melOnの音楽四方山話

オーサーが日々聴いている色々な音楽を紹介していくブログ。本人の気力が続くまで続ける。

Daptone

The James Hunter Six - Whatever It Takes [2018 Daptone Records]

50年代から70年代にかけて、多くの傑作を残してきたブルース・ミュージシャンと、同時期にシカゴから多くの名盤を配給していた、音楽レーベルから名前をとったバンド、Howlin’ Wilf & The Veejaysでキャリアをスタート。ロンドンのライブ・スペースで多くのパフォーマンスを経験し、90年代に入るとヴァン・モリソンなどのライブに帯同。2000年代には自身名義がアメリカのブルース・チャートを制覇するなど、多くの足跡を残してきた、コルチェスター出身のシンガー・ソングライター、ジェイムズ・ハンター。

2012年に現在のバンド、ジェイムズ・ハンター・シックスを結成。すると、彼の音楽のファンだったシャロン・ジョーンズの推薦もあり、ダップトーン一派の作品を数多く手掛けている、ボスコー・マンのプロデュースのもと、2013年にユニヴァーサルから『Minute By Minute』を録音、2016年には、ダップトーンに完全移籍して2枚目のアルバム『Hold On!』をリリース。ダップトーン発の作品では珍しい、ブルースを取り入れた作風で音楽ファンの耳目を惹いた。

今回のアルバムは、前作に引き続きダップトーンから発表された作品。プロデューサーは前作に引き続きボスコー・マンで、収録曲のソングライティングはジェイムズ・ハンターが担当。演奏やレコーディングも前作と同じ面々が行うなど、前作同様、リズム&ブルースの泥臭さと軽妙さ、ブルースの荒々しさを、巧みな演奏技術で現代に蘇らせた録音になっている。

アルバムに先駆けて発表されたのは、1曲目に収録された”I Don't Wanna Be Without You”だ。キューバ音楽のエッセンスを取り入れた作風は、妖艶でリズミカルなラテン音楽を取り入れて、アダルティな雰囲気を演出した60年代初頭のリズム&ブルースを彷彿させる。サム・クックやレイ・チャールズなど多くのミュージシャンが採用してきた手法を、現代のポップスに落とし込むアレンジ技術が光っている。

これに対し、前曲のカップリングである”I Got Eyes”は、YMOなどがカヴァーしたことでも知られるアーチー・ベル&ドレルズ“Tighten Up“を彷彿させる、アップテンポのダンス・ナンバー。ブンブンと唸るダイナミックなベース・ラインと、畳み掛けるように音を重ねるホーン・セクションが格好良い。この演奏をバックに、時折雄叫びを上げながらパワフルな歌唱を聴かせるジェイムズの姿が心に残る。

また、パーカッションとオルガンの軽妙な伴奏が印象的な”Show Her”は、サム・クックの”Cupid”やオーティス・レディングの”(Sittin' On) The Dock of the Bay”のような、朴訥とした雰囲気の飾らないメロディが心地よいミディアム。打楽器や鍵盤楽器の明るい音色で、ポップな作品に仕立て上げる手法が心憎い。60年代のサウンドを取り入れた作品は沢山あるが、ここまで当時の音を再現している曲は珍しい。懐かしいけど新しい、不思議な音楽だ。

そして、”How Long”は本作の収録曲で異色の、ギターの弾き語りとコーラスを組み合わせた作品だ。デルズやフラミンゴスのような、60年代初頭のドゥー・ワップを連想させる、息の合ったコーラスと掛け合いが面白い。ギターの弾き語りとコーラスという、昔から使われている手法を組み合わせて、新しい音楽に仕立て上げる技術が魅力の作品だ。

彼らの音楽の面白いところは、60年代から70年代にかけて一世を風靡した、ファンクやソウル・ミュージックから多くの影響を受けたスタイルがウリのダップトーン一派では珍しい、50年代のリズム&ブルースやブルースを土台にしていることだ。ビートルズやローリング・ストーンズのように、イギリスのロック・ミュージシャンにはブルースをルーツにしている人達が少なくないが、当時の音楽を徹底的に研究し、現代のリスナーに合わせた音楽にアレンジして見せる潔さと技術力には、唯々愕然とするしかない。

エイミー・ワインハウスやマーク・ロンソンの音楽にソウル・ミュージックのフレーバーを注ぎ込んだダップ・トーンズや、ジェイZの作品を通してファンクの魅力を世界に伝えたメナハン・ストリート・バンドのように、リズム&ブルースやブルースの面白さを現代に伝えてくれる希少な作品。ヴィンテージ・ミュージックが好きな人にはもちろん、ボウディーズやオカモトズのような、黒人音楽をルーツに持つ日本のロック・バンドをよく聴く人にもおすすめだ。

Producer
Bosco Mann

Track List
1. I Don't Wanna Be Without You
2. Whatever It Takes
3. I Got Eyes
4. MM-Hmm
5. Blisters
6. I Should've Spoke Up
7. Show Her
8. Don't let Pride Take You For A Ride
9. How Long
10. It Was Gonna Be You





