松田奈緒子『重版出来!』小学館

重版出来! (1) (ビッグコミックス)

重版出来! (1) (ビッグコミックス)

 「じゅうはんでき」ではなく「じゅうはんしゅったい」と読むそうです。(100万回言われたネタ)
 オリンピックへの夢やぶれた体育会系柔道女子大生・黒沢心。大手出版社に就職した彼女が、先輩や担当する漫画家に鍛えられ、一歩づつ成長していく・・・というお話です。
 出版業界でバリバリ働く女性、という枠組みでは安野モヨコ『働きマン』を想起させますが、『働きマン』では出版業界という「男社会」で生きる「女性」を作品の枢軸としていたのに対し、本作『重版出来!』では出版業界「そのもの」を描いています。
 「良いものを作っていれば売れる」という古き良き日本のものづくり文化に「NO」がつきつけられ、「いくら良いものでもしっかり売らなければ売れない」という風潮は、出版業界とて例外ではありません。

 今、出版不況なんて言われてるけどな。
 バブルの頃からのツケが出てきた部分もあるんだ。
 ほっといても本が売れたから売る努力をしない営業も編集も山ほどいて、経費だけバカスカ使い込んで、
 そういう連中が雑誌を喰い潰したんだ。
(P122)

 本作で描かれているのは、生々しい出版業界の裏側。それは「本を書店で売る」という、数多くのライバルとの戦いでもあります。本を読まない、リアル書店で買わない、そういった人々にいかに「素晴らしい本」を知ってもらい、届けるか。
 その戦いを、「作者」「出版社」「書店」が一つの「チーム」となって描かれています。それは同時に、一冊の本が読者に届くまでに携わった人の多さでもあります。

漫画は、おもしろくても売れるとは限らない。
売れそうな作品がイマイチだったり、無理そうな作品がヒットしたり。
なんでそうなのかわからない−−−−
わからないから、
売るのは面白いんだ。
(P163,164)

 書店で行われるフェアやサイン会、試し読みやオリジナルの紹介DVDなど、以前に比べリアル書店では各店工夫を凝らしその店その店の特色を出したディスプレイやイベントが増えているように感じます。それは当然ながらネット書店などの脅威との差別化という要素もあるでしょうが、「この本を知ってもらいたい」「この本をまだ見ぬ読者に届けたい」という書店員やその本に携わる人々の「思い」でもあるような気がします。
 働く女性、「チーム」というお仕事マンガ、仕事にかける熱い思いと様々な読み方ができる本作ですが、フジモリはなによりも「一冊の本を届けるための様々な人々の思い」を感じました。
 本好きであれば読んで損はないですし、読むと書店を見る目が変わると思います。お勧めの一冊です。