2017.07.21
# 介護 # 認知症

まるで押し売り…裁判所が決めた「監督人」に高額請求される家族急増

成年後見制度の深い闇 第1回

認知症の父母を抱えながら、後見人や保佐人としてうまくやってきた家族。そこに突然、裁判所から「監督人をつける」と理不尽な決定が下され、年間数十万円の報酬の支払いを求められる……。隠れた社会問題に迫る。

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何の問題もない家族に裁判所が突然…

2025年、日本は「国民の3人に1人が65歳以上」という超高齢社会に突入する。

65歳以上の高齢者のうち、5人に1人が認知症に罹患すると見られ、2012年に462万人だった認知症高齢者の数は、2025年には1・5倍の700万人になる見通しだ。

政府は、判断能力が不十分な認知症高齢者を支えるため、2000年に「成年後見制度」をスタートさせた。だが、制度発足から17年が経ったいま、その運用面で問題が多発していることは、あまり知られていない。

筆者は、認知症や介護の問題を取材する中で、成年後見制度の運用が、水面下で大きな社会問題になりつつあると考えてきた。するとやはり、トラブルに見舞われた人々の悲鳴にも似た声が、次々と上がり始めたのだ。

たとえば、7月9日の朝日新聞朝刊の「オピニオン」欄に掲載された、64歳の主婦からの『母の財産管理 監督に14万円とは』という投書だ。これによると、投稿主の女性は4年前から認知症の母親の保佐人(認知症の症状が重い順に「後見人」、「保佐人」、「補助人」が裁判所の認定のもと、つけられる)をしていて、これまで何のトラブルも起こしたことがなかった。

ところが昨年7月、母親の資産や健康状態に変化がないにもかかわらず、家庭裁判所が「司法書士をあなたの監督人に選任した」と通知をしてきたという。女性が「監督人はいらない」と断ったにもかかわらず、家裁は結局、職権で監督人をつけてしまった。

すると、監督人となった司法書士は、電話で数回と面会で一度のやりとりをしただけにもかかわらず、今年6月、報酬として14万円の支払いを要求してきたのだ。しかも、この14万円については家裁の承認も得ているという。

投稿した女性自身は、当然ながら、これまで無報酬で母親の保佐人を務めてきた。ところが母親のためになることをほとんど何もしていないにもかかわらず、司法書士は、母親の年金の2カ月分以上に当たる報酬の支払いを求めたのだ。ちなみに、監督人の報酬は母親の資産から払われる仕組みだ。

投稿者の女性は<問題ない家に訪問販売が来て、「いらない」と答えたのに簡単な目視点検で「14万円です」と言われたような感じです。監督人がついた理由の説明もなく、今までの努力が否定された思いです>と、家裁と司法書士の理不尽な対応に強い憤りを示している。

国と法律家を相手に市民は泣き寝入り

一体なぜこのような不可思議なことがまかり通っているのか。

成年後見制度の本来の目的は、認知症高齢者の財産を守り、高齢者の活動を手助けすることにある。ところが、家裁と司法書士が取った行動は、認知症高齢者の財産を理不尽に目減りさせるだけで、合理性がどこにもない。合理性がないからこそ、家裁は監督人をつけた理由を主婦に説明できないのだろう。

実はいま、水面下で、これと似たようなトラブルが多発している。その実態が表に出にくいのは、多くの市民が、家裁=国家と司法書士・弁護士ら法律家を相手にして、泣き寝入りしている現実があるからだ。

筆者は、投稿者の女性と同じようなトラブルに巻き込まれた人を、これまでに何人も取材している。

 

そもそも、家裁の元締めである最高裁家庭局は、親族が後見人や保佐人、補助人になると、認知症の人の預貯金を使い込む恐れがある、と見ている。

そこで、認知症の人に一定の基準額以上の預貯金がある場合は、使い込み防止のために、二つの対策を取っている。

一つは、今回の投書のケースのような保佐人と補助人に対する対策で、使い込みができないように弁護士や司法書士といった第三者の監督人を監視役として、事実上強制的につけるもの。

もう一つが、親族後見人に対する対策である「後見制度支援信託」(後見信託)で、日常生活に使う金額以外は信託銀行に信託させ、家裁の承認なしに親族後見人が預貯金を使えないようにする仕組みだ。

そして、もし親族後見人が信託に同意しない場合は、事実上のペナルティとして、家裁が後見人に対して監督人をつける。こちらも強制的なものだ。

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