先日公開した「ルポ・大学解雇」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/51247)では、近年、学校側の一方的な通知によって大学教授らが解雇されるケースが増加していることを指摘した。
今回は、国立大学法人・宮崎大学のケースを追う。同大学で教鞭を振るっていた准教授が、身に覚えのない「セクハラ」「パワハラ」で突然解雇されてしまった。裁判の結果、この解雇が不当なものであることが認められたが、その裁判資料からは「捏造」というほかない、あまりに強引な大学のやり方が明らかになる。
ジャーナリスト・田中圭太郎氏のリポート。
身に覚えのないハラスメントで懲戒解雇
宮崎大学の准教授のAさんは、2012年4月に約8年間勤めた同大学を退職し、公立大学法人・都留文科大学(山梨県)の教授に就任することが決まっていた。准教授から教授になること、新たな立場と環境で研究活動ができることに期待を膨らませていたのは言うまでもない。
そんなAさんのもとに、悪夢のような報せが入ったのは、退職直前の3月12日のことだった。宮崎大学から、唐突に次のような通達が届いたのだ。
<特別調査委員会に出席するように>
「特別」という言葉からも分かる通り、この委員会が開かれるのは異例のことだ。なにか大きな事件でも起こらない限り、設置されるものではないものだが、Aさんには自分が調査対象になるような覚えはまったくなかった。
嫌な予感がしたAさんは、万が一大学から不当な扱いを受けたときのために弁護士に相談し、なぜ自分が特別調査委員会に出席しなければならないのか、その設置目的や根拠などについて、弁護士を通して事前に大学に確認した。
これに対して大学からは「准教授(Aさん)が指導した学生の卒業論文に、半裸の女子学生らしき写真が多数掲載されていた。このことを調査する」と書かれた文書が送り付けられてきたのだ。
文書にはあわせて、「ハラスメント質問事項」なる文書が同封され、14項目にわたる質問が書き連ねられていた。
・あなたが指導した平成23年度卒業生に、東京の方へ就職するようしつこく勧誘しましたか。
・平成23年度卒業生に対して、自分の卒論指導を受けるように、無理強いをしたことはありますか。
・学生の半裸写真を、学生が嫌がるにもかかわらず卒論内に入れるように指導しましたか。
・あなたの研究室の女子学生に対して、遅い時間帯(例えば10時以降)自分と二人だけで研究室にいるよう勧めたことはありますか。……
どの質問も、Aさんに思い当たる節はなかった。そもそも質問に出てくる学生が誰を指しているのかもAさんにはわからなかった。自分が指導した学生の論文に、半裸の女子学生の写真など掲載させるわけがない。しかし、大学が自分を懲戒処分しようとしているのは間違いない。
Aさんは大学からの質問に対し「一切ありません。内容が抽象的でわからないので具体的に教えてください」と文書で回答した。
不穏な空気を感じながらも、予定通り宮崎大学を退職し、都留文科大学に赴任したAさん。その直後のことである。宮崎大学の菅沼龍夫学長名(当時)で、「懲戒処分として懲戒解雇する」と明記された3月30日付けの文書がAさんの元に送られてきたのだ。
Aさんは「ハラスメントがあった」という理由で、退職後にもかかわらず、宮崎大学を解雇されてしまったのだ。さらに6月には、「退職手当の支給制限書」が宮崎大学から送られてきた。Aさんには退職手当が支払われないことが、一方的に決められたのだ。
宮崎大学の内部で一体何が起きているのか…Aさんはまったく理解できていなかった。