民主党は給油活動についてマニフェストに明記していただきたい
民主党がめちゃくちゃなことになってきた。そう民主党。自民党ではない。自民党については、小泉元首相が暗に言ってたように、ひとまず下野して立て直すしかないだろう。が、その前に民主党のほうが予想外の速さで壊れてきた。もちろん、「そうじゃないんだ、より現実的になってきたのだ、民主党鳩山代表の祖父鳩山一郎が自民党の初代総裁であったように、看板入れ替えて、新自民党になるのだ」という歴史を踏まえた意見もあるだろう。
どんな話か。難しい話ではない。日本の政局に疎い外国からでもはっきり見えることだ。英国フィナンシャルタイムズ記事「Prospect of power softens DPJ’s US stance」(参照)が明確に指摘していた。なお、同記事は邦訳「民主党、対米姿勢を軟化 政権獲得の可能性を前に」(参照)もあるのでそちらを参照されてもいい。私は私で試訳を添えておく。
In recent years, one of the few points of clarity in the foreign policy platform of Japan’s Democratic party has been opposition to Tokyo’s “unconstitutional” dispatch of naval fuel tankers in support of US warships operating in the Indian Ocean.
近年において、日本民主党の外交政策の枠組みで明瞭だと言えるのはわずかしかないが、その一つが、インド洋上米国軍行動船団支援に海上自衛隊の補給船を派遣するのは「憲法違反」だ、とすることだった。But just weeks before a general election that polls say should see the DPJ win a historic victory over Japan’s long-ruling Liberal Democrats, even this small chink of certainty in the DPJ’s famously vague party platform seems to be fading.
しかし、世論調査によると、民主党が長期政権の自民党に対して歴史的な勝利を収める数週間前になって、曖昧ということで世評の定まる民主党政策のなかで、このごく僅かしかない明瞭な主張が消えてきたようだ。“Continuity is required in diplomacy,” said Yukio Hatoyama, DPJ president, last month when asked about long-promised plans to scrap the eight-year-old refuelling mission by officially pacifist Japan’s Maritime Self-Defence Force. “Suddenly halting it would be a very reckless idea.”
「外交には継続性が求められる。給油活動を突然停止するというのはあまりに無茶な考えかただろう」と民主党代表鳩山由紀夫が言ってのけたのは、8年に渡り公式に海上自衛隊によってなされた給油活動を廃止にするのかと、長年の公約について問われた時だった。
フィナンシャルタイムズの記事はこのあと、民主党も権力が目の前にぶら下がってくれば、安定した追米路線になって米国も多少安心するだろとしてるものの、民主党内にくすぶる異論に危機感を匂わせた話を展開している。
私としては、由起夫坊ちゃんは初代自民党総裁のお孫さんだし、先日の、核持ち込みに日米密約を前提にした上で非核三原則の扱いを日米で再協議すると表明したのと同じように、オフレコ的に党首による地均しくらいはするだろうし、民主党内や協調するはずの社民党などとの摺り合わせの端緒になるだろう、きちんとやってくれよと思っていた。つまり、まだ民主党のオフィシャルな見解ではないだろうと思っていた。
違った。民主党の2009年版政策集から給油法関連はごっそり削られていた。6月までは存在した「補給支援特措法を延長せず、インド洋の海上自衛隊の給油活動は終了」「アフガニスタン国内の和解と抗争停止合意形成を促し、抗争停止後、自衛隊を含む人道復興支援の実施を検討」という文言が、消えた。驚いた。そんな方針転換がいつ民主党内で進んでいたのかまったく知らないでいた。
驚いたことはさらに続く。民主党岡田克也幹事長の発言にはたまげた。ぶったまげたというのがより正確な表現だろう。「岡田氏「何が何でも反対」でない インド洋給油で」(参照)の報道が間違っているのかもしれないのだが。
民主党の岡田克也幹事長は24日の記者会見で、海上自衛隊のインド洋での給油活動に関し「『何が何でも反対』ではない。そもそも民主党は国会承認さえ入れば賛成するという考え方だった」と述べ、衆院選で政権を獲得した場合、活動の根拠の新テロ対策特別措置法延長に含みを残した。同法の期限切れは来年1月。
小沢一郎代表代行が代表当時に給油活動を「憲法違反」と断じたことについては「党としての正式な議論ではない」と述べた。
「国会承認さえ入れば賛成するという考え方」というのは、前回についてはそうかもしれないなと留保してもよいが、フィナンシャルタイムズ記事が指摘したように、わずかに明瞭な外交政策であった、給油活動を憲法違反とする、というのは、小沢一郎代表代行が代表当時に述べた私見に過ぎないと強弁するのは呆れた。
