コーワPROMINARレンズ リレーレビュー
旅フォト編:旅の思い出を美しく記録する高画質レンズ
風景を見たまま写し止める、超広角の魅力
(2016/1/22 07:00)
3回目を迎える「コーワPROMINARレンズ リレーレビュー」。建築写真、テーブルフォトと続き、今回のテーマは旅フォトです。
クキモトノリコさんが向かったのは瀬戸内海をめぐる倉敷〜鞆の浦。それでは、3本のPROMINARレンズが綴った旅模様を見てみましょう。(編集部)
コーワPROMINARレンズ(マイクロフォーサーズ用)とは……
古いカメラファンなら名前を聞いたことがある「コーワPROMINARレンズ」が、マイクロフォーサーズ用の単焦点MFレンズで復活。往年のPROMINARの流れをくむ興和光学株式会社が設計・製造するだけあり、オールドファンも納得の見た目と描写力が、レンズマニアの間で話題となっている。
ラインナップは、KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8、KOWA PROMINAR 12mm F1.8、KOWA PROMINAR 25mm F1.8の3製品。いずれもブラック、シルバー、グリーンをラインナップする。
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マニュアルフォーカスが「非日常」を演出
旅写真で大切にしたいことは、やはり旅の感動を残し、それを誰かに伝えたいということ。今回、コーワPROMINARレンズを手に向かった先は倉敷。さらに鞆の浦まで足を延ばすことにした。
倉敷と鞆の浦。ご存知のとおりどちらの町も古き良き日本の面影を大切に残す町並みが特徴であり、せわしない日々から逃れ、ゆったりとした時間を過ごすにはもってこいの町。
いまは露出からピント合わせまで、基本カメラに任せて撮ることに慣れた便利な時代。だからこそ、この時計を巻き戻したような町では日常から離れて深呼吸をし、ファインダーを覗いたらじっくりとピントを合わせたい。
マニュアルフォーカスのみという、一見不便そうに見えるこの特徴が、逆にそんな「非日常」を演出してくれた。
倉敷といえば美観地区。35mm判換算で17mm相当の8.5mm F2.8で、特徴である蔵造りの建物をフレームに収めてみたところ、一般的な広角レンズで免れないディストーション(樽型の歪曲収差)が驚くほど排除されている。左右の壁の格子模様が見事にまっすぐ連なり、撮影していて実に気持ちがよい。
少し広めの画角を持つ12mm F1.8は、被写体をしっかり捉えつつ、その場の雰囲気までを写し込むのに最適。通常すばやいピント合わせが求められるスナップ写真だが、あらかじめ撮りたい絵を想定し、ピント合わせまでを含めてカメラを設定した上でタイミングを待つことで、AFがない不便さを回避できる。むしろタイミングを狙って捉えるワクワク感を楽しみたい。
倉敷で有名なコーヒーショップで休憩。12mm F1.8の絞り開放で撮影。天窓から光の差し込む席から、珈琲の深い漆黒を思わせる店内の奥に向けてシャッターを切った。絞り開放だが広角ゆえに店内の雰囲気を残しつつ、とろっとしたボケ味を発揮。また明るい部分に露出を合わせつつも暗い店の奥まで描写することができた。
ちょうど日没頃、三脚を立てて撮影。人物など動く被写体をあえてブラした。F2.8はこのレンズの開放F値だが、建物など動かない被写体は非常に高い解像度となっている。
宿泊したホテルのロビーにあった大きなクリスマスツリー。旅先ではこういったものも撮っておきたくなるが、2階まで届く高さのツリーも、17mm相当の画角を持つレンズならなんなく捉えることができた。広角レンズ利点、見上げることによるパースペクティブで高さを強調しつつ、ここでもディストーションの少なさにより、ツリーの形を歪めることなく自然な形で表現できている。
旅先の宿は記録として撮っておくことが多いが、なかなかきれいに収まらないことが多い。12mm F1.8も8.5mm F2.8と同様、驚くほど歪みがなく心地よい。
町歩きをしていて一番使いやすいのは、35mm判換算にして50mm相当の画角となる25mm F1.8。広すぎず狭すぎない画角は、道端で出会った猫ともちょうどいい距離感を保ちながら撮影することができた。
開放から1段絞っているが、その場の雰囲気を残しつつも背景がうるさくなり過ぎず、ちょうどよいボケ加減になっている。
波間にきらめく光がきれいだったので、レンズを向けた1枚。海面のなめらかな波の表情と、絞り込んだことによる光芒のそのどちらも描写できている。逆光だが、目に付くフレアやゴーストが出ることもなく、かつシャドウ部までしっかりと階調を残している。
旅先での感動を伝えるにふさわしいレンズ
ディストーションを排除することで、見た目に違和感のない広角表現を実現しつつも、広角ならではのパースペクティブも楽しめる大口径の明るいレンズ。標準画角を持ち、見た目の奥行きに近い表現が可能で、かつ被写体にぐっと寄っての撮影ができる明るいレンズ−−これが今回実際に撮影してみての感想である。
旅先でその感動を伝えるべくシャッターを切っても、レンズの特徴や性能に妨げられ、思い通りの表現が叶わぬことも多い。その点、このレンズは見た目に近い表現も、撮りたい被写体をデフォルメして強調することも可能だ。
限られた時間をできるだけ有効に使いたい旅先では、明るいF値を持つレンズに強力な手ブレ補正機能を備えたカメラと組み合わせることで、夜のスナップも格段に撮りやすくしてくれる。
心にとまった風景や被写体にレンズを向けたら、まずは大きく深呼吸をして丁寧にピントリングを回す。そんなゆったりとした旅にはもってこいのレンズである。
制作協力:興和光学株式会社