産科婦人科学会の声明

http://www.jsog.or.jp/news/html/announce_24feb2006.htm

お知らせ
過日、福島県の県立病院で平成16年12月に腹式帝王切開術を受けた女性が死亡したことに関し、手術を担当した医師が平成18年2月18日、業務上過失致死および医師法違反の疑いで逮捕されたとの報道がなされました。詳しい事情は不明ですが、報道された内容ならびに関係者の状況説明による限りでは、本件が逮捕拘留の必要があったのか否か理解しがたい部分があります。産婦人科医療体制の整備向上に対し社会的責任を有する両会としては本件の推移を重大な関心をもって見守っていきます。

平成18年2月24日

社団法人日本産科婦人科学会
理事長 武谷雄二
社団法人 日本産婦人科医会
会長  坂元正一

若干及び腰ですが、こういう声明をはっきり出したことは評価されるべきことだと思います。本来なら、福島県立医科大学の医局や、大野病院がまずそういう立場をとるべきだと思うのですが。
http://www.pref.fukushima.jp/kenbyou-oono/owabi.htm

<お詫びについて>

本院の産婦人科医が逮捕されたことにより、患者様にご心配とご迷惑をおかけしましたことについては、深くお詫びを申し上げます。

産婦人科については、当分の間福島県立医科大学病院より応援をいただき、通常どおりの診療を続けさせていただきます。

病院といたしましては、引き続き医療事故の再発防止に向け全力で取り組んでまいります。

病院長

大野病院の、この他人事のような「お詫び」は本当に腹立たしいです。業務上過失致死の容疑はこの際おいておいて、もし本当に、この医師が逮捕された原因が「医師法21条違反」にあるのであれば、個人よりもむしろ病院の責任だと思います。これは、以前も書いた通りです。少なくとも、病院はこの患者さんの死を把握し、事故調査委員会の調査を受け入れたわけですし、病院内規で警察への届け出は院長が行うことになっていたという情報もあります(これに関してはきちんとしたソースがありませんが)。

同業者をかばう

 もちろん、同業者である医者をかばいたいという気持ちがないと言えば嘘になりますが、悪質なものに関しては、かばうよりもむしろ、積極的に法に委ねたいと考えている医師は多いのではないでしょうか。僕らも、別にミスや事故すべてを、医者に都合良く解釈し、隠蔽し、かばいあおうとは思っていません。むしろ、已むを得ないものと、悪質なものが十把一絡げに論じられるのを苦々しく思っているのです。
 例えば、慈恵医大青戸病院の医師逮捕に関しては、多くの医者が、已むを得ないと考えました。これは、前立腺癌の患者に対し、経験のない腹腔鏡手術を、危険が伴う中、無理に行い、その結果死亡させたというものです。この手術については、病院内で承認を得ることが必要とされているのに、その内規に従わずに経験のない医師が執刀したこともあり、刑事責任を問われたのです。これについては、正規の手続きを踏まなかったことや、安全な開腹術に切り替えるチャンスが多くあったのにしなかったということで、刑事罰を科されて然るべきと、多くの医師もとらえたのです。
 今回の産婦人科医の逮捕とは、大きく状況が変わります。まるで青戸事件を彷彿とさせるような「癒着胎盤の執刀経験なし」という報道は、意識的に歪められたものとしか思えません。これはそもそも、非常に希なケースで、誰でも経験しているものではないし、術前診断も難しいものです。前立腺癌のケースのように、いくつか選択枝がある中で、功名心も手伝って新しい方法をとったというものではなく、回避不能な状態で、難しい症例にあたったということなのです。感情的に産婦人科医を責め立てる一般人の中で、その点をきちんと理解している方は、どれくらいいらっしゃるのでしょうか?
 少なくとも、青戸病院の事件に関しては「不当逮捕」を叫ぶ医師というのは、僕の知る限りではいませんでした。そして、今回のケースでは、大多数の医師が「不当逮捕」を叫ぶというのは、医者が同業者を闇雲にかばうということ以上の意味があるのです。
(補足:慈恵医大青戸病院の事件も、構造上の問題や、手術手技とは別に輸血が適切に行われなかったことなど、医師個人の責任とは言い切れない部分もあるという主張があります。報道されてはいない事件の詳細を知ることにより、青戸病院の事件も、単純に医師個人をバッシングはできないという思いに変化しつつあり、前述のような表現は適切ではないかも知れません。ただ、当時の僕の認識が、報道や世論と同様に前述の如くであったことは確かですので、原文は残しておきます。大野病院の事件は、こうした過去の事件まで含めて、冷静にいろいろと考えるきっかけとなっています。)