木走日記

場末の時事評論

そろそろ参議院は「一票の格差」是正を思い切って放棄してみてはいかが

 野党時代に厳しく当時の自公政権に要求・主張してきたことが与党になってことごとくブーメランしちゃっている民主党政権なのであります。

 かつて安倍政権、福田政権がそれぞれ一年足らずで政権を降りたとき、自民党内の「政権たらい回し」するな、衆院の解散・総選挙で民意を問うべし、と勇ましく迫ったわりには、政権交代したとなったらば一年持たず鳩山政権から菅政権にプチたらい回ししちゃったし、今回の参院選敗北を受けても誰も責任を取らないし、挙げ句は「野党とは謙虚に」話し合うなどと急に言い出しましたが、かつて逆の立場だった2007年参院選大勝の後、衆参がねじれ状態となったとき、「直近の民意」を重視すると高らかに宣言し、法案処理や同意人事などで、政府・与党と徹底的に争う姿勢を貫いたことをよもやお忘れではないでしょうネ。

 なんというか、ここまでダブスタが続きこれからも続くことが予想されると、これはもはや「ブーメラン」という単発現象というよりも「地雷原」ですな、しかも自軍が仕込んだ地雷原つまり自爆です。

 もう自ら仕込んだ「地雷原」を強行突破せざるを得ない彷徨える敗軍の歩兵部隊のような様相なのであります。

 揚げ足を取る議論で終わりたくはないのですが、特にこのたびの敗北に対し、誰も責任を取らないのは公党としては無責任のそしりは免れますまい、民間企業相手に20年コンサルしてきた私の経験で言えば、経営者や執行部がこのような責任回避に終始すると組織体のガバナンスは急速に劣化し始めます、けじめがつかなくなるからです。

 特に私が不満なのはこの人事です。

 毎日新聞記事から。

参院選:落選した千葉景子氏、法相は続投 菅首相が方針

 菅直人首相は12日、参院選神奈川選挙区で落選した千葉景子法相について、9月の民主党代表選まで続投させる方針を決めた。仙谷由人官房長官は同日午前の記者会見で「行政の継続性という観点から続けることが望ましい」との認識を示した。

 仙谷氏は「9月の代表選まで今の内閣を継続するか」との質問に対し、「原則としてそういうふうに受け止めていただいて結構だ。首相とのやりとりでそう感じている」と述べ、早期の内閣改造はしない見通しを表明した。【坂口裕彦】

http://mainichi.jp/select/seiji/10saninsen/flash/news/20100712k0000e010069000c.html

 これはないです。

 国会議員ではなく民間から大臣を起用することはあっても、国会議員であった大臣が落選しても民間人として「続投」なんて、しかも9月までというのは過去に例のない話です。

 「行政の継続性という観点から続けることが望ましい」などと仙谷由人官房長官は宣っておりますが、馬鹿いうんじゃないですよ、大臣の行政手腕は選挙で否定されたんです、つまり「行政」を「継続」してほしくないから有権者は投票したということなんじゃないですか。

 ないですって、これは。

 ふう。

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 ところで、です。

 ネットの一部ではこの問題を「一票の格差問題」で語っている論説もあるようです、いわく鳥取と神奈川では票の重みが5倍違う、千葉氏が神奈川で得票した696,729票は一人区でなら十分当選圏である、現に高知県じゃ137,306票で当選している、と言った論であります。

 「一票の格差問題」は国民の基本的権利にも直結する大切な問題であり、県により5倍を越えている参院選の現状は確かに問題があると認識していますが、この大切な問題は個別の選挙の結果と結びつけて議論すべきではありません、議論するならば選挙とは関係なく真摯に議論すべきです、そして今回も神奈川では少なくても現法令下で適法・適正に選挙された結果ですからそれは尊重されなければ成りません、「悪法も法なり」、法相ご自身は謙虚に結果を認めておられるわけです。 

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 で、日本もせっかく二院制を採用しているのですから、この「一票の格差問題」も、衆議院と参議院で分けて議論してもいいと思っているんです。