そんな話がありますか。2007年のいわゆる「ねじれ国会」で、一時的ではあったが給油動中断にまで追い込んだ民主党は野党だったからなのか。政局のためならなんでもするというだけのことだったのか。給油法の問題で、衆院の三分の二という強権を使うことを恐れた安倍元首相と福田元首相を追い詰めて消したのは民主党のこの「給油法は違憲である」政策ではなかったか。あるいは、今度はその主張を堅持した小沢元代表を追い詰めて消すということなんだろうか。
小沢元代表がまさに代表であったときの「今こそ国際安全保障の原則確立を」(参照)を顧みてみよう。彼は給油活動つまり後方支援を兵站線と見ている。
言うまでもなく、日本国憲法第9条は国権の発動たる武力の行使を禁じています。国際紛争を解決する手段として、自衛権の発動、つまり武力の行使は許されないということです。したがって我々は、自衛権の行使(武力の行使)は我が国が直接攻撃を受けた場合、あるいは我が国周辺の事態で放置すれば日本が攻撃を受ける恐れがあるという場合に限定される、と解釈しています。
しかし、一方において日本国憲法は、世界の平和を希求し、国際社会で名誉ある地位を占めたいと、平和原則を高らかに謳っています。そのためには、国連を中心とした平和活動に積極的に参加しなければなりません。それが憲法の理念に適うものだ、と私は考えています。
ところが、自民党政府(内閣法制局)は今も、国連の活動も日本の集団的自衛権の行使に当たると解釈し、したがって国連憲章第7章第42条に基づく武力の行使(PKO、国連の認める多国籍軍等を含む)に参加することは憲法第9条に違反する、という解釈を続けています。では、それならなぜ、アフガンで「不朽の自由作戦」を主導する米軍を自衛隊が支援できるのでしょうか?集団的自衛権の行使を、ほぼ無制限に認めない限り、日本が支援できるはずがないのです。
湾岸戦争時の内閣法制局の憲法解釈は、国連活動の後方支援であっても、武力の行使と一体のものだ、だから、それに参加することは憲法第9条に抵触する、という論理でした。
後方支援すなわち兵站線こそ、戦争の行方を決する最大の要素であり、その意味で後方支援は武力の行使と一体だというのは、正しい認識です。しかしそれなら、いま、国連活動でもない米軍等の活動に対して補給すなわち後方支援をやっていることについて、内閣法制局はどんな詭弁を弄しているのか。アフガンについても、イラクについても同様です。後方支援は武力の行使ではない、戦争するわけではないから問題はない、と自民党政府は言う。正に、子どもにも通用しない詭弁を弄して、現実に海外派兵を行っているのです。こんないい加減な国が他にあるでしょうか。
小沢を代表から引きずり下ろして、「こんないい加減な」民主党に成り下がったということなのだろう。
私は民主党が変わっていってもよいと思う。小沢が長年保持してきた憲法理念を放り出して、自民党のような政党のようになってもかまわないと思う。そういうものなら、そういうものだと判断できるからよい。子供だましのような変節だけはやめて、この問題について、どのような見解でもいいから、きちんとマニフェストに記載していただきたい。
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コメント
瑣末な点で恐縮ですが…鳩山由紀夫の父は、鳩山一郎の息子である鳩山威一郎です。
つまり、鳩山・民主党代表は、鳩山一郎の孫に当たります(息子ではありません)。
投稿: das licht | 2009.07.25 16:34
民主党のこの場に及んでの言動としては本当に驚きです。うっかり発言でもないようですね。マニフェストにきちんと明記をお願いしたいのは私も同じです。
前党首(小沢)の発言は、党意ではないなどとよく言えるものです。イデオロギー的に問わなくても、岡田さん個人の問題としても、党員の一員としての発言でしょうから呆れます。きっと膿がたまっているのでしょうけど、その膿をこんな形で国民に晒すのは愚かな感じもします。
ここが(極東ブログ)が多数の他所のブログや今の多くのメディアと違うのは、注目すべき焦点に絞って書いてあることです。私などは下衆の考え的に勘ぐって、岡田さんがこれを言った意図は何?みたいな部分に興味が行ってしまうのですが、選挙前に馬鹿騒ぎもあったものではありませんし。仰るとおり、マニフェストできちんと国民に表明すべきが最大のポイントだと思います。
投稿: godmother | 2009.07.25 17:07
das lichtさん、ご指摘ありがとうございます。恥ずかしいミスでした。訂正しました。
投稿: finalvent | 2009.07.25 17:12
だから言わんこっちゃ無い。民主党の民度は、所詮その程度なのよ。自民も十分すぎるほどクソだけど、民主はもっと酷いって、私言ったじゃない。
何を今さらとしか言いようが無いよ。
弁当翁さんは「小沢さんが代表をやるなら」ってことで民主党に対して思い入れのありそうな時期もあったでしょうけど、だったら圧力があろうが事件があろうが小沢さんが頭張ってりゃ良かったものを、「わざわざ降ろして挙げ句にコレ」ってことは、小沢さんが事件も何も無しにそのまま代表に収まってたところで「結局同じ道を進んだんじゃないの?」なのよ。所詮。
それが「組織の在り方・体質」ってもんでしょに。
ところで。弁当翁さんは去年の今頃から今年の春先あたりまで「自民は駄目で馬鹿でクソで…」…とまでは言ってないにせよそれに近い?ことは散々述べてましたけど、今になってこの変節は何なの? って感じ。
私は、言うてましたやん。ずっと同じことを。自民も民主もクソには違いないけど自民が頑張って立ち直る芳香性の方がナンボかマシ、って。そんで、2009年はうんこ味のカレーとカレー味のうんこを比べるような真似はしない、って。
だからもう、私個人としては自民が勝とうが民主が勝とうが知ったこっちゃ無いですけど。
弁当翁さんの言動の右往左往ぶりと民主党の変節ぶりは、どこが違うん? としか言いようが無いですよ。それで民主党が信用できないなら、弁当翁さんの言動も同程度かより以上に、信用できんのと違いますか?
