朝日新聞の「ファクトチェック」その2
- 2016/12/11
- 11:20
党首討論、発言は正確? 安倍首相VS.蓮舫代表を検証:朝日新聞デジタル
1か月ほど前の記事に続く朝日新聞による「ファクトチェック」記事の第二弾。前回記事を検証した時には期待感を抱かせる一方多くの面で不満もあったが、今回の記事は劇的に改善されていると言っていいと思う。
まず前回私は「誰でも抱く感想」として野党側の発言もチェックすべきと書いたが、今回の記事はしっかりと党首討論における安倍首相・蓮舫代表双方の発言をチェックしており、はっきりと中立性を意識した作りになっている。おまけに安倍首相側は2つの発言の評価が「もっと説明が必要」と「正しい」なのに対し、蓮舫代表は2つとも「間違い」。むしろわざとらしさを感じないでもないが、変に正誤を五分五分に調整してバランスを取ろうなどと思わなかったのは良い。
また前回は程度や捉え方の問題、個人の内心の話など反証不可能な命題に正誤を下そうとする「ファクトチェック」にふさわしくない検証が目立ったが、この点も今回の記事では概ねクリアされあくまで発言そのものの事実関係に焦点が当てられていると思う。
とはいえ細かい点では色々補足したいこともある。以下前回と同じく、個々の検証内容について「ファクトチェック・チェック」をしてみよう。
首相「100万人の雇用作った」
記事では政権発足時の2012年と、2015年の厚労省統計を比較(年平均での比較なので2016年の結果はまだ出てない)。就業者はこの間106万人増えている。ただし、雇用形態別では正規雇用が減り非正規が増えたことから「重要な事実が含まれていない」として「もっと説明が必要です」との評価を下している。
政治家の責任としては確かに「説明が必要」なことかもしれないが、ファクトチェックという視点からすれば別に間違ったことを言ったわけではないので指摘は蛇足に感じる。例えばの話、何か統計のからくりで数字上就業者に含まれるが実態は働いてないし給料ももらってない人が多数を占めるとかそのくらい根本的なことだったら「説明が必要」と言っていいだろうが、正規非正規の話は「雇用を作った」の真偽を揺るがすほどのものか疑問。
あと記事では正規雇用の数を「3340万人から3313万人に27万人減った」と書いているが、これは間違いだろう。厚労省データ(表10)を見ると実際は2015年は3304万人なのでもっと減っている。
首相「現役世代の生活保護9万世帯減った」
これも厚労省統計から、生活保護を受けた高齢者以外の世帯は2012年12月(政権発足の月)から今年9月(最新)にかけて9万310世帯減ったとして「正しいです」との評価。
首相は「現役世代」とはっきり限定しているのでこれでいいと思うが、記事では高齢者を含む全世帯の統計では増加していると合わせて指摘。前項の雇用の話で「もっと説明が必要です」としたのとの違いは不明。
蓮舫氏「山口代表がキューバのカジノ視察」
公明党の山口代表がキューバのカジノを視察した時とする発言を引用した蓮舫氏だが、キューバではなくパナマだったということで「間違いです」の判定。パナマの視察についてキューバで取材に答えた内容だという。キューバのカジノは既に閉鎖されて今は無く、山口氏本人も後に反論している。
比較的些末な単純ミスの範疇だと思うが、むしろ山口氏の「観光振興の切り札になるとは必ずしも言えない」という発言を、引用した蓮舫氏が「観光振興の切り札とはならない」と微妙に変化させていることの方が気になる。
蓮舫氏「有効求人倍率向上は東京一極集中で地方に仕事無いのでは」
2012年と2015年の年平均を比較すると全都道府県で有効求人倍率は増えており、また地域別の就業者数は東北を除き横ばいか増加ということで「間違いです」。東京一極集中という問題はそれはそれであるのだろうが、雇用統計にそれが表れているとは言いがたいようだ。首相もその場で反論しているが、蓮舫氏側が論拠を示すなどの再反論は無かった模様。
最後に
前回の記事に不満を述べていた人は私だけではないので自分の手柄だと言うわけではないが、問題点が解消されてかなりちゃんとした「ファクトチェック」になっていると思う。引き続き与野党の発言を客観的に検証してもらいたい。
ちなみに蓮舫氏の党首討論での発言の誤りについては産経新聞も記事にしている。産経の場合客観的なファクトチェックというよりは蓮舫氏に対する批判一色の(いかにも産経的な)論調だが、朝日も述べた「東京一極集中」の件のほか、首相の「強行採決をしようと考えたことはない」という発言を「強行採決をしたことがない」と言い換えたことも指摘している。この発言については朝日の前回のファクトチェックでもあくまで「内心の話」と断った上での反論になっていたので、産経はそれを意識したのかもしれない。
