木走日記

場末の時事評論

「アルジェリア 強行しかなかったのか」(朝日新聞社説)に反論する〜禅問答のような「人命第一」という大儀を掲げるだけでは冷徹な現実の前には無意味だ!!

 うむまだまだ情報が錯綜する中で、事件の全貌の骨格を示しているだろう重要な証言が当事者から出始めました。

 現時点で報道されている内容を時系列に整理してみましょう。

 21日付け時事通信記事から。

事件発生直後、邦人9人殺害か=日揮勤務の現地職員語る―アルジェリア
時事通信 1月21日(月)1時24分配信

 【ロンドンAFP=時事】アルジェリア人質事件の犯行グループが襲撃した南東部イナメナスの天然ガス関連施設で、プラント建設大手「日揮」の従業員として働いていた一人が20日、AFP通信に対し、16日の事件発生直後に日本人9人が殺害されたと語った。
 職員の名はリアド氏。襲撃してきた武装集団は、日本人の居住区域に向かい、逃げようとした日本人3人をまず射殺。米国風の英語で「ドアを開けろ」と叫んで武装集団が発砲したところで、さらに2人が死亡。リアド氏らはその後、居住区域内で「さらに4人の遺体を見つけた」と言葉を詰まらせながら語った。 

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130121-00000008-jij-m_est

 この「日揮」の従業員リアド氏の発言の骨子、「襲撃してきた武装集団は、日本人の居住区域に向かい、逃げようとした日本人3人をまず射殺。米国風の英語で「ドアを開けろ」と叫んで武装集団が発砲したところで、さらに2人が死亡。リアド氏らはその後、居住区域内で「さらに4人の遺体を見つけた」と言葉を詰まらせながら語った」をもって、「16日の事件発生直後に日本人9人が殺害された」との発言と要約しています。

 さてリアド氏の発言ですが20日付け産経記事では解釈を異にしています。

「日本人9人が処刑」 アルジェリア人現地スタッフ
2013.1.20 21:55 [中東・アフリカ]

 フランス通信(AFP)は20日、アルジェリア南東部イナメナスの天然ガス関連施設で日本人らがイスラム過激派武装勢力に拘束された事件で、アルジェリア人現地スタッフの同日の話として、軍が施設を包囲してから2度目の制圧作戦が終了するまでの間に、「日本人9人全員が殺された」と伝えた。

 これに先立ち、アルジェリア内務省は19日夜(日本時間20日早朝)、外国人を含む人質23人と犯行グループ32人の計55人が死亡したと明らかにした。内務省はこのほか、アルジェリア人685人、外国人労働者107人が解放されたことも発表した。ただ、アルジェリアのサイード通信相は20日、「死者数が(23人から)増える恐れがある」と指摘している。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/130120/mds13012021560009-n1.htm

 情報源がフランス通信(AFP)であることとアルジェリア人現地スタッフが「日本人9人全員が殺された」との発言内容から、時事通信記事と同じリアド氏の発言を取り上げているものと思いますが、こちらは殺害の時間は「軍が施設を包囲してから2度目の制圧作戦が終了するまでの間」と解釈、時事通信記事の「事件発生直後」とは異にしています。

 21日付けスポーツ報知記事がおそらく同じ情報源であるフランス公共ラジオの報道を伝えています。

「日本人9人殺害」仏公共ラジオ報じる…アルジェリア人質事件
スポーツ報知 1月21日(月)7時2分配信

 アルジェリア人質事件で、プラント建設大手、日揮(本社・横浜市)のアルジェリア人スタッフら2人が20日、日本人9人が事件発生の16日に殺害されたと証言した。フランス公共ラジオが報じた。同情報について日本政府、日揮は確認していない。アルジェリア内務省は、これまでに人質23人と武装勢力メンバー32人が死亡したと発表しているが、人質に日本人が含まれるかどうかは不明だ。

 フランス公共ラジオが伝えた、アルジェリア人スタッフらの証言によると、南東部イナメナスのガス田施設を襲った武装勢力は16日、空港に向かっていたバスから逃げようとした日本人3人を殺害。「水曜日(16日)朝5時半ごろ、一斉射撃の音を聞いてみんな怖くなった。その後(武装勢力は)バスから逃げ出そうとした同僚の日本人を殺したと分かった」という。

