県立病院医師逮捕/応援の提案応ぜず

http://mytown.asahi.com/fukushima/news.php?k_id=07000000603100004

 県警によると、女性の胎盤をはがし、大量出血が起きた後、手術室に入った作山院長が、容疑者に、ほかの医師に応援を頼むことを提案したという。だが、容疑者が提案に応じず、1人で手術を続けたという。これについて、複数の捜査関係者は「(容疑者が)自分の技術を過信していたことが、医療過誤に影響したのではないか」などと話している。

 一方的な報道なのでなんとも言えないが、今まで報道されてきたことも含めて「応援を呼ぶべき」とか「輸血を待つべき」とは言っても、そんな悠長なことを言っていられなかったのは事故報告書をみても明らかなことです。「技術を過信」という単なる憶測を、一方的に報道することは恣意的なものを感じます。技術を過信もなにも、持てる技術を使って一刻も早く処置を行うしかなかったと考えます。院長が応援を提案し、拒否というけれど、目の前で出血する患者に懸命に処置を続ける産婦人科医に、外科系の医師である自らが、とりあえずすみやかに応援に入るわけでもなく、到着に何時間もかかる応援医師を養成することを提案するのになんの意味があったのでしょうか。

 女性は、子宮に胎盤が癒着する「癒着胎盤」の状態だった。癒着胎盤をはがす際には大量出血するおそれがあるが、容疑者は手術前、女性が癒着胎盤かどうかを、強く疑ってはいなかったという。

 県によると、容疑者は、大野病院ではただ1人の産婦人科医だったが、癒着胎盤の手術経験はなかったという。容疑者は弁護士に「あんなに血が出るとは思わなかった」などと説明しているという。

 いままでの専門的見地からの意見を全く無視するように、またイメージ操作としか思えない歪んだ報道が続いています。癒着胎盤の術前診断はほぼ不可能というのがおおむね産婦人科医の一致した意見であり、「癒着胎盤かどうかを、強く疑ってはいなかった」のはあたりまえです。出血量が予測不可能だったことも分かっています。産婦人科医の発言の一部だけをこうやってとりあげるのは許しがたいことです。
 存在する病気を診断できなかったことが、罪だと思いこんでいるのではないでしょうか。医者なんだから、例え典型的な症状や訴えがなかったとしても、患者の持つすべての病気を診断するのは当たり前だと。それを診断できないのは罪だと。それは神の領域です。専門的知識に照らし合わせて「あれをあの時点で診断できないのは、已むを得ない」と言ってみたところで、「医者がミスを隠蔽し、レベルの低いことを開き直り、身内でかばい合っている」と言われてしまうのです。そういう非現実的な訴えが、結局患者のたらいまわしや防衛医療に繋がっているということになぜ気付かないのでしょうか。単に医者をスケープゴートにすればいいと思っているとしか考えられません。
 福島県や、大野病院のスタンスも許せません。県や病院は本来当事者であるはずなのに、まるで関係のないようなそぶりで、「産婦人科医には適切なアドバイスを行ったのに、突っ走った」というようなイメージに誘導している印象を受けます。無論、これも県や病院の本意は違うところにあって、単に警察・検察や報道がイメージ操作をしているだけかも知れませんので、大野病院の院長や、今回の逮捕のきっかけになったともいわれる「事故調査委員会」メンバーを過剰に糾弾するような行動は慎んでおきます。
 「県・病院は謝罪した」と言います。しかし、「ミスに対して」という意味では、産婦人科医の行為は決して謝罪に値するものとは思いません。臨終の際に「力及びませんで」などと言うことがありますが、これは残念な結果に対する哀悼の意と、もしかしたらもっと妥当な医療があったかも知れないということに対する謝罪であって、「私のミスですごめんなさい」というようなものではないと思います。
 補償を考えたのは、ミスを認めたからというよりは、残念な結果になってしまったことに対する、お見舞いであると思います。県や病院が認めたミスは、事故報告書の中でも、産婦人科医個人の技量というよりは、一人医長を強いた政策や、僻地ですぐに血液を確保できない状況であり、これは医師個人の問題ではありません。そういう意味では、県や病院が謝罪するのは当然です。産婦人科医のミスではなく、政策や体制の責任の不備に対しての謝罪としてですけれど。この一連の「ミス」ということで逮捕者を出すならば、産婦人科医個人よりもむしろ、県や病院のトップだろうという論調があるのは、こうした思いからだと考えます。
 僕のスタンスを再度明らかにしておきます。今回の不当逮捕に対して、本気で医師が怒り、支援する動きが出ていることに対して、理論展開を全く無視し、感情論だけで「人を殺した犯罪者をみんなで擁護するなんて、日本の医者は本当に酷い」という一般人は、そもそも基本的な理解力に欠けると思います。そういう方たちに、インフォームド・コンセント(じゅうぶんな説明の上で納得して診療を受けてもらうこと)をとることは困難と言わざるを得ません。リスクの説明は無視し、あくまで自分の都合のよいことだけしかきいてくれず、良くなること以外は全てミスと考えるような患者さんに対して、僕は医療行為を行う勇気がありません。お断りするしかありません。
 今回の件が起訴されるということになれば、僕の司直への不信は揺るぎないものになります。法治国家とはなんなのでしょうか。決して冗談ではないレベルで、医師をやめることも考えています。医者を目指して頑張っていたころは、社会がここまでおかしなことになるとは思っていなかったのですけれど。

