金の病と極上のエンターテインメント ONE PIECE FILM GOLD
この夏の邦画では実は一番楽しみにしていたのは「シン・ゴジラ」ではなく「ONE PIECE FILM GOLD」の方であった。ただ、「シン・ゴジラ」の方の盛り上がりが凄かったので優先順位を繰り上げゴジラを先に観た。で、「シン・ゴジラ」は確かに凄い作品で(手放しで褒めるにはちょっと抵抗はあるのだが)、逆に「ONE PIECE」の方が置いてけぼり状態だったのだが、やっと観に行ったのだった。そしてこれがもっと早く観ればよかった!と思うほどの大傑作でした。ちなみにこの日は「仮面ライダーゴースト&動物戦隊ジュウオウジャー」とはしごする個人的キッズデー。夏休みということもあり子供も多い中での鑑賞でした。「ONE PIECE FILM GOLD」を鑑賞。
物語
新世界の海原を進む麦わらの一味。行き先はそれ自体が巨大な船でありながら独立国として成り立つ「グラン・テゾーロ」。そこでは常に華やかなショーが行われ海賊も海軍も関係ないエンターテインメントシティ。
ルフィたちはグラン・テゾーロの王にして世界政府にも強い影響を持つ黄金帝ギルド・テゾーロからVIP扱いで待遇を受ける。華やかな裏で持つものと持たざる者ん圧倒的な格差が存在し、テゾーロの圧政に苦しむ人達がいた。麦わらの一味はテゾーロの罠にはまるが…
本作は「ONE PIECE FILM STRONG WORLD」「ONE PIECE FILM Z」に続く原作者尾田栄一郎が製作、深く関わり、原作の流れに組み込まれる形を持つ作品の第3弾。「STRONG WORLD」以降のONE PIECE映画はやはり原作ファンだけどアニメは観ない、という人達も巻きこんだことでそれ以前のONE PIECE映画とは興行成績が段違いだったらしい。実際僕もアニメ「ONE PIECE」の映画を劇場まで観に行ったのは「STRONG WORLD」が初。そして以降ジャンプ連載の作品のアニメの映画化作品は原作者が深く関わるのが定番となり、「NARUTO」「銀魂」「ドラゴンボール」「HUNTER × HUNTER」などが続くことになる。もちろんそれ以前にも作品として評価の高い作品なんかもあったりはしたのだが(細田守監督の「オマツリ男爵と秘密の島」とか)、やはり漫画原作のアニメオリジナルエピソードって妙な違和感が多くて原作ファンには「コレジャナイ感」が強いんだよね。これは昔から「キン肉マン」とか「聖闘士星矢」とかの劇場オリジナル作品から連綿と続く(北斗の拳はちょっと別)流れだったのだが、それを原作者が関わることでその違和感を解消した、ということで「STRONG WORLD」は映画史に残る作品であっただろう。
で、本作は予告編等で見る限り、映像的には文句なしであろうけれど、物語的にはどうなんだろう?という疑問はあった。と言うのは前2作の敵は金獅子のシキにしてもZ先生にしてもそれ以前のONE PIECEの世界との因縁が語られていて(シキもZ先生もガープやセンゴク、ロジャーや白ひげと同世代)、それを通してすでにルフィたちとの因縁がつけやすかったのだけれど、本作の敵ギルド・テゾーロはぽっと出のキャラに思えたからだ。でも本作はその分悪役として魅力的に描かれていて良かった。
原作に組み込まれる形、とはいったけれどちょっと矛盾はあって、この映画はドレスローザの戦いが終わった後の物語だが、麦わらの一味のクルーは全員揃っている。現在原作もアニメも一味はバラバラに行動している状態でしばらく全員集合して、また悠々自適に海原を行く、という事態になるのはかなり後になりそうだ。だから時系列的には、ドレスローザ→→ゾウ(TVアニメの現在)→ホールケーキアイランド(原作の現在)ときてその後に本作が位置する形になるのだろうか。
映画化されるとこれまで着たきりだったキャラクターまでが急にファッショナブルになるのがちょっと嫌、と言うのは前作の感想で書いたのだが、本作はそのへんも冒頭の衣装ぐらいで、後はちゃんと必要に迫られて着替えているので不自然には感じず。
物語的にはちょっと「ルパン三世」を彷彿とさせる雰囲気もあって(共にアウトローの物語だし)、過剰に露出の多い女性キャラなども多いんだけど今回はカジノ(だけではないが)が舞台ということもあって批判の対象になるようなものでもないだろう。途中で出てくるテゾーロマネー(天竜人への献上金)強奪のプロセスも「ミッション:インポッシブル」とかほど緻密でもなく、いざとなったら身体能力でなんとかなる「ルパン三世」っぽい感じ。この辺は「ONE PIECE」の世界観(単純に設定だけでなく、尾田栄一郎の作風も含む)をどのくらい理解しているかでありえないと思うか面白いと想うか別れそう。
しかし、とにかくアニメーションの醍醐味動きの快楽とドラマがきちんと組み合わさっている。邦画特有のもっさり感も無し!