 さらに別の日本人6人が居住区内で殺害されたという。証言によると、武装勢力は、くぎ抜きのようなものを手にやってきて、日本人の部屋に向かった。内部のことによく通じていたという。テロリストの一人が北米風の発音の英語で「ドアを開けろ」と叫んだ。銃を撃ち、2人の日本人が死亡したという。これとは別に、施設内で日本人4人の遺体を見つけたと証言した。アルジェリアのテレビも、日本人9人が武装勢力に殺害されたと報じている。

 また、アルジェリア国営通信などによると、最終作戦中に外国人人質7人と犯人側の11人が死亡。地元テレビは、死者のうち1人は日本人だと報じた。地元テレビによると、最終作戦で人質の日本人1人、米国人2人、英国人1人、ベルギー人3人が犯人側に処刑されたため、軍が犯人側11人を殺害したという。

(後略)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130120-00000199-sph-soci

 記事によれば、「武装勢力は16日、空港に向かっていたバスから逃げようとした日本人3人を殺害」、「さらに別の日本人6人が居住区内で殺害された」時間は不明ですがそれが16日ならば時事通信記事の「16日の事件発生直後に日本人9人が殺害された」解釈が正しいことになり、残り6人が殺害されたのが軍事作戦が発生した17日以降であれば産経記事の「軍が施設を包囲してから2度目の制圧作戦が終了するまでの間」とも解釈可能になります。

 報道されている内容を時系列に整理します。

 イナメナスの天然ガス施設は「ガスプラント側」と「居住区側」に分かれています。

 武装勢力は16日早朝「居住区側」を襲います。

 水曜日(16日)朝5時半ごろ空港に向かっていたバスから逃げようとした日本人3人を殺害、「さらに別の日本人6人が居住区内で殺害され」ますが、その時間が16日なのか軍事作戦が行われた17日以降なのかは現段階で特定できません。

 いずれにせよ最初の軍事作戦が行われた「居住区内」で9人の日本人が殺害されています。

 「居住区側」を制圧された武装勢力は何人かの人質を道連れに「ガスプラント側」に立てこもります。

 ここで最終的な軍事作戦が展開、外国人人質7名と犯人側11人が死亡します。

 アルジェリア国営通信によれば最終作戦で犠牲になった外国人人質のうち一人が日本人であります。

 「居住区内」で9人、「ガスプラント側」で1人、計10人の日本人犠牲者が出た模様であります。

 この10名という数字は、現時点で安否不明とされておる日本人の数と残念ながら完全に符合します。

 ・・・

 事件発生翌日に軍事作戦開始という今回のアルジェリア政府のとった強行策に対して、日本国内の一部から「アルジェリア政府は人質の救出より、武装集団の全滅を優先したのでは」との批判があります。

 例えば19日付けの朝日新聞社説です。

アルジェリア 強行しかなかったのか
http://digital.asahi.com/articles/TKY201301180512.html?ref=comkiji_txt_end_s_kjid_TKY201301180512

 社説は「強硬策に出れば、人質に犠牲が出かねないことは予想していたはず」とアルジェリア政府の強行策を批判します。

 報道によると、人質を連れて車で逃げようとした武装集団に向けて、白昼、空爆が始まった。人質はテープで口をふさがれ、首に爆発物を巻き付けられていたという。
 そうした状況が本当なら、アルジェリア政府は人質の救出より、武装集団の全滅を優先したと見られても仕方あるまい。
 過去の人質事件を振り返ると、事態の打開を図るため、まず犯人側との交渉に集中することが多い。特殊部隊による救出を行う際も、周到な準備の末に多くは暗闇の中で行われた。
 政府は武装集団との交渉を拒む方針を示していた。作戦はそうした姿勢を貫くものだ。強硬策に出れば、人質に犠牲が出かねないことは予想していたはずである。

 確かにアルジェリア政府軍は人命軽視のロシア流テロ対策を取っているとの分析があります。

 英紙ガーディアンは、同国軍幹部には旧ソ連で訓練を受けた者が多く、ロシア流のテロ対策をとっているとの専門家の分析を紹介、02年にモスクワの劇場を武装勢力が占拠した際、ロシア治安部隊の制圧作戦で人質約130人が死亡した事件との類似性を指摘しています。

