「人気の職業」化は末端の現場に悲惨な現実をもたらす

「人気の職業」化はその職業を幸せにするか

全く賛成できない。もちろん、引用元の文章には善意が感じられるが、だからといって賛成することはできない。それはなぜか、説明しよう。

経済学によると、需要と供給が価格を決定するという。そして、労働価格(賃金)も、労働力の需要と供給で決まる。だから、労働力の需要が増えないまま供給を増やせば、供給過剰で労働者の賃金が下がるのだ。

じっさい、「人気の職業」は低賃金で劣悪な労働環境な場合が多い。そのために人が辞めていっても、入ってくる人がいくらでもいて替わりが利くから人材は使い捨てられ、労働条件は一向に改善されない。そして、「エンジニア」「クリエイター」と呼ぶようなIT職種は既にいくらかは「人気の職業」なのではないか。

「人気の職業」の頂点に近い部分は、収入など理想的な条件が整っているが、底辺の方は悲惨な現実が待っている。競争がある限りそのような格差はなくならない。弁護士や医師の場合はそこまでの格差はないが、完全な競争ではなく、国家が定める資格によって足切りされている(プログラマーも資格制にすれば平均年収が上がるだろう)。

もちろん、「人気の職業」に対する幻想(人の役に立って感謝されたいだとか)は人間的で共感できるが、そのヒューリスティックな認知の歪みによって市場の需給バランスが崩れると、現実には非人間的な事態が訪れてしまう。

結局、「この仕事は大変だ」的な説教はつまらないのだが、しかしやはり、幻想を振りまく形でプログラマーを人気にするよりも、幻滅するような現場の実態を伝えた方が、長期的には現実が改善されていくのである。そして、華やかな幻想を通り抜けても、なお続ける意思があるような者が本物だろう。

ゴミの回収は好きを貫いていないか

404 Blog Not Found:好きを貫いている者の礼儀

「自分の身を守るためにも好きな仕事を貫かなければいけない」、そうなのかも知れない。しかし誰もが自分の身を守るために好きを貫き出しても、明日ごみは回収されるのだろうか。市場経済論者であれば、「そうすれば『好きでない』仕事が供給不足になり、価格が上がるので報われる」と言うのかもしれない。それが本当なら、なぜ私から見ればどうやって好きになればいいのかわからず、実際に人手不足に悩んでいる職種が(比較的)低賃金のままなのだろうか。

「誰かがやらなくてはならない生産性の低い仕事」はどこまで本当か? - 分裂勘違い君劇場

だから、僕にとっては、駅の掃除のオジサンの価値生産性はとても高いです。
だから、ボクはそういういい仕事をしてくれるオジサンの給料はもっと高くなるべきだと思うし、(…)

ごみの回収業務は、地方自治体が行うので、地方公務員の仕事になり、場合によっては競争率が何十倍にもなる。意外かもしれないが、実は大卒の優秀な人間が志願する、隠れた「人気の職業」なのだ。採用の足切りをくぐり抜ければ、高収入で労働条件も良い*1。そして、これは別にゴミの回収のイメージアップによってではなく、単に労働条件が(プログラマーよりも)良いから、自然に人が集まってくるのだ。ただし、駅が民間(というかJRも民営だが)に業務委託している場合などは、さほど好条件ではない。

ちなみに、「実際に人手不足に悩んでいる職種が(比較的)低賃金のままなのだろうか」というのは、人手の量ではなく質の問題(優秀な人材の不足)だろう。「ブルックスの法則」(遅れているソフトウェアプロジェクトへ、要員を追加しても、さらに遅れるだけ)というのもあるし、必ずしも量が質に転化するとは限らない。そして、雇用の非正規化などで教育コストは負担しないなどの場合は、自らまいた種だ。

小野和俊のブログ:現代という時代において、遊び人が賢者になるための道

没頭する対象が世間的に褒められたことであるかどうかに関わらず、
それが将来役に立ちそうかどうかということに関わらず、
好きで没頭してるだけなので努力や勤勉などという言葉が
当てはまらないような状況。

そういう、熱中した対象への突進力こそが、
現代において、遊び人が賢者になるための道なんじゃないかな

それでこの節で何が言いたいかというと、本人の「好き」だけでなくて、他人が「好き」かどうかが、職業の条件に影響してくるということだ。だからその意味では、勤勉か遊びかはともかく、世の中が賞賛しないような行為に没頭することが、時代が変わったときに有利になることもあるだろう。ならないこともあるだろう。

資本家にとって「人気の業務」か

maname かつてのライブドアのように、素晴らしいサービスを大金でポンポン買ってくれる企業が必要なんだよね。googleに買収されるのが目標というのは聞くけれど、それがgoogleではなく日本企業が挙がるようになったら良いな。

http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/guri_2/20071227/1198729607

もし、プログラマーの待遇改善・地位向上を望むなら、労働の供給側、すなわち労働者(予備軍)に対してではなく、労働の需要側、すなわち資本家や顧客に対して働きかける必要がある。そういうわけで、上の引用には同感だ。

多くのIT関係者にとってGoogleの職場は理想的だろう。無料のシャトルバスが職場に送迎、有機食材を使って専門のコックが調理するディナー、プールやジムやコートなどの施設、全体の20%の時間は自分の好きな開発に取り組める「20%ルール」…*2。

しかしそれは別に、最初の記事のようなイメージアップに取り組んだ結果そうなったのではなく、端的にGoogleが大成功して大金があり、そしてその儲けは技術力が産んでいるので、人的資源に投資しようという、経営側の意思決定の結果なのではないか。

*1:業務の性格上「きたない」だけは仕様がないが、3Kではない

*2:しかし実は、言われているほどでもないという話も聞く