人生のピークって何だろう

「大野さんのピークはいつだった?」
少し前のことだが、中年(40代後半)の人達と雑談の最中、いきなり聞かれて言葉に詰まった。私のピーク? いつだったんだろう。そんなものあったんかいな。考えたことがなかったです。


あなたのピークはいつでしたか? 過去のことについて訊ねているのだから、これはとうにピークを過ぎた人への質問である。10代や20代の人には聞けない。30代の人にもちょっと聞けない。
これまで生きてきた年数と、平均寿命に照らし合わせてこれからたぶん生きるであろう年数を天秤にかけて、「これから」が長い場合は、「人生のピークはこれからだろう」というふうに考えるのが普通だからである。


もっとも、社会においても人生においても「右肩上がり神話」というものが崩壊した今、「25だけど、もう人生終わったと思ってる」「30だけど、これから上り調子になるとは思えない」という人はそれなりにいそうだ。
ただそれを自分で思う分にはともかく、他人から「あなたのピークはいつだった?」と、終わっていること前提で聞かれたら、厭な気持ちになる人も多いはずだ。
でもまあ残りの人生のほうが明らかに短くなってくると、気のおけない人の間ではふと出てくる問いだったりするのです。ここでムキーッとなって「私のピークはこれからです!」と返すのも大人げないというものである。というかリアリティがない。


そもそも「人生のピーク」とは、具体的にどういう状態のことを指すのだろう。多くの人が挙げそうなものを考えてみた。
1. 仕事が面白く最高に充実していた頃
2. 収入がもっとも多かった頃
3. 社会的な地位や栄誉を得た頃
4. 一番モテた頃(女性なら一番キレイだった頃)
5. 一番交友関係が活発だった頃
6. 結婚した頃
7. 子供が生まれた頃
8. 何の悩みもなく毎日が楽しかった頃


試しに夫(51歳)に訊いてみたところ、彼のピークは30代中〜後半(1、2)だったそうだ。確かにそれ以降、下り坂である。4はないのかと訊くと、「中学2〜3年」。モテキがあまりに早く来てしまった例である。
現在50歳の自分について考えると、7は体験していないし、3、8ともに今後もないと思われる。1、2、4、5、6は過ぎてしまった。それらにしたって、「これがピークか」と思えるような盛り上がり感はなかった。
ただ振り返ってみると、6の結婚を除いて、30代後半から40代前半にいろんなことが集中してあった、ということは言える。


30代前半はまだ20代のノリである。まだかろうじて「若者」なのだ。後半になると少し事情が違ってくる。見るからに人生に疲れたおじさんめいた人も、ポツリポツリと出てくる。
30代後半から40代前半は、個人的にはしんどいことが多かった反面、20代と比べるとはるかに面白い時期だった。面白いことがたくさんあったと言うより、それまでつまらないと思っていたことの中に、面白味を見つけられるようになった。そしてこの年代は気力体力ともにまだ充実しているから、大抵のことは勢いで乗り切れた。
今はその時のお釣りで生きてます。お釣り、もう残り少ないのでなんとかしなけりゃなりません。


ずっと前、「30になったら人生終わりのような気がする」とかいう増田の記事を読んで、「30からが一番面白い時期なのに何言ってんの」と思った記憶がある。
たとえば20代であまりパッとしなかったのに、中年にさしかかって急にモテ出したという男性はよくいる。なんかいい味が滲み出てくる。女性も30代後半から40代の初め頃が一番魅力的だ。女が最も色っぽくなるのは、老いがひっそり忍び寄りそれを意識する頃だからだ(男もそうですね。そんなややこしいものはわからんという人はいいです)。
そしてそれ以外に、やはり「下地」というものが効いてくるのがこの時期である。


その下地はいつ仕込んでいるのかというと、20代である。その頃に地味にせっせと蓄えた何かが、その年代でやっと静かに底光りしてくる。早咲きの人は相当努力しないと散るのも早かったりするが、遅咲きの人は結構長持ちする。実際、若い時にモテるより中年になってモテる方がずっと楽しい。
なんて書くと、いかにも自分が中年になってからモテてたようだが、そうモテてない。ただ20代の頃よりマシな感じにはなった。要は評価軸を「年齢的な若さ」からちょっとズラすだけのことである。
今はその時のお釣りで生きてます。お釣り、もう残り少ないですが、これはこれでいいです。