Google Spreadsheet と UI as commons(あるいは UI as a Service)

さて、Googleがオンラインスプレッドシートを出したのだけど、まあ機能の充実度はさておき、実際に企業内で使うとして、重要なデータをGoogle様に預けてよいものかどうかという話がある。たとえば個人情報が関わるようなデータも預けてしまっていいのか。きっとちゃんとしたエンタープライズ環境に適応するには、データ流出/漏洩が怖すぎて使えない。

まあそもそもGoogle Spreadsheetがそんな使い方を想定していない/推奨していないのでは?といわれればそれまでなんだけど、Webでスプレッドシートを共有したいという欲求はそもそもファイアーウォールの内側にこそ多い欲求だったように思う。そこで「○○のデータに関しては使えないよー」となってしまうと、ちょっともったいない。

これはSalesforce.comのようなSaaS (Software as a Service)形式のオンラインサービスにも共通していえる*1。つまり、なんだかんだいって、心情的にやっぱり機密に値するデータはファイアーウォールの内側に置いておきたいという思いが通常の企業にはある。

じゃあ同じアプリをパッケージ化してローカルにもインストールしようというのが、たぶん普通の自然な発想だろうか。そして、これを実現するパッケージソフトウェアもきっと多くある。さらに、どことは言わないが、むしろSaaSは見せ玉で、じつは結局パッケージのライセンス売りが狙いだったりするエセSaaSプロバイダもある。つまり、結局のところそうした要求が根強く企業内にあるために、それを満たす形でパッケージベンダーは日銭を稼ぐことが出来ている。

でもUI「のみ」が、サービスとして提供可能だったとしたらどうだろうか?

Livedoor Reader と Greasemonkey + Plagger の Hack は、LDRのUI のみ再利用してデータの取得先を入れ替えるという方法を打ち出した。これによって、例えばイントラネット内のメールサーバにある新着メール情報も、使い慣れた Livedoor Reader で読む、といった技も出来る。ただ、今のところ Greasemonkey ã‚‚ Plagger もまだまだ限られたGeek用のツールだし、それが一般のユーザも含めて爆発的に普及するシナリオなんてそもそも使ってる人たちも描いていないと思う。しかし、この考え方自体は「UI as commons」という言葉で示されているように、いろいろ応用が可能なものではないだろうか。

del.icio.us direc.tor は、ブックマークレットを使って、UIのみを外部サーバからJavaScriptとしてロードする。データ自体はdel.icio.usに入っているものをそのまま使っている。これはあくまでdel.icio.usのデータ形式にあわせてUIを構築しているという点で「UI as commons」ではないのかもしれないけど、このアプリに関してこのような見解もある。

http://la.ma.la/blog/diary_200506291043.htm

「del.icio.us direc.torはどこでも使える」ということだ。del.icio.usのキラーアプリケーションというような記述も見かけたが、何もこれは「del.icio.us専用」というわけではない。
例えば、この優れたタグブラウザをはてなブックマークで使いたいと思う人がいたとして、はてなブックマークがdel.icio.usと同じ形式で出力するAPIを備えていれば、後はチョコチョコと変更を加えるだけで、ほとんどそのまま動かすことが出来るはずだ。

さらに、Mashupの代表例であるGoogle Maps は、地図情報というよりも、むしろ外部からUIが降ってきた例としてとらえられる。地図情報が無料で開放されたというのはやはりもちろん大きな成功要因だけど、やっぱりみんなあのマウスぐりぐりドラッグのエクスペリエンスを導入したかった、というところもあるだろう。そして、もし地図にあわせて表示させたいデータが自分のところにあったら、それは緯度経度の情報として Google のAPIが規定した形にあわせてUIに対して放り込んでやりさえすればよかった。

以上、これらのサービスは、そのUIがデータ自体とは異なったところからオンラインサービスとして提供されている例である。
これらのサービスはもしかしたら、Software as a Service ならぬ、UI as a Service とでも呼べるかもしれない。


話をGoogle Spreadsheet に戻す。

現在のところ、Google Spreadsheet はUIだけサービスとして取り出せるようには残念ながらできていない(たぶん)。しかもマルチユーザでのデータ共有/アクセス制御ができることが Google Spreadsheet の一番の売りであるように思われる。そういう意味ではUIだけ再利用してデータ部分を自前のサーバで提供できたとしてもあまり旨味はないのかもしれない。

ただ、もし「UIが外から降ってきて、ローカルのデータとMashup可能」だとしたら、データを自前で持ちたがるエンタープライズ環境に対しても訴求要素にならないか、ということを最近考えている。そのためのいろいろな実現方法(GM+Plagger, Bookmarklet, Cross-Domain JSON)があるのはなんとなくわかってきた。今後はその可能性について調べていきたい。

*1:もちろんSalesforceの場合はそこが不安要因だとちゃんと認識しているので、安全管理を徹底しているとアピールはしているけれども