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2016.10.04

同日2つの国民投票雑感

 日付的には、10月2日同日、ハンガリーとコロンビアで国民投票があった。国家のあり方を国民に問う投票という点で重要なのは当然だが、ある程度予想されていたこととはいえ、蓋を開けてみると「国民に問う」ということ、それ自体の問題性が浮かび上がってきたように思えた。
 この2つの国民投票については日本でも報道があるが、簡単に触れておくと、ハンガリーの国民投票では、中東や北アフリカなどからの難民をEU加盟国が受け入れるよう所定数割当てされることの是非を問うものだった。投票を起案した右派のオルバン政権としては、簡単に言えばハンガリーはこれ以上、難民を受け入れたくないという国民の意思をEUに示す意図があった。
 結果は、「受け入れ反対」は有効票の98%を超えたものの、投票率としては43%と低く、国民投票を成立させる50%に及ばず、全体としてはハンガリー国民の良識を示す形になった。もともとハンガリーの政局からすれば今回の投票は多分にオルバン政権が国内問題から国民の目をそらそうとする意図が国民に見抜かれていた面もある。それでも相当数のハンガリー国民が難民受け入れ割り当てに忌避感をもっており、政権としてもこの方向を今後も継続していくことは変わらない。
 いずれにしても、事実上の移民排斥になりうることに国民投票を使うというのもどうかとは思うが、ハンガリーという国の成り立ちからすると、民族的な求心性があり、どちらかというと日本に近い面もある。日本で同様な国民投票が実施されたら憂慮すべきことなるかもしれない。
 もう一つの国民投票はコロンビアで行われたもので、反政府ゲリラ組織・コロンビア革命軍(FARC)との和平文書調印について国民の承認を問うものであった。これが締結されれば、52年間にわたって継続した悲惨な内戦に終止符が打たれる。結果は、賛成が49.76%、反対は50.23%。僅差で反対となった。つまり、内戦の和平合意は不成立となった。
 サントス大統領としては9月26日に、米国ケリー国務長官や国連潘基文事務総長らをコロンビアに招待し、和平合意文書署名式典を開催していたほどで、コロンビア国民からの承認はこの時点では既定路線と見ていた。僅差という点では、投票日の天候などの要因もあるが、全体として思いがけないほど数の国民からの反意を受けたのは、アルバロ・ウリベ前大統領の反対意見の効果が大きく、一見、現サントス大統領対ウリベ前大統領という構図にも見える。
 父親をFARCに殺害されたせいもあるが、FARCを和平交渉に追い込むまで弱体化させたのはウリベ前大統領の功績ともいえ、その支持で国民が2分しているなか、現状での妥協を含んだ和平合意を国民投票にかけるのにはまだ無理があった。
 さて、2つの国民投票をぼんやり眺めて、これはどういう事態なのだろうかと、しばし考え、そういえばこういうことを以前はよくブログに書いていたなと思いだし、少し書いてみるかと書いているわけであるが、なんとなくの思いとしては、国民投票というのはどうも現代の民主主義にとっては、けっこうろくでもないものになりつつある、ということだ。
 国民投票で国民の意思を問うというのはよい響きのようだが、英国のEU離脱も、概ねろくでもない結果と言っていいだろう。EU離脱の意義を国民が十分に理解していたとも思えない。ただ、あながち英国を責められないのも、ノルウェーもEU加盟について国民投票をして否決されていた。EUに加盟しているスウェーデンもユーロについては国民投票で否決されている。他方、クロアチアは国民投票でEUに加盟した。
 こうした国民投票の結果がそのままその国民の意思なのかというと、そうには違いないという以外にないが、結果を左右する要因は単純ではないように思えるし、なによりその国家のメディアやナショナルな求心性のありかたに強く依存しているようにも思える。
 同種の国民投票で次に懸念されているのは、イタリアのレンツィ政権の下、12月予定の憲法改正是非を問う国民投票である。狙いは上院権限を縮小しその不信任投票で政権を打倒できないようにすることだ。レンツィ首相はこれに失敗したら辞任するとしているが、それ以上の混乱をもたらすだろう。成功しても五つ星運動のようなポピュリズムの台頭を招くかもしれない。
 国民投票ではないが、現在スペインで政権が成立できない混乱や、米国でトランプ大統領候補に多数の支持があるというのも、国家意思の混乱の結果のように思える。
 国家はどのように良識にかなった国民意思を形成していったらよいのか。と、問いながら、その問いには矛盾がある。良識を国民意思に優先させているからだ。だが、随分と古いというわけでもないが、民主主義2.0として技術革新を反映した直接民主主義がネットの一部で話題になったことがあるが、政治的な意思決定に一人ひとりの思いがより反映されるようになるといった考え方は、実はその志向自体が、現在の国民投票に見られるような混乱を招くだけだろう。
 ではどうするのか? 政治課題を国民層ごとの妥当な利益として可視的に見せればよいだろうか。そうすれば、高齢化する先進国は高齢者中心の国家意思を持つようになるだろう。
 循環論になるが、国民的な良識とは何かを、言論で問い続けるしかないのだろうなという思いには、とりあえずだが、かられる。

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