遠近法ノート

本好きのデザイナー、西岡裕二の日記帳なのです。デザインと読書について書くはず。

ちょんちょんの使い方(使われ方)まとめ。

n-yuji2006-01-07
いわゆる「ちょんちょん」*1は日本語の引用符です*2。
DTPの普及以降、誤用が急増しています。
「ちょんちょん」がフォントのキャラクタに存在しているかどうかという問題はさておくとしても、では、正しい使い方(使われ方)をまとめて記述した資料があるかというと、意外にも見あたりません。校正や組版の解説書でもほとんど無視されています。
そこで、以下にちょんちょんの使い方(使われ方)をまとめておきます。典拠となるものがあまりないので、個人的見解みたいなものですが、多くの書籍や雑誌がこのようなルールに則って作られていることは間違いありません。これが正解と信じてもらっていいと思います。

縦組みの本では。

まず、縦組みの本を前提として、「ちょんちょん」の表記は1です。2のようなものは間違いです*3。2は広告でよく見かけますが、マネする必要はまったくありません。
縦組みの本の中の横組み部分(キャプションとかコラムとか)では、3となり*4。4は使いません。縦組みの本の中の横組み部分は縦組みルールに準じます。ここ重要*5。
欧文の引用符は5となります*6。つまり、縦組みの本の中で、1と5は共存し、1に統一する必要はありません*7。

横組みの本では。

横組みの本では4の欧文ダブルクォーテーションマークを使用することが多いです。必ず「起こし」と「受け」を区別。Fのような形は論外です。
原則として3は使用しませんが、もし3を使用する場合は縦組みルールに準ずることになります*8。
テレビのテロップではEの形をよく見かけますが(NHKのニュースだけらしい)、何故わざわざこうするかわかりません*9。印刷物には不要です。

デザイン差について。

同じちょんちょんでも、書体により多少のデザイン差があります。
横組みのちょんちょんには、縦に並ぶものAと横に並ぶものBがあり、Bには、上上に付くタイプと上下に付くタイプがあります。混在させたくないところです。
写植の文字盤を見ると*10、縦に並ぶAがモリサワ系、横に並び、上上と上下があるBが写研系と言えそうです*11。Aはあまり見映えが良くない気がしますが、縦組みと横組みで同じ字形デザインになるのが利点ではあるでしょう。ところが、モリサワの書体でもOTFではCのような斜め45度の形が採用されています(Bの上上キャラクタもある)。意図は不明で、まるでデザインを放棄したかのよう。明らかに改悪です。→追記:2022新書体でまともな字形に修正されました。
また、ダブルクォーテーションマークも、Dのように書体によるデザイン差があり、必ずしも66 99な形になっているわけではありません。


追補1:書き漏らしましたが、プログラミング等で使われる半角の「" "」はまた別物で、「起こし」と「受け」の区別はないし、それで構いません。ただ、これを通常の欧文組版に使うのは間違いです。
追補2:ここではあくまで「出版物」「本」の話をしています。チラシや広告などは「縦組みの本」でも「横組みの本」でもないので、当該ルールは一概に当てはめられないのかもしれません(まあ、広告にははずかしい間違いが多いのですけど)。

以下、注釈部は蛇足的説明。

*1:「ダブルミニュート」という呼び方がありますが、意味不明です。和製英語みたいだし。おそらく一部の印刷現場だけで使われていた言葉なのでしょう。この呼び名もDTP以降広まってきている気がしますが、できれば印刷業界内だけの用語にしておきたい。個人的には「ノノカギ」という呼び方が間違いがなさそうで良いと思っています。「二重引用符」とも。ちなみにユニコードでは「ダブルプライムクォーテーションマーク」という名前になっているようです。

*2:「引用符」とは言うものの、引用部に使われているかというとそうでもありません。単に強調に使う場合もあります。文中に「自分の言葉でない言葉」や「本来の意味とは違う(かもしれない)言葉」を挿入するときに使われている感じです。「」をセリフ、『』を書名に使うと、意味を「括弧に入れる」ための記号が「ちょんちょん」しか残らない、ということなのかもしれません。

*3:と断言してみたが、2の右の形は結構古い文献にも登場するので、あながち間違いとも言いづらいところはあります。が、それは昔は表記法が確立していなかったからだということにしておきましょう。つまりは「退行」です。写植の登場で表記法は確立し、DTPでやや逆行した。とりあえずそういう理解でいいと思います。明確な「デザイン処理」としてであればアリかもしれませんが。さらにあえて言えば横組みの本の縦組み部分で使うのはアリなのかもしれないわけですが、そこまでして使う必要もないでしょう。

*4:上上タイプと上下タイプがあり、出版社ごとに?違っていたりします。上上タイプのほうが多数派でしたが、今は混沌としています。OTFでは上下タイプがデフォルトなので、今後はこちらが主流になると思います。

*5:ただし、版元によっては、縦組みの本の中でも横組み部分は横組み組版のルール(アラビア数字使用、カンマ・ピリオドなど)を厳格に適用することもありますね。これを否定するものではありません。

*6:欧文というか英文ですね。

*7:欧文組版において複数の言語が混在する場合、それぞれの言語の引用符を使い分けるといいます。日本語組版でも同じです。ただし、文中に頻出する場合など、文脈により、使い分けをしないで1の和文用引用符に揃えることも考えられます。

*8:何故3を使わず4なのか。これは横組みの本(特に理工系の本)で「、。」の代わりに「,.」を使うのと同じだと考えれば理屈に合います。では、横組みで「、。」方式ならば3が良いのではないか。まあそう言う理屈になるかも知れないが……。理工系でない普通の本でも横組みが採用されるようになってから、まだ歴史が浅いということでしょう。

*9:TVは解像度が低いため濁点と見分けられるように配慮した、との説があるようです。

*10:もちろん所有してるわけじゃないので、朗文堂の見本帳から。

*11:だからしてヒラギノは写研系、小塚はモリサワ系なわけです。