「英語が出来る」ために結局どれくらいの単語力が必要なのか

単語力。これ以外に英語ができない本当の理由は実はない。他の理由はすべておまけ。たとえば耳力ってのは、結局は単語知ってるってこと。知ってる単語が聞き取れないことはあっても、知らない単語が聞き取れることはない。そこを勘違いしちゃあいけない。


個人的には大賛成。
でも、その記事のはてなブックマークやトラックバックなどをみると、もう賛否両論。こうしたほうがいい、ああしたほうがいい。いやそんなのは全然駄目だ。それは受験だけの話だ。うんぬん。


この手の「英語が出来るようになるコツ」についての話で紹介されている方法は百人百様、誰もがそれぞれ違うことをお勧めしてくれる。
かくいう自分も、単語力を付ける以外のことで言えば、多読とシャドーイングがお勧め、とか内心思っていたりする(笑)。


一番の問題は、そうやって勧められた百通りの方法の「どれもが正しい」ということ。
というわけで、迷える子羊はさらに悩み苦しみ、挫折するわけだ。


迷わない、とまでいかないまでも、迷いを少なくするにはどうすればいいか。
とりあえず、「英語が出来るようになりたい」なんて、ぼんやりとあいまいな抽象的なこと言うのやめて、もっと具体的な目標を考えてみよう。


例えば「新聞を辞書なしですらすら読めるようになりたい」というのはどうだ。ずっとわかりやすい。
これを実現するために必要な条件とはなんだろう。


それを明らかにするために、Newsweek の約 500 記事で使用されている単語を独自に解析してみた。


500 記事中の単語数は全部で 287277語。
そのうちもっとも使われていたのが the で、15664語あった。
次が of で 7479語、続いて and で 7345語、to 7329語、……と、上位から順に見ていったときに、上位 1500語は 全 28万余語のうちどれくらいの割合を占めると思う? 上位 3000語、5000語、8000語、12000語だったら?

上位 1530語 221177 / 287277 (76.9%)
上位 2913語 241868 / 287277 (84.1%)
上位 4896語 256879 / 287277 (89.4%)
上位 8679語 270998 / 287277 (94.3%)
上位 12100語 277840 / 287277 (96.7%)
上位 21537語 287277 / 287277 (100.0%)


つまり、知っている語彙が 1500語だと、新聞記事全体の 76% の単語は知っている、ということだ。
同様に 3000語だと 84%、5000語だと 90%、8000語だと 94%、12000語だと 96%。
20000語でようやくほぼ 100% に達する。


この順位や割合の数字は、その文章の分野とか対象(児童文学だとやっぱり語彙数は抑えめになる)などによって多少のブレはあるだろうけれど、傾向としては大きくは変わらない。


一方、一般的な日本人の英語の語彙力はどれくらいあるのか。


英語教育でよく耳にする数字としては、中学校卒業時に 1500語、高校1・2年生で 3000語。
センター試験受験に必要となる語彙数が 5000語で、大学入試(二次試験)になると 8000〜12000語、などというのがよく言われる。


「日本人の英語力は大学入試がピーク(笑)」とは、まあもうよく聞くとおり。
でもさすがに中学レベルまで落ち込んでいるということはないだろう(と思いたい)から、とりあえず一般的な日本人の英語の語彙力は 3000語と仮定してみよう。
実際、かなり多くの人が 3000〜5000語程度に当てはまるのではないかと思う。


語彙力 3000語というのは、上述記事分析によると、Newsweek 記事全体の 84% の単語は知っている、とみなせる。


84% ってなかなか多いよね、とか感じていないだろうか?
とんでもない。
ちょっと短めの記事はだいたい 400語程度で書かれているのだが、その 16%、つまり「400語中、64語は知らない単語」ということなのだ。


「400語中、64語は知らない単語」の記事をスラスラ読めるか? 読めない。読めるわけがない。


語彙力 8000語ならどうか。
94% の単語は知っているから、「400語中、24語は知らない単語」。1行にだいたい1個知らない単語が入っていそう。うーん、もう一声。


語彙力 12000語でやっと「400語中、13語は知らない単語」。
これならスラスラ読めそう。知らない単語があっても、文脈で十分わかりそうだ。


つまり「新聞を辞書なしですらすら読めるように」なるには、少なくとも 8000語から、できれば 12000語くらいの語彙力が必要、ということになる。
そして少なくとも 8000語の語彙力がなかったら「新聞を辞書なしですらすら読めるように」なるわけがない、ということもわかる。

答え:英語で覚えていないから
1000語とか2000語とか10,000語とかよく言うけど、大事なのは数じゃない。


「大事なのは数じゃない」
確かにほんとう。


でも「大事なのは数じゃない」と言っていいのは、最低ラインより上に立っている人だけなのだ。
もし語彙力が明らかに 8000語にすら達していないのに「大事なのは数じゃない」という意見にうんうんうなずくのは現実から目を背けすぎ。合格最低点に達していないのに「大事なのは点数じゃない」なんてうそぶいてて、何の解決になる?


英語で覚える? うん、そのほうがいいことは絶対間違いない。100% 正しい。
でも、3000語の人がそうやって 50語増やしても 3050語にしかならないんだよ?
あなたの「英語が出来る」の中に「新聞を辞書なしですらすら読める」がもし入っているなら、それでは全然追いつかないよね……


語彙力なんてどうやって数えるんだって?
「400語程度の英語の一般的な新聞記事で、知らない単語が24語より多い」ならまず 8000語には達してない。わかりやすいじゃあないか。


最低ラインの 8000語に達するには、もし今 3000語なら、最低でもプラス 5000語。
毎日10個ずつ覚えていっても 500日。いろんな意味で厳しい。
毎日30個ずつだと 170日、半年。って学生ならともかく、社会人だとちょっとそんな時間はとてもとても……


(英語が苦手な自分のためにも)それを解消したくて、iVoca(アイボキャ) というサービスを作った。

英単語タイピングゲーム iVoca
http://ivoca.31tools.com/


単語を覚えるのに単語に含まれている文字以外のキーを打つのは無意味でしょ、などなど英単語を覚えるため以外のことは完全に廃して、もう純粋に単語を覚えることに集中してもらう。
苦手単語の繰り返し練習とか、覚えているはずの単語でも忘れたかもしれない頃に ひょいと確認してくれるとか、自動で出来ることは極力自動でやってあげる。
そういうサービス。


まだまだ出題数が少ないねとか、単語の意味は一通りじゃないよとか、不満が全くない訳じゃあないけれど、語彙を増やすということ、その一点にとことんこだわったときの一つの答えにはなっていると思う。


なお「新聞を辞書なしですらすら読める」をきっぱりすっぱり諦めるなら、ここに書いてあることは当てはまらない、かもしれない。
でも、あなたの「英語が出来る」の定義が何であれ、語彙力の最低ラインがどこかに存在していることは本当。何らかの方法でそれを超えないうちは、他のことどんなに頑張っても「英語が出来る」ようにはならない。
とにかく単語を覚える。他の方法への浮気はそのラインを超えてからでもいいのでは。多分それが一番の早道。急がば回れ。


ちなみに「日本人の日本語の語彙力」はだいたい2万語、多い人は10万語という数字を見た覚えがある。
「新聞を辞書なしですらすら読める」のは日本語の語彙が2万語以上あるから、と考えれてみれば、語彙力と「新聞が読める」こととの間の相関性について腑に落ちるものもあったりするのではないかと。