日本が北朝鮮に宣戦布告した件について

 えーと、どう見ても、日本が北朝鮮に宣戦布告してるようにしか見えないんですが。解釈改憲ってもう終わってたのか?

 というわけで。山口二郎先生、今までお疲れさまでした。あなたの役割は2009年3月27日をもって終了しました。

 訳者あとがきβ版:「【転載】朝鮮の人工衛星を利用した日本政府の好戦的政策をやめさせよう!」
 http://d.hatena.ne.jp/mujige/20090329/1238277674

 上のエントリー(に転載されている要請文)に補足を。たとえ、日本のミサイル防衛システムで北朝鮮人工衛星を100%撃ち落とすことができて、北朝鮮への経済措置の効果が確実に見込まれて、朝鮮総連北朝鮮政府と関係を持っているとしても、北朝鮮人工衛星に対して迎撃態勢を取ったり、北朝鮮への経済制裁を強化したり、朝鮮総連の資産を凍結したりすることは、やめるべきです。

 それにしても、北朝鮮に関する報道は、日経を含め各紙とも似たり寄ったりで、社説だけ読んでいると、どの新聞を読んでいるのかわからなくなってくる。まるで小室哲哉の曲のようにベースラインがそっくりなのだ。

 今回は、その中から山口二郎がコラムを連載している東京新聞のバグ取りを。

北朝鮮への宣戦布告―東京新聞 remix―

 http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2009032802000063.html

北朝鮮ミサイル 揺さぶりに動じるな
 やはり北朝鮮は「人工衛星」と称して、ミサイルを発射するようだ。浮足立っては北朝鮮の思うつぼだ。備えるべきは備えて、日米韓は協力して、地域安定への努力を重ねてほしい。

 「やはり宮崎駿は「最後の作品」と称して、ロリコン映画を作り続けるようだ。浮足立ってはスタジオジブリの思うつぼだ。備えるべきは備えて、全国のPTAは協力して、上映阻止への努力を重ねてほしい」みたいな。いや、別に宮崎駿じゃなくてもいいんだけどさ。こういう差別と偏見が北朝鮮に対しては違和感なく表明・受容されちゃう日本社会って、相当おかしいんじゃない?

 まずタイトルから変だし。各紙とも北朝鮮が打ち上げるのは「実質的なミサイル」だっていう前提に立ってるけど、人工衛星をミサイルと同一視するなら、日本は世界第三位のミサイル発射国になりますから。北朝鮮が宇宙条約に加入して、人工衛星の打ち上げを事前に通告してるのも、日韓米を「揺さぶ」るためじゃなくて、逆に日韓米の過剰反応を抑えるためでしょ。

 「朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)の朝鮮中央通信は3月12日に、朝鮮が最近いわゆる宇宙条約に加盟したことを報道した。これは、朝鮮が計画している人工衛星の打ち上げに対して、日本、韓国、米国が軍事目的の弾道ミサイルの打ち上げとして過剰反応し、日本政府にいたっては、朝鮮がロケットを発射する場合には迎撃して打ち落とすとまで言いだしていることに対抗する行動であることは明らかである」

 「宇宙条約第1条は、宇宙の平和利用は「全ての国がいかなる種類の差別もなく…自由に探査し及び利用することができる」権利であることを認めており、宇宙の平和利用の権利はこの条約に加盟するか否かに関わらず、全ての国に認められる。しかし、この条約に加盟すれば、朝鮮の予定している人工衛星打ち上げが条約上も反論しようのない平和目的のものであることを明らかにすることができる点で、賢明な行動と言えるだろう」

 朝鮮新報:「朝鮮の人工衛星打ち上げ計画、日本の異常な反応をどう見るか」
 http://www1.korea-np.co.jp/sinboj/j-2009/04/0904j0319-00002.htm

 衛星情報によると、北朝鮮日本海側にある舞水(ムス)端里(ダンリ)で弾道ミサイルを発射台に設置した。
 日米韓をはじめとして、発射取りやめを呼び掛けてきたが、北朝鮮は通告通り四月四日から八日の間に発射を強行するようだ。

