本物のダイヤモンドと偽物のダイヤモンドの違い
本物のダイヤモンドと偽物のダイヤモンドの違いとはなんだろう。その違いは、一方は本物で他方は偽物といった違いに違いない…と、トートロジー(同義反復)。本物とそっくりな偽物の世界は夢に見る現のような気がする。お前、本物かい? そう問われたら、アリスのように泣き出したくもなる。山形浩生訳「鏡の国のアリス」(参照)より。
「あたし、ほんものだもん!」とアリスは泣き出しました。
「泣いたって、ちっともほんものになれるわけじゃなし。泣くことないだろ」とトゥィードルディー。
「もしあたしがほんものじゃないなら」――アリスは泣きながら半分笑ってました。なんともめちゃくちゃな話だと思って――「泣いたりできないはずでしょう」
本物じゃないなら、泣いたりできないはずでしょ。アリスは言う。そうかもしれない。本物の愛にしか涙はない…ということもないな、そりゃな。
「それがほんものの涙だとでも思ってるんじゃないだろうねえ」とトゥィードルダムが、すごくバカにした調子で口をはさみます。
「ほんものの涙」は原文では"real tears"。英語の語感だと、誠の涙。そこを皮肉にしたいがためにキャロルはアリスを半分笑わせている。と、英文学講義をしたいわけではないが、何の話だっけ? 本物と偽物。本物のダイヤモンドと偽物のダイヤモンド。
違いは…わからない。
鑑定士が識別できない。識別できなければ、本物と偽物の違いはない。
まさか。それがそうでもない。というのがまさに現代の合成ダイヤモンドの世界。とりあえず物凄い識別装置を使うとわかる、ということにはなっている。というか、識別装置の技術だけが本物のダイヤモンドと偽物のダイヤモンドを決める……結果的には。
それでも、偽物には、当然、騙す意図があるのだから、結果としてではなく、偽物としての創造があるはず。そう、ある。最新の合成ダイヤモンド技術だ。
その技術を抑え込んでおけば(内緒にしとけば)、偽物のダイヤモンドは世の中には出てこない…そう話がうまくいくのか。
以前から、私はこの話に関心を持っていたのだが、今週のニューズウィーク(3・23)にけっこう詳しい話"あなたのダイヤ「本物」ですか? 最新技術で誕生した完璧な合成品が宝石市場に価格破壊をもたらす"が載っていた。手際よく現状がまとめられている。
面白いなと思ったのは、現在の技術では、透明な合成ダイヤモンドは、せいぜい2カラットが限界のようだ。ということは、2カラット以上のダイヤモンドを買えば真贋問題は安心…って、そんなものおいそれと買えるわけねー。1カラットですら80万円以上もする。逆に言えば、1カラット以下のダイヤモンドが本物なのかどうかは、真贋がビミョーってことかもしれない。もちろん、合成技術がすでに市場を攪乱していなければ問題ないのだが。そのあたりがどうなのだろうか。
本物と見分けが付きがたい合成ダイヤモンド作成の技術(CVD)は、米国ボストンに本社を置くアポロダイヤモンド社が率先しているのだが、歴史的な経緯をみると、合成ダイヤモンドの技術はソ連下でも研究が進んでいた。こちらはジェメシス社に関連している。こっちの品質はそれほどでもないと言われている。
ちょっと妄想めく。こうした合成技術なのだが、市場から未知な部分で1カラット程度の合成ダイヤモンドをすでに作り出してこそっと流れている、ということはないのだろうか。もちろん、ない、ということになっている。ニューズウィークの記事ではそうした事態はまだだが時間の問題だろうとしている。だといいのだが。
今回このニューズウィークの記事を読んで、以前からそうなんじゃないかと思っていたのだが、ダイヤモンドというのはそれほど稀少価値の高い宝石ではないみたいだ。
「稀少品」のイメージが強いダイヤだが、実は比較的ありふれた宝石だ(一般的、ダイヤより価格の安いサファイアやルビーのほうがずっと珍しい)。ダイヤの高価格と人気を支えているのは、巧妙なマーケティングと大手数社の統制下にある供給システムだ。
なるほどね。というわけで、本物と区別しがたい合成ダイヤモンドが存在すれば、マーケットを攪乱しかねない。でも、合成ダイヤモンドの製造会社もうまみのあるマーケットを破壊したいわけでもない…そりゃそうだろうね。
もしかすると、本物と偽物を決めるのはマーケットの非マーケット的な支配力なのかもしれない。それって、他でもいえそうだが。
合成ダイヤモンドの話で言えば、いずれカネの関わることでもあるので、数年以内に奇怪な事件でも起きるのではないかなと思う。
個人的には、1カラット程度の合成ダイヤモンドが廉価になるのも悪くない。昔、祖父がこんな話をしてくれた。昔の人の宝だと箱を開けたら、なかに入っていたのがガラスだった、と。昔はギヤマンといって貴重品だったのだけど、ガラスじゃ価値がない、と。ふーんと子供ながらに私は思った。でも、ガラスだって高価なものになる。私は切り子が好きだ。エミール・ガレの手にかかれば芸術にもなった。
| 固定リンク
「雑記」カテゴリの記事
- ただ恋があるだけかもしれない(2018.07.30)
- 死刑をなくすということ(2018.07.08)
- 『ごんぎつね』が嫌い(2018.07.03)
- あまのじゃく(2018.03.22)
- プルーム・テックを吸ってみた その5(2018.02.11)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
念のためということで。
CVD(Chemical Vapor Deposition)の日本語訳は「化学気相成長法」で、人造ダイヤの製造以外の分野でも広く使われています。同じ材料のガスを使ってダイヤを作ったり、非晶質のI-carbonを作ったりと色々できます。I-carbonはCDの表面をコートするとかに使われていますね。
CDVを最もよく使用しているのは半導体デバイスの製造工程で、シリコン基盤の表面に各種材料の薄膜を成長させるといった工程の多くがCVDを使ってます。
投稿: 北斗柄 | 2005.03.20 08:55
"Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic."
