同人音楽、インディー、自主流通音楽

ツイターで雑談していたことだけど(俺が一方的に)
同人音楽を聴こう! (三才ムック VOL. 167)
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こういう本が出るとおり、今は同人音楽がアツいらしい。ニコニコライフを送って東方系の音系同人も聞くようになった俺もこの本は買おうとは思ったけど、ソレ系のお店に行くのがハードルが高く結局買っていない。でもアマゾンで売られているから買って読もう。
ともかくこの本とか読んでみないとまだわからないけど、同人音楽という言葉が一般的になってきた昨今、いわゆる「インディー」という意味について再考する必要があると思う(ポピュラー音楽研究者としても、ただのロック好きとしても)。いわゆる「同人音楽」というのが席巻してくると「インディー」という言葉が死語になるかもしれないからだ。 さらにレディオヘッドのような「メジャー」なアーティストがダウンロード販売を行うという状況を鑑みれば、「インディー」という言葉はますます死に近づく。
意味的に考えると「インディー」の音楽*1とは「メジャー」レーベルに頼らなく、「インディペンデント」つまりは独立して商品の製作、流通を行うような音楽文化である。もちろん歴史的にみれば「インディー」が完全に独立しているわけではなく、流通や製作、広報の面でメジャーとの交渉が数々あったことは事実だ。ただし、理念的にはメジャーとは異なった独特な(独立した)音楽を作るという側面が無かったわけでもないし、DIYの美学というものも確かに存在する。
それに対して同人音楽とはhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%8C%E4%BA%BA%E9%9F%B3%E6%A5%BDにもあるとおり、確かにインディーとかぶる部分があるわけだが、その美学においては逆方向を示しているように思われる。というのは、同人音楽の大半のコンテンツは何らかの商業作品から独立するのではなく、それこそ依存(dependent)しているのである。ゲーム音楽、アニメの主題歌のアレンジが大半で作曲としてオリジナルなものは珍しい。それこそ「エアーマンが倒せない」などは稀有な例であり、それにしても歌詞の面では商業メディアに依存しているのは明らかである(そもそも同人ゲームである東方の同人音楽をどう解釈するのかは難しいところである。しかし現状として東方を完全に同人であるとみなすよりも、半分以上商業メディアである)。この状況は初音ミクの大ブレイクによって変わるかもしれない。実際に初音ミクなどのボーカロイドシリーズはウェブ上に多数のオリジナル曲を流通させることに成功している。だがしかし、それもまた初音ミクという新しい商業メディアに依存しているのかもしれない。
さらに言えば、http://twitter.com/junkMA/statuses/545718212などの証言から考慮するに、オタク系文化の大半はある元ネタを共有する美学を持っているのではないかとさえ思う。まあそれはシブヤ系クラブカルチャーからハロプロ系ヲタク文化への人的リソースの移動という文脈で散々言い尽くされたことかもしれない*2。
話は別に結論に向かわない。俺としてはこのアマチュア音楽文化(トインビーならプロト市場と呼ぶだろうもの)の現在のダイナミクスを興味深く観察している。別に商業メディアから独立することが美的に良くて、依存するのが悪いとも思わない。というか、これまでの狭義のインディー音楽文化(とくにインディー・ロック、パンク、ギター・ポップ)はそもそもからして、流通や商業においては独立していたかもしれないが、美的には商業メディアに依存していたかもしれない。商業メディア、とくにメジャーな音楽を再解釈して、笑い飛ばしたり、馬鹿にしながらもあこがれたりしてきたのが、インディー・ロックであったのかもしれない。ピクシーズなどの妙な音楽センスを考えるとそうとしか思えない(彼らの中にはいわゆる商業音楽としてのサーフ・ロックとアメリカン・ロックというものを解釈しなおす要素が濃くある)。
現状としてはいわゆるコミケとかオタク系ショップで流通するのが同人音楽、それ以外のライブハウスやレコードショップで流通しているのがインディー(ズ)音楽と呼べるかもしれない。しかし、それにインターネット上でのダウンロードなどが絡んでくれば、その垣根は一気に崩壊するように思われる。昨今の音系同人の盛り上がりを見る以上、すでに垣根は一部崩壊しているようにも思える。その後、これらの文化の住み分けはどうなるか、俺はとても興味がある。そして流通や商業のような下部構造の問題と、内容やセンスといった美学の問題がどのように関係するのか。アマチュア、もしくはセミプロ音楽文化はここに来て一台変革のときを迎えているように思われる。

*1:http://en.wikipedia.org/wiki/Indie_%28culture%29を見ればわかるとおり、英語での意味は何も音楽に限ったわけではない

*2:http://hmc.nifty.com/cs/interview/main/070628000162/1.htmにあるとおりシブヤ系のドンの小西もそれがオタク文化であったことを認めている。さらにはチップチューンなどもその文脈で語ることができるかもしれない。