不適法な二次的著作物の複製は侵害か?

1.「そろそろ同人誌二次創作物の著作権について一言いっておくか」

http://news.livedoor.com/article/detail/5964808/
この記事があまりに酷いので少し言及したくなったので書いてみる。

事実としてはアニメ(『NARUTO』)を基にした同人誌をさらに無断でアップロードしているサイト(『同人探』)があり*1、同人誌の作者がサイトの運営者に「著作権侵害だ」と文句を言っているようだ。


以下、上記ブログからの引用。

はてぶのコメントみてると、今回の二次創作物にも著作権があるようなコメントがありましたが、そもそも二次創作物という言葉は著作権法の言葉ではありません。著作権法が出来たときに、二次創作物の事など考えて作られてはいなかったのです。

元のブログを見るとさすがに訂正してあった*2。以下はこの訂正を見る前のコメント。
意味不明。著作権法に二次的著作物についての規定があるかないのかすら知らないのだろうか。

2条1項11号 二次的著作物 著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう。
第11条 二次的著作物に対するこの法律による保護は、その原著作物の著作者の権利に影響を及ぼさない。
第28条 二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。

もちろんですが裁判によって「セーフ」となる場合もあります。「親告」はしたが、実際に見比べて見ると全然違うと判断された場合です。つまり二次的著作物は、裁判によってアウトとなるまで著作権上アウトにならないため、非常に面倒な物であると昔から言われてます。

「親告罪」の「親告」と「申告」を混同しているのも間違っているが、そもそも刑事と民事の区別を意識しているのか疑問。さらに「裁判によってアウトとなるまで著作権上アウトにならない」も意味不明。「著作物であるか」どうかは最初から決まっており、裁判所がそれを明らかにするだけだ。

が、これは我々の作成した作品です!と中国のように堂々としていて、かつ、裁判によってまだアウトとなって居ない限り、今回の二次的著作物であるエロ漫画NARUTOの著作権は現段階でLINDA Projectにあります。

「裁判によってアウトとなるまで著作権上アウトにならない」と同じ趣旨だろう。同様に誤り。


以上のように、なぜこんなに分かってない人が「そろそろ同人誌二次創作物の著作権について一言いっておくか」というタイトルで記事を書くほど態度がデカいのかが分からない。

2.他のブログ

さて上記のブログに言及している他のブログも見つけた。
http://md2tak.info/1160

ここによると原作者から訴えられずに堂々としていれば問題ないらしいが噴飯物であるw
もし真っ当に法的保護を受ける著作財産権の主張をしようと思うのなら、まず原作者の了解をとりつけることが先決である。(クリーンハンズの原則)

「ここ」というのは1.で批判したブログ。この指摘には賛成だ。またこのエントリでは二次著作者が権利行使しても裁判所が信義則により請求を認めない可能性にも言及しておりこれも賛成。知財法ではこのような前例はたくさんあるだろう。例えば、信義則違反(権利濫用)により権利行使が認められないとしたキルビー事件最高裁判決。
ただこのエントリのようにクリーンハンズの原則というと日本では不法原因給付っぽいので、本事件のような知財権の行使においては一般的に信義則という方がいいだろう。


しかし、本エントリの主旨である次の文は誤っている。

よく「二次創作(二次的著作物)にも著作権はある」という主張がなされるがあくまで原作者の許可を得ている場合だけである。
原作者の許可がなければ公開も販売もできないわけだから、当然、他人に複製するなということもできない。

なぜ誤っているのか。加戸守行氏のコンメンタール『著作権法逐条講義[四訂新版]』(2003)を引用して答える。加戸氏は著作権法11条の項で次のように解説している。なお、氏は文化庁の元官僚で著作権法を作り続けてきた著作権法の泰斗。

[…]つまり原作者の了解なしに作成した二次的著作物、例えば無断翻訳であろうと保護するという思想です。[…]原作者に無断で翻訳したものであっても、それを利用する場合には、原作者と翻訳者の両方のライセンスがいるということです。実際問題としては、原作者がオーケーするはずもありませんから、結果的にはその翻訳物を出版することはできませんけれども、無断出版に対しては翻訳者も著作権侵害の責任を追及し得るというメリットがございます。(p.129)


また別の誤りも見つけてしまったので言及しておく。

まとめると無許可の場合、
著作財産権を侵害するのが複製
著作人格権を侵害するのが二次創作
というように性質の違う権利の侵害となるので一概にどちらの方が悪質だということはできない。

「二次創作」は著作権法的には「翻案」とよばれ著作権法27条に挙げられた翻訳・変形などを含む概念。著作権侵害の裁判において「複製」と「翻案」は区別されていない。どちらも財産権の侵害。人格権の一種同一性保持権侵害とは異なる。山本隆司氏(弁護士)の次の論文など参照。http://www.itlaw.jp/jurist198-49.pdf

3.タイトルの問いに対する答え

タイトルの問いに対する自分の答えについて。まず問いの意味は<原著作者の許諾を得ずに二次的著作物を創作した著作者が第三者に対して起こした著作権侵害に基づく損害賠償請求・差止請求が認められるか*3>ということだ。
この問いに対する答えは通説(学説)によれば「侵害だ」ということになるが、上記の信義則もあることだし、裁判をやってみないと分からないというところではないだろうか。
著作権法を学んだ人間からすると「侵害だ」という答えは納得がいくが、一般の方々の常識からすると「非侵害とすべき」という意見がもっとあるかと思ったがそうでもなかった。「著作権はもっと弱めるべき」という考えが広まっているかと思ったが。実際、著作権が強化される以前の著作権法(旧著作権法22条)では「適法な二次的著作物でなければ著作権は発生しない」旨が規定されていた(適法要件と呼ぶ)。
実際にこのような裁判例があるわけでもないと思う。自分が原著作者の著作権を侵害しているのに第三者に対して訴訟を起こすという厚顔無恥な人はあまりいないということだ。
本件について言えば、そもそも同人誌が二次的著作物に当たるかすら裁判をやってみないと分からないと考える。内容も見てないし。「同人誌が二次的著作物だ」というのを皆前提にしているのが不思議だ。裁判官はエロ同人誌に創作性を認めたくないかもしれない。創作性の有無については確たる基準がなく事件ごとに変わる部分が大きい。これは普通に考えてある程度予想がつくのではないか。
この問いは興味深いので今後調べてみるかもしれない。


【追記】
こちらのブログを見て思い出したがアメリカの著作権法では不適法な二次的著作物には著作権は発生しない。なお、この第3のブログが3つの中でもっとも適切な内容だと思う。

米国著作権法103条(a) 第102条に規定する著作権の対象には、編集著作物及び二次的著作物を含むが、著作権が及ぶ既存の素材を使用する著作物に対する保護は、当該素材が不法に使用されている場合には、それが使用されている当該著作物のその部分には及ばない。


【関連エントリ】

著作権法逐条講義

著作権法逐条講義

*1:コメントでいだたいたご指摘に基づき「LINDA Project」から訂正。

*2:「追記:調べていくと二次創作物は二次的著作物という用語を用いられることが分かりました。」http://e0166.blog89.fc2.com/blog-entry-958.html

*3:コメントでいただいたご指摘に基づき「できるか」から修正。