オープニングからラストのバトルまで少なくとも映像的には満足できるはず!
物語を通してお姫様(助けられ役)を担当するのはなんとゾロ!(もちろん後半ではアクションもあり)そしてナミが参謀として活躍するのもいいです。ウソップが情けないところを見せるのはもはやその後の格好いいシーンのための振りにしか見えない。ルフィについては後述。
さて、テゾーロである。前作「Z」は実質「Z先生が主人公の物語にルフィたちが助演した」といったほうがいいぐらい敵役であるZ先生の背景が細かく描きこまれていた。金獅子のシキは映画登場より前に原作で言及され、その後映画公開前には原作者によるシキを主人公とした読み切りも描かれた。それに比べるとテゾーロは背景が少ない。劇場で特典として配られた第七七七巻には尾田栄一郎によるテゾーロの人生が詳細に解説された設定が載っていたりするのだが、映画本編ではほんの少ししか出てこない。劇中で出てくる過去は幼いころに父を亡くし、生活に苦労し、母に虐待に近い扱いを受ける子供時代。ヒューマンショップ(奴隷売買の場)で知り合った愛する女性を救うべく努力するもののかなわず、彼女は天竜人の奴隷になり、テゾーロもまたマリージョアにて奴隷になる。テゾーロの背中には大きな星の形の刺青か火傷の痕かのようなものがあるが、これも天竜人の刻印を消すためにその上から入れたものだろう。ここまでが劇場版のみでうかがい知れるテゾーロの過去。
七七七巻で補足するとテゾーロがマリージョアから脱出できたのはハンコックたちと一緒、つまりフィッシャー・タイガーのおかげである。また彼は悪魔の実ゴルゴルの実(一度触れた黄金を自在に操る)をドフラミンゴを騙して手に入れたが後にドフラミンゴとは同盟を結んでいる。テゾーロと一見無関係の麦わらの一味との因縁はドフラミンゴ経由といってもいいだろう。ドフラミンゴは「ONE PIECE」全体でもかなりの悪党だが、テゾーロと今回の物語はドフラミンゴとドレスローザの物語をなぞっているともいえる。
これらのテゾーロの過去は時折フラッシュバック的にテゾーロが思い出すだけで具体的に過去パートがあるわけでもないし、テゾーロの口からルフィたちに向けて語られるわけでもない。観客もONE PIECEの世界観や過去のエピソードを知っていれば容易に理解は可能だが、知らないひとでも漠然とした形で感じるのみとなるであろう。だからルフィとテゾーロは純粋に現段階のいざこざのみで戦うことになる。これはテゾーロに悪役としての挟持をもたせると同時にそれを倒すルフィに枷を付けないことに成功している。山路和弘の熱演も見事。
今回もキャストには豪華芸能人キャストが起用されている(いわゆる豪華キャストと言った場合吹替ファンと一般で豪華の意味は違うのだが)。ナミと因縁があるカリーナに満島ひかり、テゾーロ一味の女幹部バカラに菜々緒、警備主任であるタナカさんに濱田岳、ディーラーである巨漢ダイスにケンドーコバヤシといった具合。この中で事前に知っていたのは濱田岳のタナカさんだけで、身体に比して頭がでかいそのキャラはもっと小さいマスコット的なキャラクターかと思っていたら、身体は普通で頭がでかいキャラだった。満島ひかりと菜々緒は最初ちょっと違和感があって観ながら「あ、タレント吹替なのかな?」と思ったけれど全然良かったです。満島ひかりはドラマの「ど根性ガエル」で平面ガエルピョン吉の声を担当していたけれど純粋なアニメーションはこれが初だそう。ケンドーコバヤシに至っては全く違和感を感じなかった。