朝日はこのままファクトチェックをシリーズ化していきそうな気配が出てきたが、他紙がこれに続くことがあるのかも注目だ。
1か月ほど前の記事に続く朝日新聞による「ファクトチェック」記事の第二弾。前回記事を検証した時には期待感を抱かせる一方多くの面で不満もあったが、今回の記事は劇的に改善されていると言っていいと思う。
まず前回私は「誰でも抱く感想」として野党側の発言もチェックすべきと書いたが、今回の記事はしっかりと党首討論における安倍首相・蓮舫代表双方の発言をチェックしており、はっきりと中立性を意識した作りになっている。おまけに安倍首相側は2つの発言の評価が「もっと説明が必要」と「正しい」なのに対し、蓮舫代表は2つとも「間違い」。むしろわざとらしさを感じないでもないが、変に正誤を五分五分に調整してバランスを取ろうなどと思わなかったのは良い。
また前回は程度や捉え方の問題、個人の内心の話など反証不可能な命題に正誤を下そうとする「ファクトチェック」にふさわしくない検証が目立ったが、この点も今回の記事では概ねクリアされあくまで発言そのものの事実関係に焦点が当てられていると思う。
とはいえ細かい点では色々補足したいこともある。以下前回と同じく、個々の検証内容について「ファクトチェック・チェック」をしてみよう。
首相「100万人の雇用作った」
記事では政権発足時の2012年と、2015年の厚労省統計を比較(年平均での比較なので2016年の結果はまだ出てない)。就業者はこの間106万人増えている。ただし、雇用形態別では正規雇用が減り非正規が増えたことから「重要な事実が含まれていない」として「もっと説明が必要です」との評価を下している。
政治家の責任としては確かに「説明が必要」なことかもしれないが、ファクトチェックという視点からすれば別に間違ったことを言ったわけではないので指摘は蛇足に感じる。例えばの話、何か統計のからくりで数字上就業者に含まれるが実態は働いてないし給料ももらってない人が多数を占めるとかそのくらい根本的なことだったら「説明が必要」と言っていいだろうが、正規非正規の話は「雇用を作った」の真偽を揺るがすほどのものか疑問。
あと記事では正規雇用の数を「3340万人から3313万人に27万人減った」と書いているが、これは間違いだろう。厚労省データ(表10)を見ると実際は2015年は3304万人なのでもっと減っている。
首相「現役世代の生活保護9万世帯減った」
これも厚労省統計から、生活保護を受けた高齢者以外の世帯は2012年12月(政権発足の月)から今年9月(最新)にかけて9万310世帯減ったとして「正しいです」との評価。
首相は「現役世代」とはっきり限定しているのでこれでいいと思うが、記事では高齢者を含む全世帯の統計では増加していると合わせて指摘。前項の雇用の話で「もっと説明が必要です」としたのとの違いは不明。
蓮舫氏「山口代表がキューバのカジノ視察」
公明党の山口代表がキューバのカジノを視察した時とする発言を引用した蓮舫氏だが、キューバではなくパナマだったということで「間違いです」の判定。パナマの視察についてキューバで取材に答えた内容だという。キューバのカジノは既に閉鎖されて今は無く、山口氏本人も後に反論している。
比較的些末な単純ミスの範疇だと思うが、むしろ山口氏の「観光振興の切り札になるとは必ずしも言えない」という発言を、引用した蓮舫氏が「観光振興の切り札とはならない」と微妙に変化させていることの方が気になる。
蓮舫氏「有効求人倍率向上は東京一極集中で地方に仕事無いのでは」
2012年と2015年の年平均を比較すると全都道府県で有効求人倍率は増えており、また地域別の就業者数は東北を除き横ばいか増加ということで「間違いです」。東京一極集中という問題はそれはそれであるのだろうが、雇用統計にそれが表れているとは言いがたいようだ。首相もその場で反論しているが、蓮舫氏側が論拠を示すなどの再反論は無かった模様。
最後に
前回の記事に不満を述べていた人は私だけではないので自分の手柄だと言うわけではないが、問題点が解消されてかなりちゃんとした「ファクトチェック」になっていると思う。引き続き与野党の発言を客観的に検証してもらいたい。
ちなみに蓮舫氏の党首討論での発言の誤りについては産経新聞も記事にしている。産経の場合客観的なファクトチェックというよりは蓮舫氏に対する批判一色の(いかにも産経的な)論調だが、朝日も述べた「東京一極集中」の件のほか、首相の「強行採決をしようと考えたことはない」という発言を「強行採決をしたことがない」と言い換えたことも指摘している。この発言については朝日の前回のファクトチェックでもあくまで「内心の話」と断った上での反論になっていたので、産経はそれを意識したのかもしれない。
朝日はこのままファクトチェックをシリーズ化していきそうな気配が出てきたが、他紙がこれに続くことがあるのかも注目だ。