日本がいつまでもアメリカと「対等」になれない本当の理由
これからの憲法の話をしよう〔後編〕〔→前編「憲法9条は日本を危険にさらしてる!?」はこちら http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55545〕
ふつうの親米国と異常な親米国
伊勢崎: 前半で憲法9条2項の「交戦権」の議論をしましたけど、実は日本には「交戦しない自由」がありません。
たとえばアメリカが北朝鮮と開戦したら、日本が1954年に締結した「朝鮮国連軍地位協定」によって日本は自動的に「交戦国」になる。それと連動する日米地位協定によってアメリカの出撃にNOと言える主権は日本にはない。
松竹: おっしゃるとおりです。
伊勢崎: 世界中に米軍を受け入れている国はたくさんあります。どこの国でも、「米軍がいるから安全」vs「米軍がいるから狙われる」という賛否がある。でも、戦後70年を経て、米軍が自国の米軍基地から出撃することにNOと言えないのは、日本と韓国だけです。
米軍が駐留するドイツ、イタリアを含むNATO諸国、そしてアフガニスタン、イラク等のアメリカの戦場になっている国とアメリカが結ぶ現代の地位協定の「国際標準」では、出撃のみならず、平時の訓練においても、米軍に「事前通知」してもらえるか否かではなく、すべて受け入れ国が「許可」するものです。
だって、米軍に勝手に出撃されたら困るわけですよね。報復を受けるのはこっちで、米軍は海の彼方に逃げればいいだけですから。
アメリカによる占領下でなければ、アメリカにNOと言えるのが主権で、ふつうの同盟国のあり方です。日米関係は正常ではありません。
松竹: たとえばトルコもスペインも、過去に米軍機の領空通過にNOと言ったことがありますよね。
伊勢崎: はい。では、なぜ日本ではそんな異常な事態が続いているのか。問題の根幹にあるのが、日米地位協定です。
日本国内であれば、在留外国人でも、すべての事件に日本の法令が適応されます。これが「属地主義」。国際関係の基本中の基本の原理ですよね。
そこに「例外」を設けるのが、大使館員等のための外交特権であり、そして、何らかの理由で駐留する外国軍のための「地位協定」です。日米ではこれがいびつな状態で固定されている。
沖縄で悲劇が起こると、一時的に地位協定改定の声が盛り上がるものの、いつの間にかトーンダウンしてしまう。米国との地位協定改定を勝ち取った国はたくさんあるんですよ。
でも、日本ではそこに至らない。米軍基地反対とか、海兵隊反対とか、県外移設とかにトーンダウンしてしまう。その理由として、主権問題ではなく迷惑施設問題になってしまう沖縄への米軍基地集中。もうひとつは、実はここでも、9条が関わってくると思うのです。
松竹: 9条の話に入る前に、ちょっとよろしいですか。
私は20年以上前に「日米地位協定研究会」をつくり、そこで『日米地位協定逐条批判』という500ページ近い本を出しました。そのうち後ろの100ページを費やして、日本と同じ敗戦国であるドイツの地位協定がどれだけ変わったかを示すために全訳までつけたんです。
そのきっかけは沖縄で起きた米兵による少女暴行事件でした。その点では伊勢崎さんのおっしゃるとおり一過性のものだったかもしれない。
ただ、地位協定改定を望む声が途絶えているわけではありません。米軍基地を抱える14道府県は、渉外関係知事連絡会で毎年議決をして、ここを変えてくれとやっています。しかし、全然変わっていかないのも事実です。
それから、米軍機の飛行訓練ルートの問題は、個人的にも関わったので強く印象に残っています。
米国本土であれば、事前に訓練ルートが明確になっていて、他の飛行機に「その時間帯は来るなよ」と知らせるわけですよね。ところが、日本での飛行訓練はまったくの無法状態。どこを飛んでもいいという無茶苦茶な状態が相変わらず続いています。
これらの状態をなんとか変えなければならないと努力してきたつもりですし、その気持ちは伊勢崎さんと共有できると思っています。
国際標準は「互恵性」
伊勢崎: どこの国でも、地位協定改定を望む運動の中心になるのは、市民社会やリベラル勢力です。実際、改定を成し遂げたのは、すべて、そういう力です。韓国が休戦状態であることを考えれば、いまや日本だけが取り残されている。
なぜこんなことになっちゃったか?