せいぜい頑張れ金魚のフン、としか言いようがありませんわい。文章の巧拙や不注意発言なんか問題じゃないんですよ。考え方の根本が拙すぎる。それじゃ駄目ですよ。>弁当翁さん
投稿: 野ぐそ | 2009.07.25 23:55
政局次第で白黒逆転するのは政治の常だし、外国だってこの手の変節は普通にある。それなのに何故由起夫民主党がここまで問題にされるのかというと、政治の原則を買うのは一番高くつくものだから。
それをあっさり変節するもんだから、身持ちの堅い(とは言え組合と田中派の残党と鳩山家の資金に目がくらんだ一派だし)子女がいきなり売春する驚きというより、ストリートガールが良家の子女を騙ってたのか、という呆れだったりして *-P
投稿: himorogi | 2009.07.26 00:02
商売人ってのは、とことん落ちぶれたらパンパン(死語)やってでも立ち直ろうとするんですよね。元々かどうか知らんけど、そういう性質を持ってる(若しくは染まる)人種なんですよ。諦めないにも程があると言うか。
それだけは駄目、って言えるかどうか。そこらへんが良家とアレな家の境目かと思いますけど、民主党は「いいじゃん別に」って言っちゃう側の家なんですよね。知らずに迷い込んだとして、「こりゃヤバい」で逃げる子なのか、「金になるからいいじゃん」で居残る子なのか、「金になるから」ってことで、むしろ寄りつく側なのか。
一般人の、一般の目で見た場合に、どういう家の子が許されて、どういう家の子が駄目なのか。そこらへんの判断基準は各ご家庭ともっしっかりしてらっしゃるものと普通は思いますけど、政党単位等で話が大きくなっちゃうと、なぜだかそのへんが見えなくなっちゃうんですよね。不思議なことに。
小さな嘘や小さな悪事は直ぐにバレるけど、大きな嘘や大きな悪事になるとバレにくい、ってことなのかも。
世界に目を向けるなどして視点を大きく持つと、日本国内のことは「小さなこと」に見える傾向があるでしょ。そうなったとき初めて? 日本国内のことに関して「お前、その家の子は駄目やろう?」って言えるというか。
民主党がやたらと支持を伸ばして強勢な背景には、目先の判断で精いっぱいって層が、昔に比して?相当以上に増えているって、いい証左なんですよ。
投稿: 野ぐそ | 2009.07.26 10:04
>子供だましのような変節だけはやめて、この問題について、どのような見解でもいいから、きちんとマニフェストに記載していただきたい。
という話ですけれど、
「インド洋上で給油活動を継続して米軍を支援し続けます」
って開き直ることしかできないのではないでしょうか。
後期高齢者医療制度だって、共産党がどれほどガタガタしても見直しなんかしないだろうし。
代表を退いた小沢さんを、選挙指導の中心にするために党執行部に返り咲かせるという時点でダメですよ、鳩山民主党は。
総選挙が終わって、3ヶ月もしたら、麻生自民党総理総裁、河村官房長官、細田自民党幹事長(加えて大島国対委員長)がどれほど責任感に満ちていて、どれほどまともでましだったか、全国民が思い知ると思いますよ。
投稿: enneagram | 2009.07.26 14:27
もう少し書き加えさせてもらうと、たしかに、麻生さんも、河村さんも、細田さんも、大島さんも、天才政治家ではないし、歴代の自民党の政治家たちの中でずば抜けて見識の高い人たちでもないことは間違いないのだろうけれど、職務上の責任感も自制心もある人たちだし、全体の均衡ということを常に考えながら言動には注意を払っているのはわかる人たちでした。
今の民主党にそんな代議士が何人いるのかな?
民主党が政権を獲得して、気に病むようなことといったら、党が分裂しないですむような身の振り方をすることのほかはそういくつも探し当てられないような気がします。
このエントリーの論題は、社民党が民主党に突っかかるだろうから、注目すべきは今後の社民党の態度かもしれませんね。
投稿: enneagram | 2009.07.26 14:39