岩崎夏海「『もしドラ』を売って出版界が間違っていることを証明したかった」
大ベストセラー著者に「ドラッカー自伝」翻訳者・牧野洋が聞いた [後編]vol.1 はこちらをご覧ください。
牧野 先日、ドラッカー研究所のワーツマン所長に聞いたら、「ドラッカー本人が書いたのならともかく、第三者が書いたドラッカー本が数十万部も売れるなんて、異例中の異例。なんでこんなに売れるのか・・・。だれもが不思議に思っている。読んでみないと分からないけれども、きっととても面白いんだろうね」という返事でした。
岩崎さんの本は、日本では「小説形式のビジネス書」として扱われています。日本人が書いたビジネス書が海外で注目されることはめったにありません。仮に英語に訳されていても、新聞や雑誌で紹介されることはまずないです。
ドラッカーゆかりの地クレアモントにドラッカー関係者が大勢いたという点は割り引かなければなりませんが、ドリス夫人も『もしドラ』に興味津々で、「英語版はないの?」と言っています。海外でも注目される理由は何でしょう?
岩崎 ドラッカーの中にエンターテインメントという要素を見いだせた――これが最大の理由じゃないかと思っています。
皆さんは「ドラッカーは経営の神様」とか「ドラッカーは役に立つ」といった理由でドラッカー本を読んでいます。
でも、本当は面白いから読んでいるのであって、それがエンターテインメント的な面白さだとは気付いていないだけなのではないでしょうか。
ぼくはそれにいち早く気付き、ドラッカーをエンターテインメントの世界へ翻訳できたと思っています。
タイトルだけでも"におい"を嗅げるはずです。
欧米の人は日本語で書かれた『もしドラ』を読めませんが、タイトルにある「ドラッカー」「野球」「女子マネジャー」という言葉を聞いて、「そこにエンターテインメント的な面白さがある」と思っているのででしょう。
ワーツマン所長にも会いましたが、「誕生日に息子から日本語版『もしドラ』をプレゼントされて、びっくりしました。日本人向け本屋で見つけ、買ってきたようです」と言っていました。表紙もエンターテインメントそのものですから、子供にも分かりやすいですよね。
ドラッカーを材料にして小説を書こうと思い立ったころ、『ダ・ヴィンチ・コード』というハリウッド映画が流行っていました。レオナルド・ダ・ヴィンチの「モナリザ」や「最後の晩餐」をモチーフにした小説が原作です。ダ・ヴィンチの「モナリザ」や「最後の晩餐」がエンターテインメントになるように、ドラッカーの『マネジメント』もエンターテインメントになるのです。
すべての芸術作品や経営理論にエンターテインメント的な価値があるとは言いません。でも、エンターテインメントのネタはいろいろな所に転がっているはずで、これからも"発見"があると思います。