新製品レビュー
カシオEXILIM EX-10
独自機能を盛り込んだフラッグシップ。画質にも注目
Reported by 北村智史(2013/12/25 08:00)
EX-10は、11月29日に発売されたカシオEXILIMシリーズのフラッグシップモデル。ソリッドなデザインのメタルボディに、F1.8-2.5の明るさを持つ光学4倍ズームレンズ、1/1.7型裏面照射型CMOSセンサーを搭載。レンズ基部にファンクションリングを備えた操作系に加えて、「プレミアムブラケティング」といった新機能も備えている。付属品として4枚羽根の自動開閉キャップが同梱されている。原稿執筆時点での実勢価格は7万9,800円程度だ。
大柄だがホールド感は良好
本機はコンパクトカメラとしてはかなり重い。重さはバッテリーとメモリーカードを含めて384g。軽量級のミラーレスカメラと大差はない。ボディの前後カバーはマグネシウム合金で、濃紺のサテン触感塗装が施されている。厚さ2mmのアルミ合金製のトップパネルは、宝飾品のような光沢を放つ高光沢アルマイト処理で仕上げられている。右手側前面には棒状の突起が設けられていて、これが指がかりとなる。見た目にはやや違和感もあるが、ホールド感は良好だ。ボディ全体の剛性も高く、フラッグシップモデルらしい握りごこちといえる。
撮像素子は、高画質タイプのコンパクトカメラで定番的存在となっている1/1.7型の裏面照射型CMOSセンサー。有効画素数は1,210万画素だ。画像処理を受け持つのは「EXILIMエンジンHS Ver.3 ADVANCE」。ISO感度の設定範囲は、ISO80からISO12800までとなっている。センサーシフト式の手ブレ補正機構を装備しており、シフト、ロールを含む5軸補正としている。補正効果はCIPA基準で2.5段分。
レンズは35mm判換算28-112mm相当F1.8-2.5の光学4倍ズーム。倍率としては少々物足りないが、開放F値の明るさは魅力的だ。一般的なズームレンズ付きコンパクトカメラの望遠端はF5.6程度で、ちょっと暗くなると途端にブレが心配になってしまう。それがF2.5なら2段ちょっと速いシャッターが切れる。光線状態が悪いシーンでこの差はとても大きい。日陰や夕方、屋内などのシーンでも気軽に望遠で撮れる強みは見逃せない。マクロモードに切り替えることなく、広角端で1cm、望遠端でも20cmまで寄れるところも便利だ。
記録メディアは49.9MBの内蔵メモリーとSDXC/SDHC/SDメモリーカード。実写での平均ファイルサイズはJPEG(1,200万画素記録、高精細-Fモード)で約4.1MB。RAW(DNG形式)は非圧縮で約18.8MBだった。
電源は、容量1,800mAhのリチウムイオン充電池NP-130A。フル充電状態での撮影可能枚数はCIPA基準で約455枚。実写では、ストロボ発光なし、静止画のみの条件で560枚ほど撮れた。
各種ダイヤルと第2のシャッターボタン
レンズ基部に、機能のカスタマイズが可能な「ファンクションリング」を装備。軽い力で回せるわりに、しっとりめのクリック感がなかなかいい。背面には十字キーを兼ねた「コントロールダイヤル」を備えており、この2つの部材を多用する操作系となっている。
ファンクションリングは、絞り優先オート時は「絞り」、シャッター優先オート時は「シャッタースピード」を設定できるが、それ以外に、「ステップズーム」や「EVシフト(露出補正)」「マニュアルフォーカス」「ホワイトバランス」「ISO感度」「メイクアップレベル」を割り当てられる。
一方、コントロールダイヤルには3つの機能が割り当てられる。ダイヤル(ホイール)には、「EVシフト」「ホワイトバランス」「ISO感度」「ISO感度上限」「セルフタイマー」「フォーカス方式」および「オフ(機能割り当てなし)」が選べる。また、上下キー、左右キーには、「連写」「NDフィルター」「ホワイトバランス」「ISO感度」「ISO感度上限」および「オフ」が割り当てられる。例えば、ダイヤルに「EVシフト」、左右キーに「ISO感度」、上下キーに「ホワイトバランス」といったふうに、よく使う機能を割り当てておくと便利だ。押すだけで設定内容が変更されるので、最初のうちは誤操作を起こしやすいが、慣れれば撮影の効率をぐんと上げられる。
おもしろいのは、前面右手側下部にもシャッターボタンを備えているところだろう。通常のシャッターボタンと同様の動作を行なう「標準」のほか、ピント合わせ動作なしでシャッターが切れる「AFレス」、10コマ/秒で最大10枚までの連写が可能となる「連写」、「10秒セルフタイマー」「2秒セルフタイマー」「切」が選べる。
正直いって、最初は何に使うんだろうと思いつつ、「2秒セルフタイマー」に設定していたが、手持ちのときは通常のシャッター動作、三脚に載せたときはブレを防げる2秒セルフタイマーといったふうに、2つのモードを容易に使い分けられて便利だった。シャッターチャンスを重視する撮影の際には「AFレス」を選ぶと、あらかじめ上面のシャッターボタン半押しでピントだけ合わせておいて、フロントシャッターで撮るようにすれば、AF動作によるタイムラグを解消するといった使い方ができる。筆者個人としては、ここにブラケット連写(どういうブラケットをやるかは前もって設定しておく必要があるが)が選べるようにして欲しいと思った。