出てきて喋った途端誰だか分かったのは北大路欣也のレイズマックス。ただこれもCMなどで北大路欣也の声を多く聞いているから分かった、というだけで声優として違和感があるというわけではない。
他には竹中直人が「STRONG WORLD」に引き続き出演し(ただし今回は役割はずっと小さい)、古田新太や三村マサカズ、小栗旬なんかも出ていたのだけれど、いわれなければわからないレベルでありました。多分、僕がこれまでに観たアニメ映画では本作は一番タレント吹替が確かに豪華で、でも(悪い意味での)タレント吹替と感じさせない作品だと思う。
キャラクターのほうのゲスト出演では原作ではまだ明確にされなかったCP0になったロブ・ルッチやスパンダイン、そして革命軍からサボなんかが出てくる。サボの声は古谷徹で、これはエースの古川登志夫、ルフィの田中真弓というこれまでも何度も共演してきた関係性*1を利用した起用なのだけれど、なんだかサボの声はいわゆる古谷徹の声(透明感のあるヒーロー声)とはちょっと違っててわかりにくい。これは何か意図的なものなのだろうか。
さて絶賛してきたが、もちろんこれは原作を読んできた、ある程度前提を共有している者の見方である。当然駄目だったという人もいるだろう。例えば主人公であるルフィのキャラクターはこれまでも散々話題にされてきた。ルフィはいかにも少年漫画の主人公っぽい造形である一方、その心情を示す描写がなく、また表情も黒丸の星のない瞳で描かれるため、怒りや笑いなど極端な感情以外の微妙な表現がなく、逆に何考えているか分からない、と言われることもある。これは考えるより先に動くというルフィのキャラクターを最大限に活かすための手法だ。また弱者に寄り添って慰めてくれるキャラクターではない。弱いもの、虐げられているものには「なぜ歯向かわない!」と厳しくあたり、相手が動いて初めて手を貸すタイプ。その辺で毛嫌いされることもある。
後は多分大多数の読者以上にルフィは自分たちが所詮は悪党である、自分たちは自分ルールで動く無法者って意識している。僕たちはつい少年漫画の典型的なヒーローとしてルフィを捉えて、そこからはみ出るとおかしいと思ってしまうが、ルフィたちは自身がアウトロー、犯罪者、賞金首、そして海軍に追われる海賊であると自覚している。
今や世界的にも広く読まれる「ONE PIECE」だが、僕は別に少年漫画が青少年の教育に貢献しなきゃならないとは思わないので、このへんのルフィたちに対する非難は的はずれなものが多いなあ、とは思ってしまうのだ。
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シリーズ前々作。原作者がガッツリ関わるジャンプ作品の映画作りの流れはここから始まった。

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何度も言っている通り、原作ファンであの世界観をどの程度理解しているかによって満足度は違うとは思うけれど(もちろんそれほど知らなくても及第点の満足度は得られると思う。逆にONE PIECEなんて全く知らねーよ!ってのはさすがにこの作品の知名度を考えるともはや甘えだと思う)、個人的には過去三作の中でも一番の出来。これまで観たアニメ映画の中でももしかしたらベストに入るのではと思う作品でした。オススメ!
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