Whatever It Takes
James -Six- Hunter
Daptone
2018-02-02

Sharon Jones & The Dap-Kings ‎– Soul Of A Woman [2017 Daptone]

アレサ・フランクリンやメイヴィス・ステイプルズを彷彿させる、ふくよかでダイナミックな歌唱が魅力のシャロン・ジョーンズを核に据え、名うてのミュージシャン達が脇を固めたスーパー・バンド、ダップ・キングス。 90年代中ごろから、ニューヨークを拠点に活動していた彼女達は、生演奏によるパワフルなパフォーマンスと、CD全盛期の時代に積極的にアナログ・レコードを発売するビジネス・スタイルが話題になり、徐々にファンを増やしていく。

また、バンドを支える演奏者の高いスキルは有名ミュージシャンの間でも注目を集め、エイミー・ワインハウスやマーク・ロンソンなどの作品に起用されたほか、バンドのメンバーが結成したメナハン・ストリート・バンドの”Make the Road by Walking”は、ジェイZなどのヒップホップの楽曲にサンプリングされるなど、様々なジャンルのアーティストから高い評価を受けてきた。

しかし、2013年にシャロン・ジョーンズの胆管癌が見つかると、その後は長い闘病生活と並行しての活動に突入する。そんな中でも、ホリデー・アルバムを含む複数の作品を発表し、病と闘いながら音楽活動を行うシャロンを題材にしたドキュメンタリー映画が発表をするなど、限られた時間の中で多くの足跡を残してきたが、2016年の11月に彼女はこの世を去ってしまう。

本作は、彼女が生前に録音した未発表曲を集めた編集盤。当初はアルバム2枚分の楽曲を作る予定だったが、本作では完成に至った11曲を収めている。

アルバムの1曲目は、本作からの先行シングルである”Matter Of Time”。ギターを担当しているビンキー・グリップタイトがペンを執ったこの曲は、三連符を効果的に使った優雅な雰囲気が魅力のミディアム・ナンバー。マヘリア・ジャクソンのゴスペル作品を思い起こさせる雄大なコール&レスポンスと、荒波のように強烈な音を繰り出すホーン・セクションのコンビネーションが面白い曲だ。

また、バンドの中心であるボスコ・マンが制作した”Just Give Me Your Time”は、60年代のジェイムズ・ブラウンを思い起こさせる激しい感情表現と、一つ一つのフレーズをじっくりと歌い込むシャロンの姿が光るスロー・ナンバー。絶妙なタイミングで彼女の歌を盛り立てる演奏が、ヴォーカルの豊かな表情を引き出した良曲だ。力技だけではない、彼女の多才な一面が垣間見れる魅力的な作品だ。

そして、ギターのジョー・クリスピアーノが提供した”Come And Be A Winner”は、軽やかなギターの伴奏が心地よいミディアム・ナンバー。ギターの音色を強調して爽やかな雰囲気を演出する手法は、スピナーズの”It’s A Shame”にも少し似ているが、この曲の演奏はもっと柔らかい。豊かな歌声を巧みに操って、リスナーに語り掛けるように歌うシャロンの姿が印象的な曲だ。

だが、本作のハイライトは何といっても彼女自身がペンを執った”Call On God”だろう。オルガンやコーラスを加えた本格的なゴスペル作品でもあるこの曲は、生演奏をバックに朗々と歌う姿が魅力的。 分厚いコーラスをバックに力強い歌声を聴かせる姿は、70年代にアレサ・フランクリンが発表したライブ録音を連想させる。闘病中とは思えない、力強さと生命力に溢れた歌唱が堪能できる名演だ。

今回のアルバムは、ふくよかで表情豊かなシャロンのヴォーカルと、ダップ・キングスの緻密な演奏が合わさった良質な作品だと思う。見方によっては、過去の路線を踏襲したようにも映るが、それをマンネリ化ではなく、バンドの一貫した作風だと思わせる説得力が、彼女達の凄いところだと思う。むしろ、病と闘いながらも、それ以前と変わらないパワフルなパフォーマンスを披露し続けている彼女と、それを普段の録音と同じような演奏で支えるバンドに、最後までブレることなく貫かれた、彼女達のチームワークと強い信念さえ感じられた。

音楽史に残る傑作を残してきた彼女達の最終作にふさわしい、充実した内容。今後、どんなシンガーを迎えても、本作みたいな音楽は作れないと思わせる力作だ。

Producer
Bosco Mann

Track List
1. Matter Of Time
2. Sail On!
3. Just Give Me Your Time
4. Come And Be A Winner
5. Rumors
6. Pass Me By
7. Searching For A New Day
8. These Tears (no Longer For You)
9. When I Saw Your Face
10. Girl! (you’ve Got To Forgive Him)
11. Call On God





SOUL OF A WOMAN [CD]
SHARON JONES & THE DAP-KINGS
DAPTONE RECORDS
2017-11-17

The James Hunter Six ‎– Hold On! [2016 Daptone]

