特集『総予測2025』の本稿では、著名投資家の井村俊哉氏とアクティビストのファンド代表の松橋理氏の2人が、2025年の株主必見のテーマについて激論を交わす対談後編を掲載する。23年の東証PBR改革以降に注目度がさらに高まっている賃貸等不動産の売却の是非に加え、25年に期待するガバナンス改革について聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)
2025年の株主必見テーマ
賃貸等不動産の売却の是非
井村 日本企業においても資本効率の改善の機運が高まっています。松橋さんにお聞きしたいのは、コア事業と関係の薄い賃貸等不動産を売却すべきかどうかについてです。
原則としては株主資本コストの観点から売却すべきだと思いますが、例外なく売れというのは少し乱暴な気もします。例えば、本業のキャッシュフロー(CF)が不安定な場合、コア事業を含めた業績を安定させるために賃貸等不動産を保有するという企業側の考えにも、一定の合理性があるように思えるからです。
松橋さんが代表を務めるナナホシマネジメントは、集中投資先のわかもと製薬に対して、賃貸等不動産を公正な価格で譲渡することを求めています。一方、医薬部門の研究開発投資は一般的にコストが膨らみやすく、利益が変動しやすいです。わかもと製薬も同様の傾向があると思います。
安定的な賃貸収入によって全社業績が平準化し、株主資本コストの低下が見込めるとすれば、不動産を売却せよと主張する根拠は弱くなりませんか。
松橋 ケース・バイ・ケースだと思いますが、やはり株主資本コストの観点から、賃貸等不動産の保有は適切ではないと考えています。
まず、理論的な観点から言えば、全社業績が平準化する程度に賃貸収入が十分に大きいことが前提ですが、賃貸収入によって全体の利益がかさ上げされる点に留意すべきだと思います。
賃貸等不動産の購入による賃貸収入からの利益は、1年目に増えた後、2年目以降はおおむね同程度の利益水準で推移するとします。そうすると、賃貸収入によって全体の利益が増える一方、本業による利益成長の寄与が小さくなり、会社全体の利益成長率が下がるので、株主価値が下がる要因になります。
また、賃貸等不動産を保有し続けることによって株主資本コストが低下する効果も、現実的にはなかなか確認できないはずです。
井村 しかし、企業側の主張としては、不動産の賃貸収入は安定しているので、仮に本業が一時的に不振に陥ったとしても、バッファーとして機能すると。
業績が安定すれば、おそらく株価のボラティリティ(変動の大きさ)も抑制される。つまりベータ(市場全体の変動に対して個別銘柄がどの程度敏感に変動するかを示す数値)が小さくなるので、賃貸等不動産を全く保有していない場合と比較すれば、株主資本コストが低下すると考えられませんか。
賃貸等不動産の売却の是非について、井村氏が「とても明快だ」とうなずくに至った、松橋氏の判断軸とは。
また、井村氏と松橋氏には、地方銀行を巡る意外な共通点もあった。次ページで、両者が思いを同じくする上場地銀を中心とする課題や、25年に日本企業に期待するガバナンス改革について議論してもらった。