江戸しぐさの正体

偽史専門家である原田実の『江戸しぐさの正体 教育をむしばむ偽りの伝統』を読んだッス。

いやあ、これは今年の最重要書籍のひとつだなぁ。

「江戸しぐさ」とは、江戸商人の習慣に由来するとされる道徳・行動哲学であり、最近では企業の研修や学校の道徳教育にも取り入れられています。
乗り物の座席で詰めて座るための「こぶし腰浮かせ」、傘をさしたまますれ違うための「傘かしげ」、断りなく相手を訪問することをとがめる概念「時泥棒」などがその代表例ですが、それらのマナーは近代以降でなければ成立しない(江戸時代には並んで座る席を搭載した乗り物は存在しない、江戸時代の傘は高級品で庶民は笠を使用していた、正確な時計が存在せず電話もない時代にどうやってアポイントを取ったのか、などなど)ものであり、また、その伝承を裏付ける文献も存在しません。その胡散臭さを容赦なくツッコむのが、この本です。


江戸しぐさを推進する団体がいうところでは、「江戸開城のさい、新政府軍が江戸っ子のネットワークを恐れて女・子どもにいたるまで虐殺したため、江戸しぐさの伝承が途絶えた」とのことですが、もちろんそんな虐殺の事実は歴史上存在しません。というか、20世紀の歴史における虐殺事件はやっきになって否定しようとする現政権(首相は長州出身)が、なんでこんな証拠もない虐殺を唱えている団体を重用しているのか本気でわかりません。


原田実氏は、それらの虚妄をひとつひとつ指摘していき、最終的には、「江戸しぐさ」が単なる無名の老人による空想だったという事実を明らかにします。それがどうやって教育現場にまで浸透していったか、という経緯は本書を参照のこと。


しかし、「江戸しぐさ」を導入する動きはますます盛んになっており、疑似科学や親学が大好きな下村博文文科相が留任したこともあって、教育現場の将来は不安になるばかりです。
最近はようやく『水からの伝言』を教育に導入する動きも下火になってきましたが、今度はこれかぁ。早く潰れないかなぁ。