「地球最初の生命はRNAワールドから生まれた」
圧倒的人気を誇るこのシナリオには、困った問題があります。生命が存在しない原始の地球でRNAの材料が正しくつながり「完成品」となる確率は、かぎりなくゼロに近いのです。ならば、生命はなぜできたのでしょうか?
この難題を「神の仕業」とせず合理的に考えるために、著者が提唱するのが「生命起源」のセカンド・オピニオン。そのスリリングな解釈をわかりやすくまとめたのが、アストロバイオロジーの第一人者として知られる小林憲正氏の『生命と非生命のあいだ』です。
今シリーズでは「地球での生物進化に、非生命が生命に至るまでの化学進化についてのヒントがあるか」というテーマで、一連のトピックをご紹介しています。今回は、進化の直線的な進行に対する、「進化曲面」とはどういうものか、見ていきます。
*本記事は、『生命と非生命のあいだ 地球で「奇跡」は起きたのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
「進化曲面」で考える進化
前回、見てきたダーウィンの自然選択説は、いろいろと批判を受けてきましたが、変異が起きるしくみが説明されていないなどの欠点はあるものの、さきほど紹介した突然変異説や、新たに発展してきた遺伝学により補強されていきます。
さらに、変異の多くは自然選択的に有利でも不利でもないという、日本の遺伝学者の木村資生(きむら・もとお。1924〜1994)が唱えた「中立進化説」が登場します。当初は自然選択説に対抗するものともみられましたが、変異はすべて中立であるとする考えは、実は自然選択説と共通するものであり、やがて両者は統合されていきました。
こうして自然選択説のもとにこれらの説が一つにまとまっていき、現在では「総合進化説」や「ネオ・ダーウィニズム」などとよばれ、さまざまな修正を受け入れながらも基本的には進化のメカニズムの中心にすえられて、ダーウィン進化論は進化学の主流となっています。NASAの生命の定義にも「ダーウィン進化しうる自立した分子システム」と明記されています。
変異が中立であることも、いまでは広く受け入れられています。しかしそうだとする
と、変異した場合も、種の母集団が大きいと、徐々にその変異は薄められて、いずれはもとに戻ってしまうことになります。