『バーコードファイター』の前衛っぷり。


『バーコードファイター』とは1992年から94年までの間コロコロコミックで連載されていた漫画だ。


この漫画は児童誌としては過激な部類に入る。ヒロインの有栖川桜が連載の途中で実は男だったと明かされるのだ。桜が好きだった読者のなかには、このことがトラウマになったという人もいるらしい。


自分もリアルタイムで読んでいたのだが、もともとバイセクシャルの傾向をもっていたのでそれほど影響は受けていない。で、最近になってから国会図書館に赴いて改めて読み直してみたのである。通読してみたところ、自分はこの作品のもっとも重要なシーンを忘れていることに気づいた。それは連載の最後に、番外編のように取ってつけられた3回分の話である。


事件は、家庭で楽しめるバーチャルリアリティーのゲーム機が発売されたことから始まる。


桜は中古ゲーム店で、倒産したゲーム会社から流出したソフトを購入する。しかし、ゲームに欠陥があり、桜は「囚われのお姫様」の役としてバーチャルリアリティーの世界に取り込まれたまま戻れなくなる。桜を現実に戻すためには、ゲームをハッピーエンドで終わらせる必要がある。主人公達はゲームのなかに入ることにする。


ここでキーパーソンとなってくるのは主人公のライバルである阿鳥改である。主人公の烈は桜に対して友情以上のものを感じていなかったが、改は桜にそれ以上の想いを寄せていた。そして、改は桜が男であることに悩みつづけていたのである。


そして改は、他の人たちが魔王と闘っている間に抜け駆けして桜の囚われている部屋にたどり着く。そしてそこで桜の胸が膨らんでいることに気づく。バーチャルリアリティーのなかでは、桜は女になっていたのだ。


しかし、改はバーチャルリアリティーの世界のなかで生きる誘惑を断ち切り、こう叫ぶ。


「わい、桜ちゃんが好きや!!
 男の桜ちゃんが好きなんや!!」

このセリフが児童誌であるコロコロコミックに掲載されたのだ。しかも相当デカいコマで!


「そりゃ桜ちゃんの人間的な魅力がわからんアホタレはいっぱいおるかもしれん!
 でも、そんな連中のために自分の人生をダメにするなんて……、悲しいやないか!」

子供にこんなの読ませちゃダメなのか、むしろセクシャルマイノリティに暖かいまなざしを向けられるようにするために積極的に読ませるべきなのか──自分には分からなくなりました。