武力鎮圧へのこだわり 背景に軍・治安機関の影響力
2013.1.20 22:59
http://sankei.jp.msn.com/world/news/130120/mds13012023010013-n1.htm 

 アルジェリア政府軍が「人命軽視」のロシア流テロ対策を取っているとしてその問題を提起することは意義はありましょう、しかし朝日社説が見落としているのは、そもそも軍事作戦を強行していなくても、武装勢力側は事件発生直後に少なくとも3名の日本人を殺害している事実です。

 「人命軽視」は政府軍だけではないのです。

 平和ボケしている日本では「人質」は身代金要求の元ですから武装勢力は人質を安易に殺さないという神話があるわけですが、今回のような大規模なテロによる大人数の人質確保においては武装勢力にとり各人質の価値よりも作戦遂行のほうが重要です、そして長くテロと戦い続けてきたアルジェリア政府軍が「人質の人命を重視」などしてくれないことなど武装勢力側も百も承知していたはずでしょう。

 朝日社説タイトルの問いかけ「アルジェリア 強行しかなかったのか」に対して「強行しかなかった」と言い切る材料は現在のところ無いのは確かです。

 しかし「強行しなかった」場合を仮定しても人質の犠牲者を減らせたかどうかははなはだ疑問です。

 朝日社説はこう結ばれています。

 安倍首相をはじめ日本政府はアルジェリア側に人命第一という方針を伝え、強行しないよう求めた。こうした考えが顧みられなかったのは残念だ。
 再発を防ぐためにも、政府や経済界は事件から教訓を導き出してほしい。

 「人命第一という方針」を否定する政府などいないでしょう。

 しかし「テロリストとは一切交渉しない」方針は、長く武装集団と戦ってきたアルジェリア政府にとって譲ることは出来ない政府が成り立っている根幹を成すテーゼであったことでしょう。

 朝日社説の批判、「アルジェリア政府は人質の救出より、武装集団の全滅を優先したと見られても仕方あるまい」、そういう側面があったことは否定しませんが、朝日社説の結び、「政府や経済界は事件から教訓を導き出してほしい」では、何も具体的な対策を提示していないのと同値です、残念です。

 「アルジェリア 強行しかなかったのか」

 強行しかなかったかどうかは現時点で判断できません。

 ただアルジェリア政府がたとえ強行しなくても残念ながら複数の日本人犠牲者は出ていたことでしょう。

 禅問答のような「人命第一」という大儀を掲げるだけでは冷徹な現実の前には無意味です、ぜひメディアには現実に起こっていることに即した具体的論説を望みたいと考えます。



(木走まさみず) 

暴言が止まらない〜麻生太郎氏の残念な「不治の病」

 本日はダブルエントリーであります。

 21日付け産経新聞電子版速報記事から。

麻生副総理「さっさと死ねるように」 高齢者高額医療で

2013.1.21 13:08 [社会保障]
 麻生太郎副総理兼財務相は21日開かれた政府の社会保障制度改革国民会議で、余命わずかな高齢者など終末期の高額医療費に関連し、「死にたいと思っても生きられる。政府の金で(高額医療を)やっていると思うと寝覚めが悪い。さっさと死ねるようにしてもらうなど、いろいろと考えないと解決しない」と持論を展開した。

 また、「月に一千数百万円かかるという現実を厚生労働省は一番よく知っている」とも述べ、財政負担が重い現実を指摘した。

http://sankei.jp.msn.com/life/news/130121/trd13012113100011-n1.htm

 うーん、麻生太郎副総理が「死にたいと思っても生きられる。政府の金で(高額医療を)やっていると思うと寝覚めが悪い。さっさと死ねるようにしてもらうなど、いろいろと考えないと解決しない」と持論を展開したそうですが、うーん、久しぶりに麻生さんの暴言が披露されてしまいましたね。