92万ドットの液晶モニターは3.5型という大きなサイズで、自分撮りにも対応できる上下チルト式。可動範囲は上向き180度、下向き55度。モニターの背後に自立スタンドを内蔵している。自分撮りができるカメラは少なくないが、スタンドまで内蔵しているのはカシオぐらいだと思う。
“2軸ブラケット”や宙玉レンズモードを搭載
新発想の「プレミアムブラケティング」も注目すべき機能だ。簡単にいえば、2つの要素を可変させて9枚の画像を記録する「2軸ブラケティング」である。例えば、「ホワイトバランス×明るさ」であれば、「寒色寄りの明るめ」「中間色の明るめ」「暖色寄りの明るめ」「寒色寄りの中間の明るさ」「中間色の中間の明るさ」「暖色寄りの中間の明るさ」「寒色寄りの暗め」「中間色の暗め」「寒色寄りの暗め」の9パターンを、シャッターボタンを1回押すだけでまとめて撮れる(撮影の順は異なる)。連写スピードは速いし、処理待ちも短いので、撮影時のストレスは少ない。
ブラケットの変化要素は、「フォーカス(ピント位置)」「絞り(被写界深度)」「ホワイトバランス」「明るさ(露出)」「コントラスト」「彩度」「シャッタースピード(動感)」「ISO感度」の8種類で、これらは単独でのブラケット撮影が可能だ。
2軸ブラケットは、要素の変化量を手動で設定できるマニュアルモードが、「フォーカス×絞り」「ホワイトバランス×明るさ」「コントラスト×彩度」「彩度×明るさ」「コントラスト×明るさ」の5種類、カメラまかせとなるオートモードが、「フォーカス×絞り」「ホワイトバランス×明るさ」「コントラスト×彩度」の3種類がある(オートモードには変化要素がひとつだけの「シャッタースピード」もある)。
再生の仕方も専用のモードが用意されている。ブラケット撮影した9コマは、連写したシーケンスとしてひとまとめで表示され、SETボタンを押すことで、それぞれの画像を見ることができるようになっている。最初に表示されるのは中央値の画像で、十字キーでほかの画像を表示できる。このときに、ズームレバーを「W」側に動かしてインデックス表示にすると、連写した9枚が一覧できる。
もちろん、9枚の中から好みの画像だけを残して、ほかは捨ててしまえばいいわけだが、「コントラスト×彩度」などは、撮った9枚を並べるだけで作品にできそうな印象だ(もちろん、はまる被写体に巡り合えないといけないが)。
もうひとつ。アート系作風機能の「アートショット」に、「宙玉(そらたま)」モードが追加されたのもトピックのひとつ。「宙玉」は上原ゼンジ氏が考案したもので、宙に浮かせたガラス玉を使って幻想的な映像を撮る技法。画面中央のガラス玉部分は魚眼レンズで撮ったかのような画面効果が得られ、その周囲はピントがボケて写る。本機では、3タイプのバリエーションが選べるようになっている(ファンクションリングを回すだけで選択できる)。従来からの「HDRアート」や「トイカメラ」「ソフトフォーカス」などを含め、全11種類が内蔵されていて、さまざまな画面効果が楽しめる。
熟成の進むレンズとセンサー。トレンド装備も不足なし
撮ってみて感じたのはレンズの性能のよさ。裏面照射型CMOSセンサーも熟成が進んできたようで、ピクセル等倍で見ても、特有のがさがさした感じがないのがいい。高感度もコンパクトカメラとしては健闘していると思う。前面のシャッターボタンの装備や「プレミアムブラケティング」といった新機能のほか、カシオならではの高速連写やハイスピードムービーも備えているし、スマートフォンやタブレット端末と連携できるWi-Fi機能もある。バッテリーの持ちもいい。ネックになるのは重さと価格だろうが、その部分を気にしないのであれば、楽しめる選択肢だと思う。
実写サンプル
- ・作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- ・縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
・感度
ベース感度はやや低めのISO80で、最高感度はISO12800。常用、拡張といった区分はない。プログラムオートで撮影した関係で、ISO100までは絞り開放、ISO200からISO800までがF2.8、ISO1600がF3.2、ISO3200以上はF4となっている。その関係で四隅の解像、光芒の出方に変化がある。
ISO80からISO400までは比較的クリーンな画面が保たれる。ISO800ではノイズ低減処理の影響で暗部のディテール再現が悪くなってくるが、明るい部分はそれほど悪くない。ISO1600、ISO3200では、ノイズの量よりもディテールのつぶれのほうが目立ち、コントラストの低い輪郭線がぼやけてくる。が、大きな破綻はない印象。小さなサイズのプリントやリサイズしての鑑賞なら使えそうだ。さすがに、ISO6400以上は使用をおすすめしかねる画質となるが、コンパクトカメラとしては、かなり頑張っているのではないかと思う。
・プレミアムブラケティング
この機能では、9コマの2軸ブラケットが可能。ブラケット要素の変化量をカメラまかせにするオートと、自分で調整できるマニュアルがある。作例は、本機での再生時と同じ並びにしたが、撮影順は下段→上段→中段の順に行なわれる。
・アートショット
・作例