福島県の県立病院の医師起訴についての声明(産科婦人科学会)

http://www.jsog.or.jp/news/html/announce_10MAR2006.html

声   明

福島県の県立病院で平成16年12月に腹式帝王切開術を受けた女性が死亡したことに関し、手術を担当した医師が、平成18年3月10日、業務上過失致死および医師法違反で起訴された件に関して、コメントいたします。

はじめに、本件の手術で亡くなられた方、および遺族の方々に謹んで哀悼の意を表します。

このたび、日本産科婦人科学会の専門医によって行われた医療行為について、個人が刑事責任を問われるに至ったことはきわめて残念であります。
本件は、癒着胎盤という、術前診断がきわめて難しく、治療の難度が最も高い事例であり、高次医療施設においても対応がきわめて困難であります。
また本件は、全国的な産婦人科医不足という現在の医療体制の問題点に深く根ざしており、献身的に、過重な負担に耐えてきた医師個人の責任を追求するにはそぐわない部分があります。

したがって両会の社会的使命により、われわれは本件を座視することはできません。

平成18年3月10日

社団法人 日本産科婦人科学会
理事長 武谷 雄二

社団法人 日本産科婦人科医会
会長 坂元 正一

この声明を読む限り、起訴されてしまったようです。僕はもう、司直への怒りを抑えられません。

帝王切開手術中に死亡、福島県の産婦人科医を起訴

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20060310i313.htm?from=main3

 この事件を巡っては、医師や関係団体が容疑者の逮捕に抗議する動きを見せている。同県内の開業医らで構成する「福島県保険医協会」は3日、「(逃走や証拠隠滅の恐れはなく)逮捕は人権を無視した不当なもの」とする異例の抗議文を県警に送付。日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会なども抗議声明を出している。

 一方、同地検の片岡康夫次席検事は10日、「罪証隠滅の恐れがあり逮捕した。血管が密集しているところを無理にはがした。大量出血は予見できたはずで、予見する義務があった。判断ミスだった」と起訴した理由を説明した。医師法違反罪については「通常の法解釈をした。大量出血しており、異状死にあたる」とした。

 この記事にとりあげられている他、今回逮捕された医師の所属する、福島県立医科大学の産科婦人科医局を含め、様々な団体が抗議声明を出しています。起訴をさせないための署名も行われていましたが、その声は届かず、起訴ということになってしまいました。
 もちろん、無罪を信じますが、これから何年もの公判を経なくてはなりません。
 こうして、多くの医師からみて、少なくとも刑事罰に相当するとは到底思えない真っ当な医療を行った医師が、突然逮捕されて、起訴されてしまったわけです。もう、明日にでも、学会から「現在、検察が要求するレベルでの危険の予見や適切な治療を行える医師がいないため、一切のお産を取り扱わないことを決定しました。今後、国内での出産はほぼ不可能となります」という声明を出すしかないのではないでしょうか。
 もちろん、産婦人科に限った話ではなく。
 もう、僕は、困難な症例に立ち向かう元気がありません。

福島産科医師不当逮捕に対し陳情書を提出するホームページ

http://www006.upp.so-net.ne.jp/drkato/
福島県立医科大学医学部産科学婦人科学教室 教授 佐藤 章 先生の名前で陳情書がつくられています。陳情書自体は前からメールで流れていましたが、サイトができた模様です。