イギリス南部の中規模都市、コルチェスター出身のシンガー兼ソングライター、ジェイムズ・ハンター率いるソウル・バンド、ジェイムズ・ハンター・シックスの、3年ぶりとなるオリジナル・アルバムがニューヨークに拠点を置くダップトーン・レコードからリリース。

80年代には、Howlin’ Wilf & The Veejays(50年代から70年代にかけて活躍したブルース・ミュージシャン、ハウリン・ウルフと、同時代に隆盛を極めていた黒人音楽レーベル、Vee-Jayが名前の由来)というバンドで、ウィーバーズ・クラブや100クラブといった、ロンドンの名門ライブ・スペースで頻繁にライブを行い、90年代半ばには、ヴァン・モリソンのライブに起用された時のパフォーマンスが注目を集め(そのころの演奏は、ヴァン・モリソンのライブ・アルバム『A Night In San Francisco』に収められています。要チェック!)、2006年に発表した彼のソロ・アルバム『People Gonna Talk』は、ビルボードのブルース・チャートを制覇し、グラミー賞にもノミネートした、実績豊富な実力派ミュージシャンだ。

ジェイムズ・ハンター・シックスは、2012年に結成された彼の新しいバンド。彼の音楽は、以前からミュージシャンの間では好評で、中でも、ダップトーン一派の看板シンガー、シャロン・ジョーンズは彼らの音楽を特に気に入ったこともあり、2013年のデビュー・アルバム『Minute By Minute』は、彼女の作品も手掛けているボスコー・マンをプロデューサーとして紹介、ユニヴァーサルからリリースされた、同作のアナログ盤をダップトーンから発売している。

今回のアルバムでは、ダップトーンに完全移籍し、カリフォルニアにある、ダップトーン・レコード御用達のペンローズ・スタジオでレコーディング。プロデューサーやエンジニアにも同レーベルで多くの仕事を行っている面々が集まって、ジェイムス・ハンターのソウル趣向を具体的な音楽に落とし込むのに一役買っている。

アルバムに先駆け、7インチ・レコードでリリースされた”(Baby) Hold On”は、50年代末に流行した、ラテン音楽を取り入れたジャズやリズム&ブルースの影響が垣間見えるダンス・ナンバー。パーカッションやホーン・セクションが中心になって生み出す、腰に訴えかけるグルーヴと均整のとれたアンサンブルを聴かせる伴奏をバックに、力強く歌うジェイムズの姿が格好いいダンス・ナンバーだ。

この他には、音の塊になって押し寄せる、息の合ったホーンの演奏をアクセントに、熱いヴォーカルを畳みかける”Free Your Mind (While You Still Got Time)”や、サム・クックやデビュー直後のスモーキー・ロビンソン&ミラクルズを彷彿させる、甘く歌ったヴォーカルと、ゆったりとしたバンド演奏が光るミディアム・ナンバー”Something's Calling”。スカ(最近のロックではなく、60年代に流行したブルー・ビートの方)のエッセンスを取り入れた、まったりとした雰囲気のアップ・ナンバー”Light of My Life”や、ジャズの要素を取り入れた流麗なピアノ演奏と、ジェリー・バトラーを連想させる軽妙な歌い口が心地よいミディアム”In the Dark”など、60年代のソウル・ミュージックをベースに、ジャズやリズム&ブルース、ラテン音楽のエッセンスを取り入れた楽曲が揃っている。

ブルーノ・マースやジョンレジェンドのように、60年代以降のソウル・ミュージックから影響を受けたミュージシャンは数多くいるが、彼のようにリズム&ブルースやラテン音楽、ジャズや50年代から60年代初頭のソウル・ミュージックを引用するミュージシャンは珍しい。だが、彼らの母国イギリスの音楽事情に目を向けると、その嗜好にも納得がいく。英国でも米国と同様、ソウル・ミュージックが好きな人は沢山いるが、その中でも、上でも触れたウィーヴァーズ・クラブや100クラブといったクラブやライブ・ハウスでは、彼らが取り上げるような音楽が、ノーザン・ソウルやポップコーンR&Bと呼ばれ、特に珍重されているのだ。ビートルズがマーサ・リーヴス&ザ・ヴァンデラスの”Please Mr. Postman”をカヴァーしてヒットさせたのは有名な話だが、イギリス人の間では、アメリカのポップでダンサブルな黒人音楽は、他の国の人が想像する以上に愛されているのだと思う。

イギリス人のセンスとアメリカ人の感性が融合することで、イギリス以外の地域ではあまり光が当たってこなかった、往年のソウル・ミュージックの魅力を提示した面白いアルバム。音楽の世界の広さと深さ、自分達が気づかなかった面白みを提示してくれる。

Producer
Gabriel Roth, Neal Sugarman, Steven Erdman

Track List
1. If That Don't Tell You
2. This Is Where We Came In
3. (Baby) Hold On
4. Something's Calling
5. A Truer Heart
6. Free Your Mind (While You Still Got Time)
7. Light of My Life
8. Stranded
9. Satchelfoot
10. In the Dark





Hold on!
James -Six- Hunter
Daptone
2016-02-05

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