 おそらくは、文脈的に尊厳死絡みだとは思うのですが、思えば、昨年の自民党総裁選の時に石原伸晃氏がテレビ朝日・報道ステーションでは生活保護のことをネットスラング「ナマポ」と発言したり、社会保障の政策論で「尊厳死」を唐突に持ち出したり、とちょっと大丈夫かしらと国民を不安にさせ見事失脚いたしましたことを思い出しますな、尊厳死も医療費削減も大変重要なテーマであり、だからこそそこは慎重に分離しなければならない問題でもあり、尊厳死と高額医療費の問題を「さっさと死ねるように」との軽口で結び付けてしまうのは、これは政治家の発言としては脇が甘いと批判を受けることでしょう。

 当ブログでは「石原伸晃氏の一連の暴言・失言は絶対に止まらない理由」と題して総裁選当時の石原伸晃氏が暴言・失言を繰り返したその理由を分析したエントリーを当時掲載して、ネット上で読者から少なからずの賛同とともにお茶目な分析との失笑をも賜りました。

2012-09-14 石原伸晃氏の一連の暴言・失言は絶対に止まらない理由
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20120914

 当時の分析内容を引用します。

 私は石原伸晃氏の一連の暴言・失言の理由を理解しております。

 彼はパパ似なんです。

 私から言わせてもらえば、この症状は、金持ちの家に育った男兄弟のわがままな長男坊がよく発症する「病気」なのです。

 小さいときからわがままに育てられ、かつ将来の家長として弟やお手伝いなどには絶対服従をしいて、日常から常に上から目線、小帝王として家の中で君臨してきたのです。

 他人と話すときに何の配慮も必要のない環境で育ってしまった金持ち長男は、人様がどのようなことで怒るのか、傷ついてしまうのか、一般人なら当然身に着けるべきその常識というモノサシを持っていないのです。

 もちろん金持ちの長男がすべてこの症状になるわけでもないし、また社会人になって失敗から学んで苦労して更生する人もたくさんいますが、この石原親子のようにオヤジがこの病気の場合の長男の疾病率は極めて高いといえます。

 父の価値観に長男はかなっていますから成長の過程で家庭内で更生する機会がないのです。

 石原伸晃氏の一連の失言に「配慮が足らない」とメディアやネットでは批判の嵐ですが、これですね、当の石原氏が一番困惑しているんだと思います。

 だって彼は相当配慮しているのです。

 ただ、「常識」のモノサシがないものだから、どこまでが発言してよくてどこからが顰蹙を買ってしまうのか、その閾値(しきいち)がまったくできていないだけです。

 だから彼は自分が暴言を吐いている自覚は全くなく、あとから批判されて戸惑うばかりなのです。

 ある意味で気の毒な人なのです。

 彼も50を過ぎています。

 更生は難しいでしょう。

 予言しましょう、石原伸晃氏の一連の暴言・失言は絶対に止まりません。

 彼はパパ似です。

 うむ、麻生太郎さんは麻生財閥の御曹司であります、福岡県飯塚市に「九州の炭鉱王」と呼ばれた父・太賀吉氏と母・和子さんの長男として生まれています。

 おそらく、今回の麻生さんの発言も、本人は自分が失言をしたという自覚はないのでしょう。

 麻生さんもまた、金持ち長男に生まれ「常識」のモノサシがないものだから、どこまでが発言してよくてどこからが顰蹙を買ってしまうのか、その閾値(しきいち)がまったくできていないだけです。

 だから彼もまた自分が暴言を吐いている自覚は全くないはずです。

 ある意味で気の毒な人なのです。

 しかし、政治家として弱者の立場に配慮する発言ができないことは、結果として彼に不利益をもたらすことでしょう。

 同じ症状の少数の強者から「よくいった」との称賛を得つつ、しかしより多数の一般者から「あああ、またかよ」と顰蹙(ひんしゅく)を買ってしまうのです。

 彼が提起したい問題は本質的な議論を必要としている重要なテーマも含まれているのであります。

 しかし結果として「さっさと死ねるように」との表現がメディアなどで独り歩きして批判が巻き起こることでしょう。

 結果として麻生さんの「寝覚めが悪い」日々は続くのであります。

 極めて残念な症状ですが、「不治の病」なのです。

 

(木走まさみず)