 正確には、日本がしてきたのは呼びかけじゃなくて恫喝で、日米韓のスタンスにもかなりの差があるんだけどね。例えば、水島朝穂は米国の反応を以下のように分析しています。

 「・・・ただ、人工衛星か軍事ミサイルかどうかは、技術的には区別しづらい。今回、米国は意外に冷静である。このタイミングでの「人工衛星」騒動は、北朝鮮による米国への外交的ラブコールではないのか。北朝鮮という国の意図を、オバマ政権は見抜いているからこそ冷静なのだろう。この騒動は、ミサイル防衛(MD)が「壮大なる無駄」であることが分かってしまうことを避けるための恰好の機会ともなり得る。その意味で北朝鮮は、日本国民の税金を使ってミサイル防衛 (MD)を完成させ、米軍需産業を富ませることで、米国を助ける。北朝鮮らしい、歪んだ外交パフォーマンスなのかもしれない」

 平和憲法のメッセージ:「弾道ミサイル等に対する破壊措置」命令について
 http://www.asaho.com/jpn/

 これを受け、政府はミサイル防衛(MD)を発動する「破壊措置命令」を決定した。国外からの脅威に対して、領域防衛のため自衛隊動員を決めたのは初めてだ。
 失敗してミサイルや破片が領土領海へ落ちてきた場合に撃ち落とすためである。実際に北朝鮮の長距離ミサイルは、これまで失敗し墜落したことがある。
 万一に備えるのは当然だ。住民への迅速な連絡も重要である。ただ、いたずらに国民の不安をあおらないよう努めてほしい。冷静な対応が望ましい。われわれメディアも心掛けたい。

 いやー、宣戦布告しておいて、「冷静な対応が望ましい。われわれメディアも心掛けたい」って、70年以上前に流行った言説*1なんだけどね。

 北朝鮮は、今回の発射を「通信衛星を運搬するロケット」と説明しているが、このロケットは長距離弾道ミサイルテポドン2」改良型とみられている。
 従って、国連安保理決議の「ミサイル開発に関連するすべての活動停止」に反する。

 「これまで日米韓は、国連安保理決議1718が朝鮮に対して「弾道ミサイル計画に関連するすべての活動」を停止することを求めていることを根拠に、人工衛星打ち上げもミサイル計画に関連があり、この決議に違反すると主張して、朝鮮の計画に反対してきた」

 「しかし、「弾道ミサイル計画に関連するすべての活動」という文言が宇宙の平和利用の条約上の権利をも奪いあげる、と読むことにはどう見ても無理がある。そもそも安保理に、すべての国家に普遍的に認められる権利の行使まで禁じる権限があるとは思えない」

 「すでに米国のブレア国家情報長官は、10日の上院軍事委員会の公聴会で、「北朝鮮が発射しようとしているのは宇宙発射体(space- launchvehicle)」「北朝鮮が宇宙発射を行うと発表したことを私は信じようと思う」と述べた、と韓国の聯合ニュースは伝えている」

 「日韓の強硬姿勢に歩調を合わせてきた米国だが、そろそろ軌道修正を図ろうとしている可能性を窺わせる。中国、ロシアが共同歩調を取る可能性も極めて低いので、米国としても落としどころを考える必要に迫られているはずだ」

 朝鮮新報:「朝鮮の人工衛星打ち上げ計画、日本の異常な反応をどう見るか」
 http://www1.korea-np.co.jp/sinboj/j-2009/04/0904j0319-00002.htm 

 北朝鮮はこうした批判に強く反発し、制裁決議や議長声明を出すならば、「敵対行為」とみなし、「六カ国協議はなくなる」という外務省声明を出した。
 強硬姿勢を誇示するのは、今回の発射をミサイル技術の向上とともに、「外交カード」に使おうとしているからだろう。
 米国のオバマ政権に早期の米朝協議を求め、六カ国協議でも主導権を確保するのが狙いだ。

 「強硬姿勢を誇示」しているのは、北朝鮮よりも日本の方だろう。もちろん、ここには日本の世論も含まれる。

 「麻生首相は「人工衛星でも迎撃する」(麻生首相、3月3日付各紙)と、妙にいきがった態度をとっている。北朝鮮というやっかいな国に対して、「人工衛星でも迎撃する」という安易な発言をすることが、外交カードを何枚も失う結果になることに気づかない」

 「しかも、破壊措置命令は首相主導とされ、麻生派議員は北朝鮮の動きを支持率上昇の「神風」になると語ったという(『朝日新聞』3月28日付「時時刻刻」)。「変なものが〔日本の〕間近に落ちるなんてことがあった方が、日本人は危機感、緊張感を持つ」(石原慎太郎東京都知事、各紙3月28日付)という発言と合わせて、不純な動機が見え隠れする」