 私の持論なんですが、参議院にたいし優位性を認められている衆議院では「一票の格差」を徹底的に無くす「装置」を常設して、国民の一票の権利をできうるかぎり平等にしその権利を守るように制度化する、一方で参議院は「一票の格差」是正の追求をもう思い切って放棄して「地域の平等」を全面に唱うのです。

 不肖・木走はこの提案一年前にもしたのですが、お時間のある方はご覧ください。

2009-08-12 「一票の格差」問題を考える
■[政治]「国民の平等」と「地域の平等」、どちらを優先すべきか〜「一票の格差」問題を考える
http://d.hatena.ne.jp/kibashiri/20090812

 アメリカの例を紹介しましょう。

 日本の衆議院に当たるアメリカ合衆国下院(United States House of Representatives 代議院)ですが、435の定員で2年に一度全員が小選挙区から選出されますが、アメリカの50州で行われる下院選挙において、「1票の格差」は今まで1.4倍以内に抑えられています。

 これはアメリカの政治が「1票の格差」を抑制する「公的装置・制度」を確立しているからです。

 アメリカの下院の435議席は10年に1度の国勢調査によって決定される人口の重み付けによって容赦なく数学的統計的処理され50州に分配されます。

 現在アラスカ・ノースダコタ・バーモント・ワイオミングの各州の州選出定員が各1名で最少、カリフォルニア州が最多で州選出定員53名となっています。

 日本でも衆議院選の小選挙区の区割りにおいてはすでに自治体の町単位まで分割されていますので、小選挙区の地域割りを柔軟に実施していくことは技術的にも行政的にも十分可能なはずです。

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 で、日本の参議院に当たるアメリカ合衆国上院(United States Senate 元老院)は定数100名ですが、各州2名の定員が固定的に割り当てられています、もちろん各州の人口は無視されています。

 「一票の格差」というものさしで計れば、人口60万に満たないアラスカ州と約4000万のカリフォルニア州では、70倍の格差が生じています。

 70倍ですよ、日本の参議院の5倍など小さい、小さい(苦笑)。

 アメリカ上院のこの制度は、アメリカでは「コネチカットの妥協」(Connecticut Compromise)と呼ばれています、人口の大小で州の発言権が変わらないように配慮された制度ですね。

 人類史上初めてのペースで高齢化少子化社会に突入しつつある日本です。

 日本列島全体でとらえれば各地で一部都市化と大多数の過疎化が進むことでしょう。

 衆議院はともかく、参議院はアメリカ上院のように「地域の平等」を唱ってしかるべきです。

 これは発想の問題だと思うのです。

 だいたい「1票の格差」だけで語るわけにはいかないことも多いですよね、例えば国連、「1票の格差」を言い出したら国連なんて人口13億4600万人の中国も一票、9929人のツバルも一票ですよ、格差13万倍(苦笑)なんですが、人口13億の中国が「1票の格差」を主張し始めたら間違いなく12億のインドは追随しますでしょ、それこそ「数の暴力」ってもんです。

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 日本では、この「1票の格差」の議論になると、必ず「都市圏VS地方圏」の対立構図が浮かび上がります。

 人口の集中する都市圏に票が偏重される結果として地方圏置き去りの予算配分になってしまうという危惧が「地方圏」から必ずあがります、ただでさえ拡大傾向にある地域格差に配慮すべきであるというのも、一概に否定することはできない説得力を有する主張であります。

 一方都市圏からは、そのような地方圏の主張を、衆議院・参議院を問わず現状都市圏の2倍も高い相対代表指数を持った既得権益の擁護にすぎないとの反発があります、そもそもこの「一票の格差」は国民の権利の平等をうたう憲法の精神に反しているとの「正論」も聞こえます。

 「国民の権利平等」と「地域の権利平等」と優先すべきはどちらか。

 アメリカのように下院は「国民の権利平等」を実現し、上院は「地域の権利平等」を実現する、日本も議会が2院制なのですからこのような具体的な議論をそろそろ党利党略ではなく詰めていく時期なのではないでしょうか。

 そろそろ参議院では「一票の格差」是正を、もう思い切って放棄してみてはいかがでしょうか。



(木走まさみず)