レックス・ティラーソン次期国務長官がもたらしうる暗い世界
さて、このブログ記事にどういうタイトルを付けるべきなのか、少し考えてみたのだがまとまらない。表題だけで読んだ気になる人の関心を引きたくはないし、かと言って、読む人には伝えたい。何を伝えたいのか? トランプ次期米大統領が国務長官に使命するレックス・ティラーソン氏がもたらしうる危機と言っていいだろうか。あるいは、その危機はすでにオバマ政権時代に必然的にレールが敷かれていたと言っていいのだろうか。
レックス・ティラーソン氏って、誰? 11日に公聴会があったが、すでに書いたようにトランプ次期米大統領が使命する国務長官である。日本で言ったら外務大臣である。ようするに米国の外交をこの人が担うようになるし、世界の動向に大きな影響をもたらすことになる。
どういう人かというと、エクソン・モービルCEOだった人である。現下における報道としてはWSJ「ティラーソン氏公聴会 5つの重要ポイント」(参考)が詳しい。
重要なのは、2011年にロシア国営石油会社ロスネフチと事業歴史的合意を結び、ロシア国内および北極圏の原油・天然ガス開発ビジネスに道を開こうとしたが、2014年の対露制裁でこの頓挫したことだ。簡単に言えば、オバマ政権が潰した。これがトランプ政権で恐らく復活に近い方向に進むことになるだろう。
陰謀論みたいな話をしたいわけではないので誤読しないでほしいのだが、トランプ政権とロシア・エネルギー・ビジネスの関連は昨年の春頃からある。トランプ氏はこの時点で外交政策顧問としてエネルギー業界コンサルタントのカーター・ペイジ氏を採用しているが、彼もコンサル以前には米投資銀行メリルリンチ社員としてロシアでエネルギー分野で働いていた。いずれにせよ、トランプ政権が見え出すころから、ロシア・エネルギー・ビジネスの影が付きまとっていたことは事実である。
この動向が、ロシア・エネルギー・ビジネスに関わる一派の問題に限定されないというのがやっかいな問題になる。
一番の前提は、北極圏のエネルギーがどうやら膨大であることがわかってきていることだ(参考)。二番目には、地球温暖化で北極海航路が開けることだ。
この二点のメリットを一番受けやすいのは、実はこの航路からみてもわかるが日本であり、日本の対露外交に関連している。同時に、この航路は米国にも影響する。さらにこの航路は北方領土に関連しているし、この軍事的な意味合いも影響を受ける。
メリットは同時にデメリットの可能性でもあり、まさにティラーソン氏が基軸となっていたロスネフチとエクソンモービルによる提携は北極海からメキシコ湾までカバーするもので日本のエネルギー戦略に不利になりえるものだった(参考)。
こうした文脈で見ると、あたかも米国が今後北極圏のエネルギーに依存するかのような印象を与えるかもしれないが、実は米国自身がサウジアラビアやロシアに匹敵するエネルギー産出国に変わる(参考)。
では米国は自国のエネルギーで十分なのではないかということになるが、現在世界のグローバル資本は、エネルギーがコモディティであることの基盤の上に、まさに全世界の資本主義活動の上澄みを吸い取ることで成り立っているので、米国としては、こうした動向(北極圏エネルギーの重視)を取るしかないということがある。
話が込み入ってきたが、波及が2つある。1つ目はわかりやすい地球温暖化の話で、いわゆるリベラル派のガーディアン紙(参考)や朝日新聞など(参考)がこうした基調に飛びつきやすい。
問題はむしろ、相対的にこれまで世界の原油を支えてきた中近東なかでもサウジアラビアへの米国関与が弱体することだ。この地域の秩序がさらに崩壊する。これがオバマ政権下ですでに進行していたことだった。
オバマ政権は、実質イランとサウジアラビアの代理戦争であるシリア内戦に無関心だった。関与については、ドローンによる殺戮を強化するくらいだった。映画『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』は英国映画だが、この主題が問われるのはオバマさんでしょう。
いずれにせよ、この動向がさらに進展していくだろうし、むしろ現在のシリア情勢がロシアの関与によってもっとも悲惨な形で「安定化」させられていくように、ロシアによる地域秩序の分担が起こるかもしれない。
そのメルクマールは12日にポーランドに派遣された米軍の動向だろう。NHK「米軍 ポーランドに新たな部隊派遣」(参考)より。
この部隊は、ロシアによるクリミアの併合を受けてポーランドなど東ヨーロッパの軍事的な抑止力を強めようと、アメリカが新たに派遣したおよそ3500人の陸軍の地上部隊で、兵士や装甲車のほか戦車80台余り先週から随時ポーランド軍の基地に到着しています。12日、西部ジャガンにあるポーランドの陸軍基地ではアメリカ軍とポーランド軍双方の兵士が参加して歓迎の式典が開かれ、ポーランド軍のミカ司令官は「今後、合同訓練を通してどんな任務にも対応できる力をつけるとともに、兵士の絆を深めることができると確信している」と述べ、アメリカ軍との活動に期待を示しました。
アメリカ軍地上部隊は、来月、ポーランドからバルト3国やルーマニア、ブルガリアなどにも移動して、合同訓練を行うことになっています。
これとは別にポーランドとバルト諸国には、ことし春までにNATO=北大西洋条約機構が合わせて4000人規模の多国籍部隊を配備する予定で、ロシアに隣接する地域で軍備が増強されることにロシア側がさらに反発を強める可能性もあります。
皮肉なことにオバマ政権の最後に実現したのだが、起点は約3年前になろうとする2014年2月のクリミア危機にあった。対応に3年かかった。
当然ながら、これはロシアを大きく刺激することになるが、実質的には、ロシアの暴走というよりNATO強化による西側の暴走(特に民兵組織)の抑止になるだろう。
今回の米軍派遣は、9か月ごとの巡回だとして固定化であるこを修辞的に避けているが、トランプ政権の外交手腕はまずこのあたりで大きな方向性が見えてくるだろう。
恐らくは、とても暗いものになるだろう。
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