 平和憲法のメッセージ:「弾道ミサイル等に対する破壊措置」命令について
 http://www.asaho.com/jpn/ 

 北朝鮮の横車を許さないためには、何より日米韓の連携が不可欠だ。「人工衛星」打ち上げが安保理決議違反という認識では一致しているが、制裁など具体的対応については違いがある。
 三国の六カ国協議代表の協議はワシントンなどで行われているが一層の意思疎通が大事だ。
 ミサイル開発に歯止めをかけ、核開発を放棄させる作業は、北朝鮮のこのところの強硬姿勢で困難さを増している。
 中国、ロシアなどにも協力を呼び掛け、国際社会の意向を北朝鮮に伝える必要がある。

 六カ国協議が難航しているのは、むしろ「「拉致問題の解決なくして日朝国交正常化はなし」という議論にしがみつく日本が、朝鮮に対する20万トンの重油提供の約束をまったく履行していないため」で、国際的な批判にさらされているのは、控え目に言っても北朝鮮だけではない。

 「日本について言えば、「北朝鮮脅威」論を言いつのらないと、1990年代から推進してきた日米軍事同盟の変質強化を正当化する口実を失いかねない(日米同盟の真の狙いは台湾問題がある中国なのだが、日米とも「中国が脅威だ」とはおおっぴらに言えない事情があり、朝鮮は身代わりにされてきたのだ)。だから、朝鮮の人工衛星打ち上げを何としてでも弾道ミサイルと言い張りたいわけだ」

 朝鮮新報:「朝鮮の人工衛星打ち上げ計画、日本の異常な反応をどう見るか」
 http://www1.korea-np.co.jp/sinboj/j-2009/04/0904j0319-00002.htm  

 そもそも、北朝鮮は宇宙条約に加盟しているのだから、北朝鮮に対して計画の見直しを求める正当な理由があるなら、宇宙条約の第九条*2に則って国際的な協議を要請すればよい。そうした手続きを無視して、北朝鮮の「ミサイル」を迎撃すると息巻いている日本は、世界から見れば相当不気味な国だと思う。

 「日本国内に、政府の異常な行動を批判する健全な世論が存在していないことも問題を増幅している。むしろ伝統的なアジア蔑視、なかんずく朝鮮蔑視の感情が根強い。そして、自らの歴史(負の遺産)をふり返ろうとしない国民感情も存在する。しかも、マスメディアが日本政府の言い分を丸呑みし、朝鮮バッシングをあおり立てる役割しか果たしていない」

 「しかし、宇宙条約に加盟した朝鮮が国際ルールに従って人工衛星を打ち上げることになれば、日本がいつまでも悪あがきを続けることは無理になるだろう。国際的に日本の異常さが際だつことになりかねない」

 「もっとも突き放してみれば、その方が客観的にはいいのかもしれない。国を挙げて「北朝鮮バッシング」にふけっていることの異常性を否応なしに気付かされたときにはじめて、国民的な反省が起こるかもしれない。とにかく「外圧」には弱い国民性だから」

追記

 宇宙開発について、日本は、軍事と民生のあいだに境界線を引く努力を放棄することで、宇宙の軍事利用への道を開いてきた。その典型的な主張は以下のようなものである。

 「宇宙開発利用の特色は、その軍民両用性にある。急速な宇宙技術の発展をまえに、軍事利用と民生利用の境界は曖昧なものとならざるを得ず、活動を「非軍事」の範囲におさめておくことは不可能であった。「非軍事」利用解釈は、早晩、現実に妥協をして緩められざるを得なかった」

 青木節子:「日本の宇宙戦略−宇宙基本法の課題」
 http://www.rips.or.jp/from_rips/rips_eye/no094.html

 ここで主張される技術の二面性は、自国(日本)による宇宙の軍事利用を正当化する一方で、他国(北朝鮮)による宇宙の平和利用を妨害する根拠になっている。こうしたダブルスタンダードを用いる限り、北朝鮮が日本を信用できないと思うのは当然だろう。

*1:たとえば、1937年7月21日付『東京朝日』社説「支那の挑戦的回答」(主権を主張した中国に対して「その調子のあまりに挑戦的であって、必要以上に興奮状態に陥っているといはねばならぬ。かくては平和破壊の責任は当然支那が負うべきであらう」「救うべからざる最後通牒に向かって自らを追い込むことになるであろう」)とか。

*2:条約の当事国は、他の当事国が計画した月その他の天体を含む宇宙空間における活動又は実験が月その他の天体を含む宇宙空間の平和的な探査及び利用における活動に潜在的に有害な干渉を及ぼすおそれがあると信ずる理由があるときは、その活動又は実験に関する協議を要請することができる。