1カラット以下にしか縁なき衆生としては
「見た目」「値段」に本物と違いがないならば
それは同じもの、でありますねえ。いろいろな意味で。
投稿: (anonymous) | 2005.03.20 10:51
上の方の意見に同意であります。
東大総合研究博物館で見た「真贋のはざま」という展示を思い出しました。
http://www.um.u-tokyo.ac.jp/publish_db/2001Hazama/
そもそも,合成ダイヤモンドの流通をコントロールできるほどの市場支配力があるなら,本物のダイヤモンドの流通をもコントロールできるのではないか,いや現にコントロールしているんだと思います。
そうすると,まあ合成ダイヤモンドがどうこうという話でも無いような気もしてきますが。
投稿: (anonymous) | 2005.03.20 12:44
もうだいぶ前になりますが、NYの自然博物館でダイヤモンド展を見ました。ネックレス、ブレスレット、などの装身具から王冠まで、宝石類には興味もないし縁もない私ですが、本当に美しいと思いました。今までに発見されたダイヤの原石では世界で4番目に大きいと言う890カラットのrough diamond。世界で3番目に大きい308カラットの cut stone、リチャード・バートンがエリザベス・テーラーに贈ったと言うダイヤの指輪(ああ、大きな家一軒買える金額だと思ったのを思い出します。)とか見ました。勿論本物でしょうが・・・。ダイヤが偽物でも本物でも、かまいませんが、音楽やアートが偽ものなのは許せませんね。おっと、何かずれてるコメントになりました。失礼。
投稿: カズ姫 | 2005.03.20 13:10
ダイヤモンドの、半導体材料としての視点も加味されることを期待したが、ちょっと期待外れだった。
投稿: 路傍の石 | 2005.03.20 14:35
ダイヤモンドの価格統制といったらイスラエルのデビアス社が有名でしたね。一時期はシンジケートをつくり世界のダイヤの90%を支配していたとも言われますが、アメリカで独占禁止法違反の判決をうけたり、シベリアにダイヤモンド鉱山を持つロシアがデビアスを無視し始めたり、カナダのアシュトン鉱業がアルバータ州でダイヤモンド鉱脈を見つけたりしているので、最近ではだいぶ市場支配に翳りが出ているようです。
ここら辺周りは調べると結構怪しい話がごろごろ出てくるのですが、今回の記事で全く触れられていないのが、ちょっと残念です。(やばいから?)
投稿: エフ | 2005.03.20 15:59
デビアス社の概略
http://www.nihongo.com/diamond/kihon/diamdebe.htm
とか、結構参考になるのではないかな、と。
カナダの鉱脈は、デビアスが買収かけてますね。
投稿: 通りすがり | 2005.03.20 17:02
デビアスといえば給料3ヶ月分でしたっけ。一般庶民が買えるダイヤモンドなんてのは将来価値が上がることはまずないみたいですね。
投稿: スープ | 2005.03.20 18:25
偽物のダイヤモンドって本物よりよく光ます。
透明度も「ものすごく」高い。
だから、誰でも買えそうな大きさで、プラチナなんかで加工されていたりすると、得した気分で私は信じてしまいそう。(ナハ~)
>ダイヤモンドというのはそれほど稀少価値の高い宝石ではないみたいだ
色つきダイヤは希少価値あり、と私は思う。あまり出回ってないのがその理由です。値段はこちらの方が安いし、白いダイヤのどこがキレイ?と思ってしまう~。
投稿: むぎ | 2005.03.20 20:06
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4150501130/qid=1111321304/sr=1-4/ref=sr_1_10_4/249-0975984-7968312
少し古い本ですが、内幕をばらしたネタとしては一番詳しいと思います。
また確かゴルゴ13(W、にもこれに関係したネタがあったように記憶していますが。
投稿: F.Nakajima | 2005.03.20 21:25
合成の大粒のダイヤは日本が先頭を切っています。
http://www.sumitool.com/products2/sumicry-r8.pdf
宝石としての需要に配慮して(それこそ暗殺されるかもしれないんで)
工業用途の色つきダイヤとして限定して売っていますが、一部載っているように
当然綺麗な透明ダイヤも作ることができて、これが余りにも完璧で
現実は人工ダイヤの良いものに並ぶだけの天然ダイヤはない
というのが真実です。というわけで、ダイヤの指輪をせがまれても
「そんなの単なる炭素じゃないか~やめとこうね」とかわしましょう(笑)
投稿: ダイヤモニア | 2005.03.23 15:35
そうそう。
工業用(主に研削加工用)の合成ダイヤはすでに大量に使われているはずですが、それもデビアスやらとの関係で迂闊に商売広げることはできないんだそうですよ(工業用として用途を広げることさえも)。
また、ダイヤに限らず一定以下の大きさの宝石なんて原価はただみたいなもんらしいですね。
まあその値段でも買う人がいるんだから別にいいんですが。
投稿: yuno | 2005.03.23 23:11
まだアメリカだヨーロッパだ日本だでごそごそやってるうちはいいですが、ここに市場の常識やマナーが通用しない中国が絡んでくると、一気にダイヤの価値を落としてくれそうな感じですねぇ。
投稿: style_blue | 2005.03.25 15:04