『なぜそこまでするのか』と思われる方もいるかと思うが、われわれとしては裁判所に認められた範囲内で手続きをさせていただいている。弁護士の先生に相談したうえで今回のタイミングだった」と答えている。そこには、個別事情に寄り添うという姿勢は見られない。
〝追い出し訴訟〟は2020年3月、東京五輪延期のドサクサに紛れるように福島県が福島地裁に提訴。「東雲住宅」での入居を続けている4世帯に対し、明け渡しと未納家賃の支払いを求めた。その後、2世帯とは和解が成立。福島地裁の小川理佳裁判長は2023年1月、避難者側2世帯に対し、明け渡しと無償提供打ち切り後に生じた家賃などの支払いを命じる判決を言い渡した。仙台高裁での控訴審でも、瀬戸口壯夫裁判長はわずか1回の弁論だけで結審。今年1月に判決理由も述べないまま避難者側の控訴を棄却する判決を言い渡している。避難者側は最高裁に上告し、仙台高裁に対して執行停止申立書を提出した。たが、福島県は仙台高裁が申し立てを却下したことを受け、最高裁の判断を待たずに一審福島地裁の「仮執行宣言」を行使したのだった。
亡くなった俳優への感謝を口にする一方で、県外避難した県民には冷酷な仕打ちをし続ける内堀知事。地元紙の世論調査では、依然として支持率は80%を超える。2026年秋の知事選挙に出馬して四選を目指すのだろうか。
なお、知事に就任した2014年以降の「今年の漢字」は、「挑」→「誇」→「創」→「共」→「進」→「再」→「機」→「開」→「日」→「感」だった(2020年はなし)。福島県広報課は一貫して「記者クラブと事前に打ち合わせているわけではない」としているが、実際には知事は毎年、漢字を用意し、記者クラブ側もそれを引き出す質問をしている。
(了)